【楽曲解説】「GR」より シンフォニック・セレクション(天野正道)
本日紹介するのは天野正道作曲の『「GR」より シンフォニック・セレクション』です!
私のnoteではこれまで『交響組曲第2番「GR」のシリーズ(管弦楽全曲版、吹奏楽全曲版、トレインチェイス・エディション)、そして交響組曲第3番「GR」の解説を行なってきましたが、いよいよシンフォニック・セレクションまでたどり着きました。
交響組曲第2番シリーズ、交響組曲第3番との違いも含め分かりやすく解説しようと心がけますので、複数バージョンある「GR」の版の違いの整理になれば幸いです。
なお、本作品は大編成版・中編成版と異なるバージョンがありますが、中編成版は大編成版の構成を縮小したものなので、このnoteでは大編成版をベースに解説させていただきます。
[本noteで解説する内容]
・「GR」よりシンフォニック・セレクション
[本noteで解説しない内容]
・「GR」より明日への希望
・交響組曲"GR"「地球が静止する日」
など
[既にnoteで解説済みの内容]
・交響組曲第2番「GR」(管弦楽全曲版)
・交響組曲第2番「GR」より(吹奏楽全曲版)
・交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション(管弦楽版・吹奏楽版)
・交響組曲第3番「GR」より(管弦楽版・吹奏楽版)
■参考音源
・吹奏楽版
浅田亨指揮/浜松交響吹奏楽団による演奏
・管弦楽版
天野 正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団による演奏
■作品について
タイトル:「GR」より シンフォニック・セレクション
作曲:天野正道
時間:約18分
難易度:グレード4+
出版:CAFUAレコード
初演:
・管弦楽版
天野正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団 ※初演時期不明
・吹奏楽版
2001年4月22日 浅田亨指揮/浜松交響吹奏楽団(アクトシティー浜松大ホールにおいて行われた浜松交響吹奏楽団第28回定期演奏会にて初演)
吹奏楽版の『「GR」より シンフォニック・セレクション』は吹奏楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」より』を初演した浜松交響吹奏楽団によって委嘱・初演されています。
『交響組曲第2番「GR」より』の初演が2000年で、本作品の初演が2001年なので2年続けての初演になります。
当初は「交響組曲」の名前を冠していたそうですが、作曲者の意向により後程削除され、現在の作品名となっています。
『「GR」より シンフォニック・セレクション』の吹奏楽版と管弦楽版はどちらが先に作曲されたのかは若干判断が悩ましいです。楽譜の出版元であるCAFUAレコードのホームページを見ると以下の説明があります。
また、管弦楽版の収録CD(2005年発売)の帯には次のような煽り文句があります。
一方、後で収録CDとして紹介する浜松交響吹奏楽団のCDのブックレットには「オリジナルスコアの一部紛失」といったエピソードが触れられています。
このオリジナルスコアが「原曲のサントラのスコア」を指すのか「管弦楽版のシンフォニック・セレクションのスコア」を指すのかで吹奏楽版と管弦楽版の作曲順が入れ替わってきますが、総合的に判断すると作曲順はおそらく吹奏楽版→管弦楽版の順なのかと思います。
■一言でまとめると
OVA全7話の楽曲および「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」から8曲を抜粋したものが『「GR」より シンフォニック・セレクション』
■解説
これまでの解説noteでは以下の内容を解説しました。
サントラ(全100曲超)から17曲を抜粋して作成したものが管弦楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」』
『交響組曲第2番「GR」』から5曲抜粋し、吹奏楽用に編曲したものが吹奏楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」より』
『交響組曲第2番「GR」より』の別バージョンとして、『交響組曲第2番「GR」』から6曲抜粋したものが『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』
OVA全7話の楽曲+「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」の楽曲を使用し、『交響組曲第2番「GR」』シリーズで使用しなかった楽曲を抜粋して構成したものが『交響組曲第3番「GR」』
『「GR」より シンフォニック・セレクション』ではOVA全7話の楽曲および「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」の楽曲からの抜粋・編集となるため、考え方としては『交響組曲第3番「GR」』と同じ考え方ですね。(サントラだけでなくサントラからの拡張楽曲も使用し、シンフォニックな構成)
