【吹奏楽曲解説】交響組曲第1番(天野正道)
本日紹介するのは天野正道(あまの まさみち)作曲の交響組曲第1番です。
吹奏楽界隈では交響組曲第2番「GR」の方が長い間人気となっていますが、交響組曲シリーズの第1作目である本作を解説します。
■参考音源
・管弦楽版
天野 正道指揮/ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラによる演奏
・吹奏楽版
佐藤 正人指揮/川越奏和奏友会吹奏楽団による演奏
※視聴用音源のため各楽章から2分程度の抜粋音源
■作品について
交響組曲シリーズは天野正道が作曲を手がけたオリジナル・ビデオ・アニメーション(以下、OVAと記載)や、実写映画など映像作品の楽曲を作曲者本人が抜粋・再構築して組曲に編み直したシリーズです。
各交響組曲の抜粋元となった映像作品(カッコ内はジャンルおよび制作年)は以下の通りです。
交響組曲第1番 → 『新海底軍艦』(OVA、1995〜1996年)
交響組曲第2番「GR」 → 『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』(OVA、1992〜1998年)
交響組曲第3番「GR」 → 同上
交響組曲第4番「FI」 → 『秘境探検ファム&イーリー』(OVA、1995年)
交響組曲第5番「NR」 → 『魔界転生』(OVA、1998年)
交響組曲第6番「PN」 → 『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(テレビアニメ、1998年)
交響組曲第7番「BR」 → 『バトル・ロワイヤル』(実写映画、2000年)
交響組曲第8番「SIN」 → 『sin THE MOVIE』(OVA、2000年)
交響組曲第9番「海のオーロラ」 → 『The AURORA 海のオーロラ』(アニメ映画、2000年)
交響組曲第10番「BRII」 → 『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(実写映画、2003年)
交響組曲「MK2」 → 『劇場版 甲虫王者ムシキングスーパーバトルムービー~闇の改造甲虫~』(アニメ映画、2007年)
交響組曲シリーズは基本的に原曲は管弦楽版で、その後吹奏楽版に編曲・再構成が行われる形式となっております。天野正道氏は幅広いジャンルで活躍している作曲家ですが、吹奏楽分野での人気が高いため交響組曲シリーズでも原曲の音源・楽譜よりも吹奏楽編曲版の音源・楽譜の方が入手は容易です。
交響組曲第1番はサブタイトルは付いておりませんが、上記に記載の通り1995〜1996年に制作されたOVA『新海底軍艦』のための音楽を演奏会用に再構成した組曲になります。
吹奏楽版は草加市民吹奏楽団による委嘱で2002年に初演されました。編成は通常の大編成(クラリネットにコントラバスクラリネット、アルトクラリネットを含み、オプションでコーラスあり)ですが、楽器配置は管弦楽編成(※)に寄せた配置が作曲者から指定されています。
※具体的には、フルート・オーボエ・クラリネット・バスーン各2名ずつがソロ楽器扱いでひな壇1段目に配置。
以下、各楽章の解説です。管弦楽版の音源に合わせて解説をしますが、基本的な構成は吹奏楽版も変わりません。(所々弦楽器の旋律が吹奏楽器に割り当てられている程度です。)
なお、吹奏楽版では楽譜の出版に合わせて各楽章のタイトルが削除されていますが、ここでは管弦楽版で付与されていた各楽章のタイトルを併記します。
・第1楽章「大海の記憶」
原曲のサウンドトラックの「1945年、運命の日」が組曲用に拡張された楽曲です。
トロンボーン・テューバのハーモニーの伸ばし、ハープ・ピアノのアルペジオに乗ってコーラス(吹奏楽版だとコーラス無しでも演奏が出来るよう、他の楽器も加わります)による悲しげな旋律が奏でられます。
クレッシェンドの後、テンポが速まりホルン・トランペットなどの楽器で勇敢な音楽が奏でられる場面に映ります。
再び盛り上がりを見せた後、再び暗い場面に戻ります。ティンパニによる心臓の鼓動のような同音連打の上にコーラスが加わります。曲は冒頭のハープ・ピアノのアルペジオに乗ったコーラスの音楽で締められます。
・第2楽章「怒りの海へ」
原曲のサウンドトラックの「南極調査隊発進」と「国連軍のテーマ」を2曲繋げた楽曲です。
