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Xで拡散されたデマ投稿に迫る:能登半島地震

2024年1月1日に能登半島地震において被災されたすべての方々に心よりお見舞いを申し上げます。

能登半島地震では、実在する住所や無関係の画像・動画を投稿し救助を求めるデマ投稿が相次ぎ、そうした情報を拡散してしまう人が数多く見られた。この出来事はニュースにも取り上げられ話題となった。一部報道によると、偽情報が出回る背景として広告収益、いわゆるインプレゾンビが関わっていることも指摘されている。

救助活動や支援の妨げになり人命に影響する可能性もある非常に危険な投稿だが、果たして添付された住所や動画・画像は一体何だったのだろうか。


拡散された投稿の内容

拡散された投稿のフォーマットとしては以下の通りである。

  • 住所(以下は一例)

    • 珠洲市大谷△-△-△

    • 石川県輪島市河井町△-△

  • 拡散を希望する文言

  • ハッシュタグ(#SOS・#珠洲市・#地震など)

投稿の例(住所の一部を隠しています)

いわゆる「インプレゾンビ」は元の投稿をもとに動画を変えながら同じ投稿を繰り返し、さらに別のアカウントが投稿をそのままコピーしているようで、例えばX上で#大谷と検索すると、同じ動画が数多く見られる。

「#大谷」の検索結果

ここでは、引用されている動画の元となった投稿の撮影場所や元の投稿を探し出し、デマの断片的な情報源に迫る。

投稿が拡散される過程

拡散された投稿に共通していた「珠洲市大谷△-△-△」を含む元の投稿は現在削除されているが、拡散の記録は地震から約1時間後の、1月1日の17時から始まっている。17時10分までで住所を含む投稿は6件ほどであったが、そこから一般アカウントが元投稿を引用しない形で拡散を始め、ついに17時18分、インプレゾンビが投稿を模倣し始めた。

能登半島地震初とみられるインプレゾンビによる投稿

この投稿を皮切りに、インプレゾンビたちによる誤情報の拡散が進み、地震から約4時間が経った20時16分、ついに無関係の動画を貼り付けた投稿が出現し始めた。

動画を添付した初の投稿

上の投稿が出現すると、複数のインプレゾンビが模倣した投稿を相次いで行い、それに釣られた形で多くの投稿が1,000リポストを超えるようになった。

インプレゾンビは恐らくAIツールによって自動的に投稿をしているものと推測されるが、元投稿から30分も経たないうちに住所を勝手に利用した投稿が始まるこの早さ、そして無関係の動画を添付する悪質性はかなりのものだ。

投稿された動画の撮影場所

動画と住所がセットで投稿されていると信憑性が高いと感じる人も多いかもしれないが、調べたところ動画と住所は全く関係のない別の場所であった。

ここでは動画の元投稿を調べると同時に、その元投稿が「珠洲市大谷△-△-△」といった住所ではないか確かめるため、ストリートビュー等を使って撮影された場所がどこかなのかを判明させた。

こうした動画の投稿者欄は本人ではなく別のインプレゾンビと表示されている

動画①:七尾市能登島野崎町

出回っている動画のうち前項で既に紹介している、倒壊した家屋の様子を撮影した動画については、リョーサン🦊Expanding sea♠さん(@Ave_Maria_h)が地震直後の16時20分に投稿した動画が元である。

ストリートビューで場所が間違っていないか確認したが、建物や他の投稿の場所を含め一致したため、七尾市能登島の野崎町で撮影されたもので間違いないと思われる。

動画内に映る建物が一致(1枚目は動画・2枚目はストリートビュー)

動画②:鳳珠郡能登町松波・松波酒造

建物が倒壊し、瓶ケースが散乱している動画も確認できた。この動画は金七聖子 @松波酒造-大江山-さん(@seiko7)が地震直後の16時28分に松波酒造で撮影・投稿した動画が元である。この動画が輪島市として投稿されているものも見つかった。

