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【吹奏楽曲解説】レッドライン・タンゴ(J.マッキー)
今回も前回に引き続きジョン・マッキー作品の紹介です。今回はマッキーの代表作とも言える『レッドライン・タンゴ』を紹介をしようと思います!
マッキー作品は私のnoteで取り上げるのは『ワインダーク・シー』『アンダートウ』『付喪神』に続いて4作品目です。
『レッドライン・タンゴ』はマッキーの作品の中でも特に知名度が高い人気曲なので私が今更解説するまでも無いかと思いますが、マッキー作品を複数解説する中で自分の整理も兼ねて初期作から順番に追っていきたいという気持ちが出てきたので、今後は極力作曲順に沿ってマッキー作品を紹介しようと思います!
■参考音源
福本 信太郎指揮/昭和ウインド・シンフォニーによる演奏
児玉 知郎指揮/龍谷大学吹奏楽部による演奏
2020年12月25日 ザ・シンフォニーホールにて(龍谷大学吹奏楽部 第47回定期演奏会より)
■作品について
原題:Redline Tango
邦題:レッドライン・タンゴ
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約9分
難易度:難しい(Difficulty - Hard)
出版:Osti Music
初演:(管弦楽版)2003年2月K.イエルビィ指揮/ブルックリン・フィルハーモニー、(吹奏楽版)2004年2月26日 スコット・スチュワート指揮/エモリー大学
吹奏楽版「レッドライン・タンゴ」が出来るまで
レッドライン・タンゴはマッキーが初めて吹奏楽のために書いた作品ですが、元々は吹奏楽オリジナルではなく管弦楽のための作品です。
管弦楽版の演奏はYoutubeで以下の演奏がアップされています。
ブルックリン・フィルハーモニーからの委嘱でまずは2003年に管弦楽版が作曲され、その後2004年に8つの大学のコンソーシアム(共同委嘱)により作曲されました。
このあたりの経緯は以下の東京佼成ウインドオーケストラの第165回定期演奏会(オール《ジョン・マッキー》プログラム)の公演プログラムに詳しく載っています。
管弦楽版のレッドライン・タンゴが元になって吹奏楽版のレッドライン・タンゴが作られた、というのは有名な話ですがもう一つ素材となった作品があります。
2000年にマッキーが作曲した『ブレイクダウン・タンゴ(Breakdown Tango)』という作品です。
『ブレイクダウン・タンゴ』はクラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための室内楽作品で、マッキー自身も『ブレイクダウン・タンゴ』の解説の中で「This work was the source of material for Redline Tango.(この作品は『レッドライン・タンゴ』の素材となった。)」と語っています。
『ブレイクダウン・タンゴ』の音源や以下のYoutubeやAppleMusicで聴くことが出来ますが、ぜひ一度聴いてみてください。素材としている、というよりほぼほぼレッドライン・タンゴそのものという感じで驚くと思います。笑
つまり、吹奏楽版の『レッドライン・タンゴ』が出来るまでの流れとしては以下のようになります。
2000年:『ブレイクダウン・タンゴ』を作曲 (『レッドライン・タンゴ』の基になる)
2003年:管弦楽版『レッドライン・タンゴ』を作曲
2004年:吹奏楽版『レッドライン・タンゴ』を作曲
室内楽用に作曲したものが管弦楽版に、管弦楽版に作曲したものが吹奏楽版にと姿を変えていったことを踏まえると、マッキー自身もこのタンゴの旋律や素材を気に入っていたのだと思います。
結果的に吹奏楽版の『レッドライン・タンゴ』は2004年のウォルター・ビーラー記念作曲賞と2005年のABAオストウォルド作曲賞を受賞し、一躍有名になった訳ですから、良いと思ったものを根気強く繰り返し続けたマッキーの粘り勝ちといったところでしょうか。
「レッドライン」が持つ2つの意味について
曲名の"レッドライン(Redline)"については、2つの意味があると作曲家自身が解説しています。
1つ目の意味は英語の"Redline"そのままの意味で、「エンジンが最大限まで回転する」という意味となります。
最近だと車のメーター(タコメーター)もデジタル表示になっているので、あまり馴染みの無い方もいると思いますが、昔ながらの車のタコメーターを見るとエンジンの過回転域を示す「レッドゾーン」というものが赤色で示されています。
ここまでエンジンを回転させていると要は「エンジンに無理をさせすぎ」の状態ですね。オーバーヒートなどの原因にもなります。
![](https://assets.st-note.com/img/1722588748589-ZCcaG8lLkS.png)
7,000r/min以上は赤色の線となっており、この領域を「レッドゾーン」と呼ぶ。
2つ目の意味はニューヨーク市のIRT地下鉄の"レッド・ライン"と呼ばれている路線名です。作曲当時マッキーが住んでいたマンハッタンと、『レッドライン・タンゴ』の初演が行われたブルックリンを結ぶ地下鉄の名称を曲名に掛け合わせたそうです。
![](https://assets.st-note.com/img/1722854674621-yCoGMtjMzS.png)
(Wikipediaより引用)
楽曲構成
楽曲の構成はABA(+コーダ)の三部形式となっています。急-緩-急の作りでスリリングな音楽の中間に物憂げで気だるいタンゴが奏でられるという構成です。
マッキーの初期の作品ですが、ほぼ毎小節のように拍子が変わるような特徴はこの頃からすでに現れています。
曲は冒頭からマリンバ、ヴィブラフォン、ピアノなどの鍵盤楽器が常に16分音符を刻み続けながら音楽が進行しているのが印象的。
この刻み続ける16分音符が常にフル回転しているエンジンのスピード感を表しているようです。
先日の東京佼成ウインドオーケストラの第165回定期演奏会やサマーミューザ(浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァルワールドドリーム・ウインドオーケストラ)などで実演に接する機会がありましたが、視覚的にも本当に大変そうでまさにフル稼働・フル回転という印象でした…!