『交響組曲第3番「GR」』と『「GR」より シンフォニック・セレクション』を比較すると、シンフォニック〜の方が全曲の演奏時間は2分ほど長いです。(交響組曲第3番→16分程度、シンフォニック・セレクション→18分)
また、使用曲数が増えたことで場面の移り変わりが多くなり、聴いていて飽きさせないような構成となっております。
『交響組曲第3番「GR」』は交響組曲第2番シリーズよりシンフォニックな雰囲気となったものの、繰り返しが多いスコアのため構成がやや単調という点が個人的に気になっていました。
ですが、『「GR」より シンフォニック・セレクション』ではその点を解消したスコアになっているので、GRシリーズの決定版とも言える版かと思います。
■使用楽曲について
『交響組曲第2番「GR」より トレインチェイス・エディション』や『交響組曲第3番「GR」』の解説と同様、楽曲の使用時間(x:xx〜x:xx頃の表記)および該当のCDの番号(=OVAのエピソード番号、曲順)についても記載していきます。
なお、楽曲の使用時間については冒頭Youtubeで紹介した吹奏楽版の音源を参考にしています。
0:00〜1:10頃 → 大作のテーマ(3-8)
『「GR」より シンフォニック・セレクション』は「大作のテーマ」という楽曲でスタートします。
アニメの主人公である草間大作のテーマであり、アニメでいう中盤あたり(エピソード3)で流れるトランペットの叙情的なソロが印象的な楽曲です。
これまでnoteで解説してきた交響組曲GRシリーズでは(交響組曲第2番シリーズで使用されていた「エンディング・テーマ」も同じ旋律ではあるものの)使用されていなかった楽曲で、吹奏楽版の「GR」といえばこの楽曲!と思う方も多いのではないでしょうか。
かくいう私もこの非常に印象的な始まり方に心を奪われた一人です。笑
学生時代、友人から借りた浜松交響吹奏楽団のCDに収録されていた『「GR」より シンフォニック・セレクション』にどハマりしてしまい、それこそ100回以上は通学中にこの楽曲を聴いたかと思います。(このCDの演奏が忘れられず、社会人になってからCDを買い直したのも良い思い出です。)
トランペットが語りかけるような叙情的な旋律を奏でますが、冒頭8小節間(時間にして約20秒ちょっと)はこのトランペットソロ以外伴奏も無く、まさしくどソロの部分となります。
コンクールなどでもたまにここの部分を抜粋している団体の演奏を耳にしますが、いやぁ、勇気あるなぁ…と思ってしまいます。
原曲のサントラではトランペットソロが8小節ではなく16小節演奏→弦楽器がやや悲しげな旋律を演奏→トランペットが旋律、弦楽器が伴奏で冒頭の抒情的な音楽が再び帰ってくるという2分程度の音楽ですが、『「GR」より シンフォニック・セレクション』で使用されているのは上記から弦楽器の悲しげな旋律部分を除いた1分程度の抜粋となっています。
1:10〜1:55頃 → 十傑集VS幻夜(6-1)
「大作のテーマ」の叙情的な雰囲気から一変し、ミステリアスな「十傑集VS幻夜」の音楽が続きます。
「十傑集VS幻夜」の音楽自体は管弦楽全曲版にあたる『交響組曲第2番「GR」』のPart1の最終楽曲として使用されていましたが、吹奏楽版の交響組曲第2番シリーズおよび交響組曲第3番では使用されていない楽曲です。
また、『交響組曲第2番「GR」』のPart1の中での使われ方は原曲のサントラ(5分弱)を丸々使用していましたが、『「GR」より シンフォニック・セレクション』で使用されているのはサントラの冒頭50秒程度のみです。
1:55〜4:10頃 → シズマの償い(2-7)
ミステリアスな雰囲気から続けて演奏される6連符の上行音型のaccelerandoの部分から「シズマの償い」の音楽になります。
前の曲からの繋ぎ方がとても自然なので私自身も正直1曲だと思っていたのですが、別々の曲がシームレスに繋がっていることを知り驚きました。
原曲のサントラは約3分半の楽曲で、『「GR」より シンフォニック・セレクション』の中で使用されているのは冒頭1分ちょっとをカットした後半の2分少々です。
1つ前の曲である「十傑集VS幻夜」で感じていた不安が形になったようなシリアスな音楽で壮大な雰囲気となります。
原曲のサントラや管弦楽版のシンフォニック・セレクションではオルガンやコーラスも入るのですが、吹奏楽版のスコアではこれらはカットされています。
ですが、天野正道氏の巧みな編曲でオルガンやコーラスが聴こえてくるかのようなスコアになっており、原曲や管弦楽版と同じような壮大な音楽が吹奏楽版でも奏でられます。
途中、トランペットが何やら難しくてカッコいいことをやっていますがスコア上は3声でこだまするようにフレーズが書き分けられています。
このあとに続くトロンボーン、テューバ、コントラバスなども同様の書き方をしており、この辺りの楽譜の書き方も流石です…!
