【楽曲解説】交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション(天野正道)
本日紹介するのは天野正道作曲の『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』です。
以前私のnoteで管弦楽全曲版である『交響組曲第2番「GR」』、そして吹奏楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」より 』の解説をしましたが、今回解説をするのは『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』です。
GRシリーズについては複数のバージョンがあり混沌としているため、まず最初に本noteで解説する内容/しない内容を明記しておきます。
本noteで解説しない部分についても別noteにて今後楽曲解説予定です。
[本noteで解説する内容]
・交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション(管弦楽版・吹奏楽版)
[本noteで解説しない内容]
・交響組曲第3番「GR」より(管弦楽版・吹奏楽版)
・「GR」よりシンフォニック・セレクション
・「GR」より明日への希望
・交響組曲"GR"「地球が静止する日」
など
[既にnoteで解説済みの内容]
・交響組曲第2番「GR」(管弦楽全曲版)
・交響組曲第2番「GR」より(吹奏楽全曲版)
■参考音源
・吹奏楽版
井手 詩朗指揮/Kunitachi Wind Orchestraによる演奏
・管弦楽版
天野 正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団による演奏
■一言でまとめると
管弦楽全曲版『交響組曲第2番「GR」』を抜粋し吹奏楽用に編曲したたものが『交響組曲第2番「GR」より』
『交響組曲第2番「GR」より』とは別に『交響組曲第2番「GR」』を吹奏楽用に編曲した別エディションが今回紹介する『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』
『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』は『交響組曲第2番「GR」より』から削除・追加された楽曲がある
■解説
私のnoteで解説するGRシリーズの解説記事3本目となりますが、だんだん混沌としてきましたね。
まずそれぞれの版で何が違うの?という点から説明します。
文字数と見やすさの都合、以降の文章では各版を次の通り表記させてください。
管弦楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」』 → 『GR2』と表記
吹奏楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」より』 → 『GR2より』と表記
今回noteで紹介している『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』 → 『GR2よりトレインチェイス版』と表記
差分を列挙すると以下の通りです。
『GR2より』と『GR2よりトレインチェイス版』で曲順入替および一部楽曲削除がある
『GR2よりトレインチェイス版』では「十傑集出撃せよ!」の序奏が復活し、『GR2より』のAllegro部分が一部カットされている
『GR2よりトレインチェイス版』では「G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号」の終盤コーラス部分のみ使用している
『GR2よりトレインチェイス版』では「大団円へのプレリュード」後に「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」後半コラール部分が抜粋して挿入されている。
『GR2よりトレインチェイス版』では『GR2より』に含まれていない「トレイン・チェイス!〜黒いアタッシュケースの行方〜」が挿入されている。
『GR2よりトレインチェイス版』では「エンディング・テーマ」が『GR2より』とは異なる調・楽譜を使用している。(『GR2』に寄せている)
ここではまず「差分1:『GR2より』と『GR2よりトレインチェイス版』で曲順入替および一部楽曲削除がある」のみ解説します。
※他の差分内容については後ほど触れていきます。
使用楽曲についてですが、『GR2より』で使用されていた楽曲は曲順に以下の5曲でした。
G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号
大団円へのプレリュード
追憶
十傑集出撃せよ
エンディング・テーマ
『GR2よりトレインチェイス版』で使用されている楽曲は曲順に以下の6曲が使用されています。
十傑集出撃せよ
G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号
大団円へのプレリュード
発令!電磁ネット・ワイヤー作戦
トレイン・チェイス!〜黒いアタッシュケースの行方〜
エンディング・テーマ
『GR2よりトレインチェイス版』の1番の特徴は「トレイン・チェイス!〜黒いアタッシュケースの行方〜」の楽曲が丸々挿入されている点です。