インプレゾンビの動画

松波酒造は代表銘柄「金冠 大江山」で知られる明治元年創業の造り酒屋だそうだ。一刻も早い復旧を願いたい。

動画内に映る街並みが一致(1枚目は動画・2枚目はストリートビュー)

動画③:輪島市河井町

倒壊した住宅の中から撮影した動画も確認できた。これは、16時36分に葉っぱさん(@mineto1214)が投稿した動画が元と考えられる。動画の撮影場所は輪島市河井町の河井小学校前交差点にほど近い民家と推測される。

インプレゾンビの動画

動画内には地震で倒壊した輪島市の五島屋ビルが映り込んでおり、輪島市河井町というのはほぼ確実である。

倒壊した五島屋ビル(動画内より)
動画内に映る住宅が一致(1枚目は動画・2枚目はストリートビュー)

その他、液状化現象が起きた河北郡内灘町の8番らーめん内灘店や、富山市の萩浦橋付近の津波の様子などの動画が添付されていた。
このように、動画内容と投稿内容の確認を行えば、すぐにこれがデマだと分かるはずだ。

まとめ:デマを広げないために

今回の能登半島地震で広がったデマを踏まえ、このようなことが繰り返さないためにも、以下のような認識を持つことが必要だと私は考えた。

拡散しない

今回の地震では、善意で拡散する人間が数多く見受けられた。地震直後の情報が混乱している中で真偽が定かではない情報を拡散する行為は、たとえ善意だったとしても迷惑になりかねない。また、たとえ投稿された情報が真実だとしても、災害時の警察や消防は対応が逼迫している状況下だ。むやみに通報したとしても同じ内容の救助要請が複数問い合わせられたものなら、現地での救助活動の妨げになる。
災害時に助けたいという気持ちが出るのはとてもよいことだが、かえって仇となるような拡散行為や被災地への問い合わせは控えておこう。

引用元を提示する

今までは主に「インプレゾンビ」と呼ばれる自動生成AIによる被害を扱ったが、善意を持った人間の投稿による無秩序な拡散も見られた。
救助を求める投稿をただコピペして広めようとしたものや、住所をコピーしてさらに救助を求める投稿もあった。こうした投稿の連鎖によって、実際に救助が終わったかどうかが判別できなくなり、結果的に救助活動の妨げとなる可能性がある。古い情報が形を変え拡散する事態を防ぐことも、デマを広げないために重要なのではないだろうか。

一般ユーザーによる引用なしの拡散
一般ユーザーによる引用なしの拡散
この投稿ではリポストが2万件を超えている

住所を公開しない

「インプレゾンビ」の投稿について追っていくと、既に拡散された投稿を基に別の投稿の要素を混ぜ込んでいることが分かった。今回の例では、住所つきで救助を求める投稿が拡散され、それと別の動画・画像を混ぜ込んだ投稿が数えきれないほど確認できた。そうして生み出された投稿は「実在する住所」と「実際の被害状況の動画」という信憑性が高く見える情報の合わせ技によって、今回のような騒動にまで発展してしまったのだろうと推測される。
今回の教訓として情報の発信側からできる対策としては、災害に巻き込まれてもむやみに住所を公開しないことだろう。今回を例にすると、住所つきで救助を求める投稿が数分で拡散され、救助活動が既に終わった現在もインプレゾンビによって住所つきで投稿が行われている。実際に助けを求めていた投稿だったが、その後さらに救助要請で警察が出動する事態も実際に発生しているそうだ。
また、知人や親族の住所・氏名もむやみに公開しないことが重要だ。安否確認のための投稿がいつしか形を変え要救助者とする投稿に変わることもありうる。被災地の負担を減らすためにも、どうか個人情報をむやみに公開することは控えてほしいと願っている。

さいごに

災害に関するデマは広がりやすい。一人一人がデマを発信したり、拡散したりする危険があるということを常に意識する必要があると感じた。


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