弦楽器による16分音符の刻みの上行音型で前奏が奏でられた後、トランペットによるヒロイックなソロが奏でられます。トランペットのソロに印象的なメロディーを書くのは後の交響組曲シリーズにも通ずるものがあります。
その後、チェロなどの中低音弦楽器による哀愁漂う旋律が奏でられますが、突如ティンパニとバストロンボーンなどによる強烈な打ち込みの音型が入り雰囲気が一変します。
このあたりの雰囲気や楽譜の書き方(8分音符打ち込みが続く際に2小節目3拍目裏だけ音を変える・アクセントが付く、トランペットの下行系3連符等)は後の天野作品でもよく出てくる形なので、この頃から"天野作品らしさ"というものが確立されたものだったことが伺えます。
楽曲はそのまま5拍子系のリズミカルな「国連軍のテーマ」の音楽へ。それまでの不穏な雰囲気に打ち勝つような希望のある勇敢な音楽が流れます。トロンボーンの旋律が印象的です。
・第3楽章「戦士達の休息」
原曲のサウンドトラックの「鋼とアネット」がそのまま用いられています。
第1楽章「大海の記憶」で女声コーラスによって歌われた旋律がフルートソロによって奏でられ、その後オーボエ、弦楽器、ホルンと旋律が歌い継がれていきます。
後半部分は一瞬明るい雰囲気の音楽も顔を覗かせますが、最終的には暗く悲しい雰囲気の音楽で静かに曲が閉じられます。
・第4楽章「海竜」
原曲のサウンドトラックの「決戦/太平洋、紅に染まる時(ラ號VSリバティー)」から一部を抜粋し再構築した楽曲です。
パパーン、という強烈なトランペットの咆哮から曲はスタートします。その後徐々に切迫するようにテンポが速くなり、リズムの打ち込みとトロンボーンの重厚感のある旋律が同時に奏でられるカオスな雰囲気になります。曲はそのままの流れで4楽章最後まで続きます。
・第5楽章「大いなる祈り」
原曲のサウンドトラックの「永遠の愛のテーマ~蒼き大海の果てに(ラ號航海のテーマ) 〈メモリー・オブ・オーシャン〉」の後半部分と、「海底軍艦のテーマ(メイン・タイトル)」を繋げて再構築した楽曲です。
前の楽章から一変、明るく輝かしい音楽になります。弦楽器による旋律とそれに合わせて歌われるホルンの朗々とした対旋律が非常に魅力的な楽章です。
輝かしい音楽の盛り上がりが最高潮に達したところで、曲は閉じられる…かのように聞こえますがここから更に続くのがこの組曲の面白い所。「海底軍艦のテーマ(メイン・タイトル)」の音楽が繋げられ1楽章「大海の記憶」と同じ勇敢な音楽がエピローグ的に奏でられ、曲は突然終わります。
■収録CD
・天野正道指揮/ポーランド国立・ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ 『天野正道・交響組曲セレクション』(QLM-0005)
参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽版の収録CD。演奏も録音も素晴らしいですが、廃盤?のため入手が難しいです。
(先日ようやくCDを入手することが出来たので、それをきっかけにこの記事を書くことにしました。)
そのため、フリマサイト等では稀に出品されるので見かけたら入手をオススメします。交響組曲第2番「GR」よりトレインチェイス・エディション、交響組曲第3番「GR」よりも収録された1枚。
・佐藤 正人指揮/川越奏和奏友会吹奏楽団 『天野正道 交響組曲第1番より』
参考音源として紹介したYoutubeの吹奏楽版の収録CD。こちらは管弦楽版より流通量も多く廃盤ではないため入手は容易です。
交響組曲第2番「GR」よりトレインチェイス・エディションの吹奏楽版も合わせて収録された1枚です。
■最後に
天野作品の中でも吹奏楽界隈では交響組曲第2番、第3番、シンフォニック・セレクションなど「GR」関連の楽曲がとりわけ長い期間人気ですが、こちらの交響組曲第1番も天野正道らしさが詰まった魅力的な組曲だと思います。
吹奏楽版の編成はやや大きいですが、近年人気の邦人作品のように打楽器・特殊楽器満載という程ではなく、コーラスもオプション扱いで無しでも演奏できるよう配慮されている(※もちろんあった方が原曲の雰囲気に近づきます)ので、取り組みやすい印象を受けました。
全曲通して24分程度の楽曲ですが1楽章あたり4〜5分で場面転換も明確で聴きやすいので、「GR」だけでなくこちらの交響組曲も取り上げる団体が増えてほしいところです…!