それ以外にも『GR2より』には含まれていた「追憶」の楽曲が削除され、『GR2より』に無かった「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」も追加されていることが分かります。
追加・削除された以外の楽曲も細かく見ていくと曲順を入れ替えただけではなく、抜粋箇所の変更などが行われていますが、これは別途細かく紹介していきます。
使用楽曲の差分をまとめると以下の通りです。
■使用楽曲について
以下、楽曲で使われている原曲と合わせて解説していきます。
楽曲の使用時間(x:xx〜x:xx頃の表記)については、以下CDに収録の『GR2よりトレインチェイス版』(佐藤正人指揮/川越奏和奏友会吹奏楽団)の音源を参考にしています。
サントラの曲名の後ろに記載している数字の(n-nの表記)部分は該当のサントラが収録されているCDの番号(=OVAのエピソード番号)と曲順を示しています。
0:00〜2:30頃 → 十傑集出撃せよ(6-7)
『GR2より』では4曲目に使用していた「十傑集出撃せよ」の楽曲ですが、『GR2よりトレインチェイス版』では曲順が1曲目に移動しています。
また、『GR2』に存在し、『GR2より』では削除された序奏部分が復活しています。
序奏部分の復活により、『GR2』のPart1や原曲(サントラ)始まり方に寄せた形となっています。
このまま、『GR2より』と同じく「十傑集出撃せよ!」の音楽が続く…と思いきや『GR2よりトレインチェイス版』では途中一部カット(30小節間で時間にして1分弱のカット)が入ります。
サントラでの中間部以降も丸々カットされています。
上記差分をまとめると以下の図の通りです。
(差分2:『GR2よりトレインチェイス版』では「十傑集出撃せよ!」の序奏が復活し、中間部が一部カットされている)
2:30〜3:30頃 → G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号(5-4)
『GR2より』では1曲目、『GR2』ではPart2の1曲目に使われていた「G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号」ですが、『GR2よりトレインチェイス版』では2曲目に移動しています。
トランペット・トロンボーンによる3連符の掛け合いのファンファーレで始まる印象的な楽曲ですが、『GR2よりトレインチェイス版』ではファンファーレ部分などは丸々カットで終盤の感動的なコーラス部分のみ使用されています。
なお、コーラス部分は『GR2より』と同様、原曲や『GR2』から調が変わっています。
(差分3:『GR2よりトレインチェイス版』では「G.R.発動す!!-G.R.1号vs-G.R.2号」の終盤コーラス部分のみ使用している)
3:30〜5:20頃 → 大団円へのプレリュード(7-1)
低音楽器のロングトーンにスネアなどの打ち込みが加わる伴奏と、それに続くホルンの勇敢な旋律が印象的な楽曲です。
原曲であるサントラから冒頭部分を1分半ほど抜粋している点は、『GR2』や『GR2より』と同様ですね。『GR2よりトレインチェイス版』での変更点は特にありません。
5:20〜6:60頃 → 発令!電磁ネット・ワイヤー作戦(3-9)
『GR2』や『GR2より』では「大団円へのプレリュード」に続く楽曲は「追憶」でしたが、『GR2よりトレインチェイス版』では「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」という楽曲に差し替えられています。
『GR2』のPart2の後半部が「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」→「トレイン・チェイス!~黒いアタッシュケースの行方~」→「エンディング・テーマ」という曲の流れなので、そちらに寄せるためにここで「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」を入れたのかと思います。
『GR2』のPart2で使用されている「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」は原曲(サントラ)ほぼそのままなのですが、『GR2よりトレインチェイス版』では原曲後半の金管楽器によるどこか悲しげなコラール部分のみが使用されています。
(差分4:『GR2よりトレインチェイス版』では「大団円へのプレリュード」後に「発令!電磁ネット・ワイヤー作戦」後半コラール部分が抜粋して挿入されている。)
6:00〜11:50頃 → トレイン・チェイス!~黒いアタッシュケースの行方(1-3)
『GR2より』では採用されなかった楽曲で、 『GR2よりトレインチェイス版』でのメインとも言える楽曲です。
この楽曲はOVAの「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」のエピソード1を実際に見てもらうと分かるのですが、アニメ本編が始まってすぐに(時間にして1〜2分経ったタイミングで)流れ始めるため、非常に印象に残る楽曲です。
視聴者側からすると「これからどんなストーリーがこれから始まるのだろう?」という段階で流れる音楽のため、非常に重要な立ち位置の楽曲であり、ある意味そのアニメの"顔"とも言えるような楽曲とも言えます。
それだけ重要な位置づけの楽曲のため、天野正道氏も相当力を入れて作曲したことが伺えます。個人的には、OVA「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」のために天野氏が作曲した100曲超の楽曲の中でもトップクラスにクオリティの高い楽曲だと思います。
