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鬼にえこひいきされる話

赤鬼様は一番えらい
赤鬼様はこの世界で一番強い
喧嘩好きの鬼達は常に戦いに明け暮れていた。

圧倒的な強さを持った赤鬼様がでてきてからは、激しい争いもへり、文化的な生活を行うようになった。腕っ節はからきしだが能のある鬼も安全に生きられるようになり、赤鬼様の住む城には奉公を求め様々な能力を持った鬼が集まった。

私達もその、奉公にあやかりたく、はるばる赤鬼様の住む都までやってきた。
「ナナ、わしはこの宮中で必ず料理人になってみせるぞ!」
「うん!お父さんなら立派なお抱え料理人になれるよ!お母さんの夢だもんね!!」

都よりはるか彼方、小さな料理屋をナナと父と母三人でひらいていた。
身体の弱かった母は命をおとす前にいった。

「パパ、私のために小さな街にのこってくれたけど、ほんとうに夢だった赤鬼様のお抱えシェフに挑戦してほしいの、絶対…」
母の最後の願いをきいて、こうして噂の都までやってきた。
「ナナ、わしは絶対赤鬼様に気に入ってもらい、お城に勤めてみせるぞ!」
父の背中を見ながら、母との思い出がつまった穏やかな街の暮らしを捨てた事に少しさみしさを感じつつ、キラキラした都に心躍っていた。
ついつい脚がタンタンとリズムよくうごきだす。

「赤鬼様のおな~り~」

鐘の銅鑼に合わせて、ベールの中を赤鬼様が奉公人の前を通る。
赤鬼様の城には連日、自分の技能を披露する会が開かれている。

ーーーーーー

父が披露したスープは使いの鬼達に評判になり、城での奉公が決まった。
この都での暮らしが始まることになり心躍った。お城の廊下を駆け回り、新たな生活をおくる場所を隅から隅まで目に入れた。
ここに居る鬼達は、みんな戦いではなく、技能で選ばれていてのびのびと働いている。ナナは全力の料理で疲れ切っている父に見たモノ全てを伝えようとさらに走り回った。

都の一角に花の香りのする朱色の建物があった。
「なんだろう、ここ、はいってみたい…」
ナナは惹かれるように門をくぐった。

中にはキレイな服を着てカラフルな顔のいろをもった鬼がいた。こんなにキラキラと光る鬼をナナは初めて見た。
「あら・・・」

目が合ってしまい、思わず柱の陰に隠れる
「小さな鬼さん、こちらにおいで」

鈴がコロコロ鳴るような綺麗な声に誘われ顔を出す。
「貴方、とっても汚れてる」
きらきらの鬼に手を引かれ、流れるようにお湯やクリームで身体を包まれる。埃っぽかった生地や凝り固まった身体が柔らかくほぐれていく。

「ここは癒やし、美を創る場所よ。貴方もこんなにキラキラしたわ」

鏡の中にはつやつやとした顔の自分が見たこともない華やかな洋服を着てたっていた。
「わぁ…(すごいすごい自分じゃないみたい!!)」

ナナは気持ちを踊りで表現するのが好きだ。
服を風になびかせながらトントンットトンと踊った。
「ふふっ、おちびさん、上手ね」
カラフルなキラキラした鬼が笑ってくれるのが嬉しいので、全力で感謝の気持ちを踊りで表現した。

トントンットトン
トントントトトンッ

くるくるクルン

「おお!おもしろい」


背中から響くような声がする
振り返るとみたこともない大きさの鬼の脚があった。上半身は遠く見上げる先にあった。

カラフルな鬼が小さく膝をつき頭をさげる

「赤鬼様、いらっしゃいまし」
(これが…赤鬼様…?)

「おまえ、今の動きはなんだ?」
さっきまでのウキウキした気分が消えて身体が硬直する
(これが一番強い、赤鬼様…)
大きな手がナナの身体をつかむ。

この手で握られたらナナは一瞬で息が止まってしまう。
圧倒的な力に意識を失いそうになる。

赤鬼様の手のひらの上で腰が抜けてしまい、大きな顔の前でうずくまる。「怖がらないでよいぞ、さあ、答えよ」

ナナは震えながら大きな目玉にむかって声をしぼりだす
「こ・・・これは踊りといいます…」

「ほう、お前は”おどり”ができるのか」
「…は、はいっ・・・」

燃えるような赤い目がこちらに向き震える。
「こ、こわい…」

「…ふんっ!!!」
赤鬼が大きな声を息を吹きだす、と同時に煙が上げる。
目を開けると赤鬼が小さなサイズでたっていた。大きいと怖かった顔が町の人と同じサイズになると優しい顔になっていた。
「踊りはもう一度出来るか?」
「い、いえ…」

ナナは首をふりながら膝をつき頭を下げる。
「わたしは…楽しい気持ちがないと…踊れないのです」

「ほぉ…」
赤鬼は首をかしげた

赤鬼様登場


赤鬼様が見ている、そう思うだけで少し体に力が入る。
緊張する・・・この人に気に入られなければ、父が憧れる仕事はこの人の元で働くことだからだ。

ナナは自然の様々なものを見てきた。どんな生物にもリズムがあり形と動く決まりがある。大きく見えたり、しなやかに見えたり、体で表現んするのが好きなのだ。

今日はきらきらの衣装があるから羽ばたくような流れるような動きがいい。ナナは踊っている時ならばなんでもできるような気持ちになる。強い鬼にも綺麗な鬼にもそれが心地がいい。

「赤鬼様」
兵士のような鬼が声をかける、人差し指をたてそれを静止させると、赤鬼の目がまたナナを図るように見つめる。

心臓の高鳴りを感じながら、息があがるまで舞い続けた。
「・・・もう良い、紅、名をきいておけ」
赤鬼様は兵士と共に屋敷の奥に消えていってしまった。


「おチビちゃん、可哀想に・・・・・・」
細面の美しい鬼が怪しい笑みを浮かべた。

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