この曲はリハーサルマークで言う"A"が出てくるのが48小節目で、前奏部がだいぶ長い作品となります。
この前奏部は所々でバスクラリネットやホルンなどがメロディックなフレーズを一瞬奏でますが、いずれも旋律の断片のようなもので明確な長い旋律が演奏される訳ではありません。
エンジンがかかり始めでまだ本調子ではなさそうな掴みどころのない前奏部となっています。
前奏部が終わると5/8拍子と3/4拍子が交互に出てくるようになります。ようやくここからベースラインや旋律も安定して奏でられるようになります。
ベースラインはひたすら「E-H-G、C-F#-G-F#」という音型を繰り返します。特定のリズム・ベースラインをひたすら繰り返すのもマッキー作品の特徴の一つですね。
(この部分のトロンボーンが1st、2nd、Bassで3パート独立してベースラインを奏でているのですが、書き方がなかなか面白いです!)
前半部はクラリネットなどの木管楽器を主体とした技巧的で流れるような旋律が印象的です。しばらく流れるような旋律が続くと、再び前奏部の音楽が戻ってきますが、金管楽器の合いの手は前奏部よりも激しく入ってきます。
冒頭部分で奏でられていた16分音符の刻みより一層激しい雰囲気になり、特徴的なベースラインがその上に乗っかってきます。
音楽が最高潮まで達したところで突然テンポが落ち、音楽も静かになります。オーボエ、ファゴット、ホルン、ユーフォニアムといった楽器で歌うようなソロが演奏されるとそのまま中間部に接続していきます。
中間部は気だるいタンゴの音楽が奏でられます。この中間部は何と言ってもソプラノ・サクソフォンとE♭クラリネットの主張し合うソロが印象的です。
ソプラノ・サクソフォンのカデンツァ部分も経て、タンゴの雰囲気が続くかと思いきや中間部の後半部では再び鍵盤楽器の16分音符の刻みの"エンジン"が聞こえていつの間にか冒頭の音楽が戻ってきます。
後半部の"急"の部分は前半部と同様スリリングな音楽です。コーダに入る直前(=後半部のクライマックス)、畳み掛けるように同じリズムを全奏で奏でますが音量もfffからクレッシェンドしていくため非常に強烈です。
最後の最後、一瞬だけタンゴ部分に入る時と同じような雰囲気がオーボエとファゴットの伸ばしで奏でられますが、最終的にはエンジンがフル回転の音楽に戻って音楽が閉じられます。
■収録CD
ジョン・マッキーの代表作ということもあり、AppleMusicなどで検索しても複数団体の演奏(もちろんノーカットのもの)がヒットしますが、ここでは敢えて日本のプロ楽団による音源を2つほど紹介します。
どちらも良い演奏なのであとは好みの問題かと思いますが、ライブの勢いがあって曲の雰囲気とも合っているのがオオサカン、セッションレコーディングならではの抜群の安定感なのがTKWOという印象です。
斎藤一郎指揮/東京佼成ウインドオーケストラ
『必勝コンクール!-レッドライン・タンゴ-』[TOCF-56077]
東京佼成によるセッション録音のCD。2007年の録音なので『レッドライン・タンゴ』の録音としてはかなり初期の録音です。
中橋愛生『浅葱の空』やデイヴィット・R・ギリングハム『目覚める天使たち』など、CDのタイトルとジャケットからは想像の出来ない渋い選曲も特徴。
シズオ・Z・クワハラ指揮/フィルハーモニック・ウインズ 大阪(オオサカン)
『吹奏楽のための交響曲「ワイン・ダーク・シー」 -ジョン・マッキー作品集-』[OPWR-002]
『アンダートウ』の楽曲解説でも紹介したフィルハーモニック・ウインズ 大阪(オオサカン)によるライブ録音のCD。
今回紹介したマッキー初期の代表作『レッドライン・タンゴ』に加え、大作『ワインダーク・シー』やトランペット協奏曲「アンティーク・ヴァイオレンス」なども収録されているので、マッキー作品を広く知るためにちょうど良い1枚。
■最後に
今回はジョン・マッキー作曲の初期作でもあり代表作でもある『レッドライン・タンゴ』を紹介しました。
コンクールなどでも演奏される機会が多い作品ですが、ぜひここは上記に挙げたプロによるノーカットの音源を聴いてみてください!