そして、それだけ力が入って作曲されているので当然ですが演奏自体もかなり難しいです。
クラリネットやアルトサクソフォンによる(原曲だと弦楽器によって演奏されていた)疾走感と緊張感のあるフーガ、その後加わってくる木管楽器の16分音符や6連符で縦横無尽に動き回るフレーズ、そしてハイトーンで連発のホルンなどなど…とにかく容赦のない楽譜になっています。笑
弦楽器でも演奏するのが大変そうな譜面ですが、吹奏楽編曲することによってそれを木管楽器に役割を移すのですから、とにかく難易度が高い楽譜です。
(レンタル楽譜の取り扱い元であるCAFUAレコードさんのホームページによると、演奏難易度は『GR2より』が4+なのに対し、『GR2よりトレインチェイス版』は5+と一段上がっています。)
この部分の疾走感や緊迫感をどれだけ再現できるかが、『GR2よりトレインチェイス版』で演奏する際の肝ですね。
(差分5:『GR2よりトレインチェイス版』では『GR2より』に含まれていない「トレイン・チェイス!〜黒いアタッシュケースの行方〜」が挿入されている。)
11:50〜17:40頃 → エンディング・テーマ(3-15)
『GR2』や『GR2より』でもラストの曲として使用されていた「エンディング・テーマ」が『GR2よりトレインチェイス版』でも使用されています。
『GR2より』と『GR2よりトレインチェイス版』で聴き比べると、まず調が異なることに気がつくかと思います。
『GR2より』ではハ長調(C-dur)で演奏されていましたが、『GR2よりトレインチェイス版』では原曲のサントラや『GR2』に合わせて全音上げたニ長調(D-dur)で演奏されます。
※スコアではこちらの調の「エンディング・テーマ」を「終曲(異稿版)」と記載しています。
もう1つ、細かな差分については「エンディング・テーマ」のラスト30秒〜1分ほどを聴き比べると分かります。
原曲のサントラと『GR2より』は最後の伸ばしの音に入る1小節前、管楽器や弦楽器は休符でティンパニの四分音符の「C-G-C-G」のソロとなる小節があることがわかります。
(↓原曲のサントラおよび『GR2より』のラスト)
これに対して『GR2』と『GR2よりトレインチェイス版』はこのティンパニソロの小節が無く、代わりに管楽器の二分音符が8回(4小節間)続く部分が挿入されています。
これによって原曲よりも壮大に、もうひと盛り上がりを見せるラストとなっています。
(↓『GR2』および『GR2よりトレインチェイス版』のラスト)
これによって、「エンディング・テーマ」の楽曲について、
・原曲と調は異なるが、終わり方は原曲と同一の『GR2より』
・原曲と調は同じだが、終わり方は原曲と異なる(『GR2』と同一の)『GR2よりトレインチェイス版』
という差分があることになります。これはどちらを取るか悩ましいですね…。
(差分6:『GR2よりトレインチェイス版』では「エンディング・テーマ」が『GR2より』とは異なる調・楽譜を使用している。(『GR2』に寄せている))
とはいえ『GR2よりトレインチェイス版』の1番の差分は「トレインチェイス」部分の有無だと思うので、演奏の際に『GR2より』と『GR2よりトレインチェイス版』どちらを使用するか迷ったらシンプルに"「トレインチェイス」部分を演奏したいかどうか"で決めれば良いかと思います。
なお、『GR2よりトレインチェイス版』のスコア冒頭の解説には以下の文言がありますので、『GR2より』と『GR2よりトレインチェイス版』内であれば楽曲の再編は可能だそうです。
個人的には『GR2よりトレインチェイス版』をベースにしつつ、「十傑集出撃せよ!」のAllegroカット部分を復活させるが一番しっくり来る再編かと思います。
■収録CD
・天野正道指揮/ポーランド国立・ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ 『天野正道・交響組曲セレクション』[QLM-0005]
参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽版音源の収録CDです。演奏も録音も素晴らしいですが、廃盤?のため入手が難しいです。(フリマサイト等では稀に出品されるので見かけたら入手をオススメします。)
『交響組曲第2番「GR」よりトレインチェイス・エディション』の他には管弦楽版の『交響組曲第3番「GR」より』や『交響組曲第1番』も収録された1枚。
・佐藤 正人指揮/川越奏和奏友会吹奏楽団 『天野正道 交響組曲第1番より』[CAFUAレコード CACG-0042]
吹奏楽版の『交響組曲第2番「GR」よりトレインチェイス・エディション』がノーカットで収録されている(市販されているなかでは)唯一の1枚だと思います。
■最後に
今回は天野正道作曲『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』の解説でした。
管弦楽全曲版、吹奏楽全曲版、そして今回紹介したトレインチェイス・エディションと差分にフォーカスしながらの紹介でしたが、違いは理解できましたでしょうか?
版が複数ありGRシリーズの中でも特に混沌としている「交響組曲第2番」ですが、こちらの解説記事で差分の比較になりましたら幸いです。
残りのGRシリーズは『交響組曲第3番「GR」より』、『「GR」よりシンフォニック・セレクション』などがありますが、こちらも別途解説を行う予定です!執筆に時間がかかるとは思いますが、気長にお待ちください。