4:10〜9:50頃 → 真実のバシュタール(5-11)
ピアノとマリンバによる下行音型の3連符とクラベスの打ち込みで始まるのは「真実のバシュタール」の音楽です。
推進力のある音楽ではありますが、雰囲気はやはりどこか暗く不安な音楽が流れていきます。
ジャイアントロボの物語終盤に差し掛かったエピソード5で使用される音楽で、バシュタールの惨劇の真実が判明する場面で流れる非常に印象的な音楽です。このあたりはぜひ原作のアニメも見てください。
エピソード5のサブタイトルである"真実のバシュタール! ~過ぎ去りし、少年のあの日々・・・~"からも分かる通り、エピソード5の中のメインとも言える楽曲です。
原曲の演奏時間は6分ほどとジャイアントロボのサントラの中でも比較的長い演奏時間の楽曲です。エピソード1で使用されていた「トレイン・チェイス!~黒いアタッシュケースの行方」の楽曲並みに力が入っている楽曲と言っても過言ではないでしょう。
『「GR」より シンフォニック・セレクション』の中でも原曲のサントラが丸々カットなしで使用されています。
途中短い繰り返しなどはありますが6分間の中で音楽がどんどん展開されていきます。原曲サントラや管弦楽版のシンフォニック・セレクションでは途中コーラスが入る箇所もありますが、吹奏楽版ではオーボエやアルト・サクソフォンなどの木管楽器に置き換えられています。
フルートやオーボエなどの悲しげに語りかけるようなソロや、金管楽器・スネアなどの勇敢な雰囲気の打ち込み音、ピアノ・打楽器のトーンクラスターなどを経て徐々に音楽が盛り上がっていき、頂点に達したところで切れ目なく次の楽曲へ移ります。
9:50〜10:45頃 → G.R.発動す!! -G.R.1号vs -G.R.2号(5-4)
「真実のバシュタール」の音楽から切れ目なく演奏されるのは「G.R.発動す!! -G.R.1号vs -G.R.2号」の音楽です。ただし、使用されているのは原曲サントラの最後の1分間のコーラスが入る感動的な部分のみです。
こちらの楽曲は交響組曲第2番「GR」シリーズ(管弦楽全曲版、吹奏楽全曲版、トレインチェイス・エディション)では使用されていて、交響組曲第3番「GR」では含まれていなかった楽曲です。
時間にすると1分弱、小節数にすると16小節間と短い部分ではありますが、こちらのコーラス部分はシンフォニック・セレクションの楽曲中でも非常に印象的な部分です。
交響組曲第3番に含まれていないのが個人的には残念に思っていたのですが、シンフォニック・セレクションでは復活しており、まさに良いところ取りの構成になっております。
10:45〜13:35頃 → 壮絶!梁山泊エキスパート戦(6-11)
「G.R.発動す!! -G.R.1号vs -G.R.2号」の感動的なコーラス部分が終わると「壮絶!梁山泊エキスパート戦」の緊迫感のあるシーンに切り替わります。原曲のサントラは6分近い長さですが、シンフォニック・セレクションで使用されているのは中間部2分半ほどです。
トロンボーンなどの低音楽器による緊迫感のある重厚な旋律が印象的で、徐々にスピード感を増しながら音楽が盛り上がっていきます。
原曲のサントラおよび管弦楽版のシンフォニック・セレクションでは途中コーラスなども入りますが吹奏楽版ではコーラスは入りません。
疾走感のある音楽がクライマックスを迎えると低音楽器による下行音型のフレーズが4小節ほど演奏されてそのまま最後の楽曲へと繋がります。
13:35〜18:10頃 → 国際警察機構(1完全版-5)
『「GR」より シンフォニック・セレクション』の最後を締めくくる楽曲は「国際警察機構」のテーマです。
『交響組曲第3番「GR」』と同様、7枚あるサントラCDからの抜粋ではなく「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」のCDから抜粋した音楽です。
シンフォニック・セレクションの音楽はこれまで不安でミステリアスな雰囲気の音楽や、緊迫感のある音楽が続いていたので木管楽器群によって平和的な「国際警察機構」のテーマが始まっただけでも涙腺が緩くなりますね。
こちらの楽曲も原曲CDや管弦楽版のシンフォニック・セレクションでは所々にコーラスが入りますが、吹奏楽版のスコアではコーラスの記載がありません。
ここまでスコアを見ながら楽曲を聴いて思ったのですが、吹奏楽版のシンフォニック・セレクションの「G.R.発動す!! -G.R.1号vs -G.R.2号」部分にのみコーラスが入るのは、楽器を吹いていないメンバーでコーラスを担当出来るように配慮された結果なのかもしれません。
