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針仕事

 「仕事」と辞書で引くと

(4)裁縫。針仕事。「お隅が一人奥で―をしてゐる/真景累ヶ淵(円朝)」

大辞林

 と出てきて驚く。真景累ヶ淵というのは、明治の落語家の大名人である三遊亭圓朝の代表作で、六代目三遊亭圓生がほぼ完全版を残していたり、古今亭志ん朝が「豐志賀の死」を幾分滑稽に噺しているのがあります。あとは当代神田伯山が講談で「宗悦殺し」を語っていたり。。。
 圓生のほぼ完成版は全部で8時間あるので、仕事のお供によく流してます。

 挨拶が遅れました。
 私、山上と申します。Ladder bespoke tailoringという屋号で、テーラーをしています。(2023年10月15日くらいから、都合により屋号は無くします、なんとなく言葉に違和感を感じたので)
簡単に言えば、スーツを作っています。
 縁あって4年半くらい大阪の大島崇照氏というテーラーに師事し、5年前に東京で独り立ち(と言っても当初は雇われ)をして、去年雇われからも独立し(2021年)、五十嵐トラウザーズさんの赤坂にある事務所に寄生して、一人で仕事をしています。5年前からも仕事は一人でしていますが。

 落語の、、、ではなく、「テーラーの仕事」と大きく括れば、針を持って背を丸めてチクチク縫っていることを
簡単に想像できるのではないでしょうか。

 事実そうです。その最たる作業に「ハ刺し」というものがあります(写真の通りハハハハハが連続していると思います)。

 テーラーの仕事を、順を追ってではなく、切り取って徒然と書いて行こうと思うので、
見栄えを重視した作業、「ハ刺し」です。

ハ刺しをすることで、ジャケットの下衿(よくラペルと言われるもの)のロールを出す。
なんて事もあると言う。
実際には他にも要因があると思います。


 この作業の中にも、同業の方々それぞれに色々な解釈があると思いますが、あくまで私的な文章ですので、悪しからず。

 この作業、すくい縫いミシンというもので効率的にできてしまいます。が、それは大量に早く生産しなければならない事情があると思います。
 あと、すくい縫いミシンでは「ハハハハハ」にはなりません、確か。

 私の場合は、一着あたりの納期を6ヶ月〜程頂いて、ゆっくり仕立てる許しを得ている(はず)ので、このハ刺しに限らず、かなりの工程を手で行っています(今後ご紹介していきます)。
 スーツ一着作るのに、だいたい100時間〜120時間かかるという、前近代的な仕事の進め方ではあるのですが、一つ一つの小さな仕事が、仕上がった服に「気配」を持たせると思っています。
 もちろん、ミシンも便利なので使うべきところではしっかり使います。
 全てを手縫いで、というのは、ある先輩テーラーがやっていますが(ポケットの袋の部分を作るところまで手で縫うんですって)、とても大変そうなので私には出来ない。。。

表の生地の色に合わせた糸を使うので
時には鮮やかに見えます。
もちろん、仕上がった時にはこの箇所は隠れていますが。


とはいえ、このジャケットの基礎を作る際に多用するハ刺し、一着服の左右で何百針かわかりませんが、相当数刺しているのですが、表から見える部分はほとんどありません。そして、表から見える写真を撮っていないので、今のところお見せできません(撮ったら編集で追加します)。
 今回は芯作りに言及しないのですが、このハ刺しは大きく言えば、接着剤の様な意味で行なっているのではないかと思います。
 布と布を糸で接着する、そこに適度な空間(私たちの仕事でよく言う「ゆとり」です)を持たせながら、ひと針ひと針刺していく。の繰り返しです。
 一見規則的に見えますが、手作業なので当然ひと針ごとに違うと思います。この規則的に見える中にある不揃いな積み重ねが、一着ごとに違う気配を生むのだと思います。

 特にオチは付きませんが、今回はこの辺で失礼致します。

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