![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/163352661/rectangle_large_type_2_80736a1272a2cfe56400dc44e06d5781.png?width=1200)
【CDレビュー】交響組曲《グリム童話》/ブルース・ブロートン(ユージーン・M・コーポロン、福本信太郎/昭和ウインド・シンフォニー)
昭和ウインド・シンフォニーによる海外オリジナル作品の新作を収録したCDが今年も発売されたので紹介も兼ねてCDレビューをします。
CD基本情報
◆タイトル
交響組曲《グリム童話》/ブルース・ブロートン 昭和ウインド・シンフォニー
◆発売日
2024年10月10日
◆収録曲
1.星へ向かう道〈日本初演〉/ロバート・バックリー
2-6.交響組曲《グリム童話》〈日本初演〉/ブルース・ブロートン
Ⅰ.ラプンツェル
Ⅱ.赤ずきん
Ⅲ.躍ってすりきれた靴
Ⅳ.ルンペルシュティルツヒェン
Ⅴ.ブレーメンの音楽隊
7-8.付喪神/ジョン・マッキー
Ⅰ.
Ⅱ.
9-12.シンフォニア/周天(ジョウ・ティエン)
Ⅰ.ノワール
Ⅱ.トランジット
Ⅲ.アリオーソ
Ⅳ.D-O-N-E
13.パッサカリア/フィリップ・スパーク
14.アトミック・タイム/ジェイムズ・M.デイヴィッド
◆演奏
指揮:ユージーン M.コーポロン(1-6,9-12,14)、福本信太郎(7-8,13)
演奏:昭和音楽大学吹奏楽団 昭和ウインド・シンフォニー
(2024年5月29-30日,6月1日 昭和音楽大学「テアトロ・ジーリオ・ショウワ」にて録音)
CDレビュー
こちらのCDは昭和音楽大学吹奏楽団 昭和ウインド・シンフォニーの第25回定期演奏会のプログラムをアンコール含め丸々CD化したものになります。
![](https://assets.st-note.com/img/1732537404-ZvDKdsYINP1TW0UfH6r85uMj.png?width=1200)
昭和ウインド・シンフォニーによる海外オリジナル作品の新作を収録したCDは毎年発売されていますが、今年は例年より演奏会からCD発売までの期間が短いですね。(例年はCD発売が年末〜翌年春頃)
以下、収録曲について一部ピックアップして感想などを書いていきます。
星へ向かう道〈日本初演〉/ロバート・バックリー
CD1曲目はイギリス生まれのカナダ人作曲家であるロバート・バックリーによる『星へ向かう道(原題:The Pathway to the Stars)』です。
演奏会のオープナーにふさわしい華やかで明るい楽曲で、曲の冒頭でトランペットにより提示されたヒロイックなテーマが楽器を変えながら何回も展開していきます。
恥ずかしながらこの作曲家のことを今までほぼ知りませんでした…。手持ちのCDを改めて確認すると以下のCDの『沈黙の木霊(原題:Echoes of the Silent)』という小編成向けの讃美歌をもとにしたスローピースの作品がありました。
上記の作品と比べると今回収録されている『星へ向かう道』は同じ作曲家が書いているとは思えないくらい作風が異なります。個人的には『星へ向かう道』のような明るく華やかな作品の方を書く方が得意な作曲家のように思いました。
交響組曲《グリム童話》〈日本初演〉/ブルース・ブロートン
続いて収録されているのはCDタイトル曲でもある『交響組曲《グリム童話》』。映画音楽などを数多く作曲しているアメリカの作曲家ブルース・ブロートンによる2023年に初演されたばかりの新作です。
約6分程度の5つの組曲から成る30分程度の楽曲で、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』の原作でもある『ラプンツェル』や、日本人なら絵本で1度は読んだことがあるであろう『赤ずきん』などの5つのグリム童話の内容を象徴した作品です。
![](https://assets.st-note.com/img/1732539159-ycMAbxGklrXsBjF8QpwotCHm.png?width=1200)
グリム童話をもとにしている作品のためメルヘンな雰囲気の楽曲、かと思いきやそうではありません。
1曲目『ラプンツェル』、2曲目『赤ずきん』ともに下降系の半音階が特徴的でどちらかというと不安で不気味な雰囲気が多くを占めています。
3曲目『躍ってすりきれた靴』や4曲目『ルンペルシュティルツヒェン』はどちらも原作が馴染みの薄い童話かと思いますがCDブックレットにはおおまかなあらすじが記載されて安心です。
この2曲はいずれもさまざまな楽器のソロの掛け合いが印象的で、音が薄い部分も多く演奏側からするとスリリングな楽曲とも言えそうです…。
「グリム童話」という単語から連想するメルヘンな雰囲気の部分もあるにはあるのですが、全体を通して暗めで不安な雰囲気の楽曲というのが意外でした。
編成の大きい楽曲かとは思いますが、近年の吹奏楽作品にありがちな大編成を活かした大音量な部分は少なく、室内楽アンサンブル的な雰囲気を味わう部分が多かったのも新鮮でした。
付喪神/ジョン・マッキー
作品の解説は以前noteで行っているので割愛。
この作品は今までジョン・マッキー氏のホームページ上の参考音源 or YouTubeといったWeb上でのストリーミング再生でしか聴くことが出来なかったので、ちゃんとCDで聴けるようになったのがありがたいです。
シンフォニア/周天(ジョウ・ティエン)
近年人気急上昇中の周天(ジョウ・ティエン)の『シンフォニア』です。先日noteで紹介した光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部の「長生淳 アド・アストラ」のCDにも収録されており、AppleMusicだとベイラー大学ウィンド・アンサンブルなどによる演奏を聴くことが出来ます。
1楽章「ノワール」や3楽章「アリオーソ」をはじめとして、木管楽器の印象的なソロが多い楽曲ですが音大生ということでさすがの安定感です。
CDタイトル曲の『交響組曲《グリム童話》』の方は正直ちょっと調子悪い?と思ってしまう部分もあるのですが、こちらの楽曲はそのような部分がほぼありません。
特に1楽章「ノワール」のアルト・サクソフォンの技巧的なソロは素晴らしいです。この楽章の緊張感・不安感を強く煽るようなソロがお見事です。
総評
毎年恒例のシリーズのCDではありますが、プロの吹奏楽団によるCDが出にくくなった近年では海外オリジナル作品の新作を紹介してくれるのは非常にありがたい存在です。
まだ日本で知られていない最新作・日本初演の作品だけでなく、近年人気上昇中のジョン・マッキー『付喪神』や周天の『シンフォニア』なども収録しており選曲のバランスがとても良いCDだと思いました。
あと、このシリーズは作曲家で昭和音楽大学教授でもある後藤洋氏の楽曲解説がたっぷり書いてあるのもポイント高いですね。
昭和音楽大学に限らず他の音楽大学も定期演奏会で魅力的なプログラミングをしているので、欲を言えば他の音大もぜひ定期演奏会の音源をCD発売してほしいところですね。