(「G.R.発動す!! -G.R.1号vs -G.R.2号」は音が薄いスコアになっていて休符のパートが多数あるため、コーラス隊を別途設けなくてもコーラス兼任可能)
なお、シンフォニック・セレクション内での「国際警察機構」のテーマのスコアは、原曲CDの音楽や交響組曲第3番「GR」で使用されたスコアからは微妙に異なるスコアになっていると思われます。
一番分かりやすい所で言うと、ラストから数えて1つ前の小節のシンバルの有無が異なります。
(↓交響組曲第3番「GR」)
こちらはラストの1小節前2拍目にシンバルはなく、全楽器休符となる拍が1拍あるのが分かるかと思います。(「管弦楽曲 ジャイアントロボⅠ 完全盤―地球が静止する日―」の「国際警察機構」も同様)
(↓「GR」より シンフォニック・セレクション)
こちらはラストの1小節前2拍目にシンバルがあり、結果的に全楽器休符となる拍が無くなっています。つまり、全楽器の休符の拍がシンバルのソロとなっています。これは音源の演奏が勝手にシンバルを足しているのではなく、スコア上もそのようになっています。
シンバル1発の違いですが、楽曲全体の終結感がよりはっきりと出るようになったと思いませんか?
たかが1発、されど1発。個人的には非常に効果的なスコアの変更だと思いました。
細かい部分ではまだまだ変更があるとは思いますので、スコアを見ながら原曲や交響組曲第3番「GR」との聴き比べをしてみると面白いかと思います。
私はそもそも現状吹奏楽団に所属していないためこの楽曲を演奏する予定もありませんが、この楽曲が好きすぎて上記のスタディスコアを購入してしまいました。笑
■収録CD
・浅田享指揮/浜松交響吹奏楽団『「GR」より シンフォニック・セレクション』[CACG-0046]
参考音源として紹介したYoutubeの吹奏楽版音源の収録CD。天野正道氏の『おほなゐ』も全曲収録されています。
発売元のCAFUAレコードでは原盤CDは品切れですが、上記のAmazon RecordsにてCD-R盤として復刻リリースされています。
また、以下のAppleMusic等のサブスク音楽配信サービスでも聴くことが可能なので、シンフォニック・セレクションのノーカット演奏が収録されたCDとしては比較的容易に聴くことが出来る1枚です。
さらに演奏のクオリティもかなり高いです!アマチュアの一般バンドでここまでのクオリティは正直驚きです。
・天野正道指揮/ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団 『「GR」 より シンフォニック・セレクション』[キュー・エル・エムSTEREO QLM-0009]
参考音源として紹介したYoutubeの管弦楽版音源の収録CD。作曲者本人による自作自演かつプロのオーケストラによる演奏です。
この楽曲のイチオシ音源ではあるのですが廃盤と思われるためCDが手に入りにくく、サブスク音楽配信サービス等でも音源未配信なのが玉に瑕です。
本文中の解説でも触れた通り、吹奏楽版よりも多くの箇所でコーラスが挿入され、オルガンなども使用した壮大な録音になっていますので、CDが手に入るようであれば是非聴いてみてください。
■最後に
noteの過去記事で紹介してきたGRシリーズは、
・サントラから多くの楽曲を抜粋しているものの"メドレー"感が強かった交響組曲第2番シリーズ
・シンフォニックな構成になったものの繰り返しの部分が多くどこか単調に感じてしまう交響組曲第3番「GR」
というような、一長一短なスコアだったのですが今回紹介した『「GR」より シンフォニック・セレクション』は非常にバランスの良い構成で正に"良いところ取り"といった構成になっています。
実際、演奏頻度も他の版と比べると『「GR」より シンフォニック・セレクション』が頭一つ抜けて多いイメージで、どの版を演奏しようか迷う場合はシンフォニック・セレクションを演奏するのが間違いないかと思います。
noteで未解説のGRシリーズの楽曲は残すところ『「GR」より 明日への希望』などの小品系の楽曲と、現時点(2024年8月時点)で楽譜が出版されていない『交響組曲"GR"(新版)「地球が静止する日」』となりました。
これらの楽曲もそのうち解説予定ですので、引き続きnoteの更新をお待ちいただけると嬉しいです!
新版の方は楽譜or音源が発売されてから解説予定なので、気長にお待ちください。(約32分との情報があり、解説が長文になりそうで今から震えています…。)