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アイロン

 新宿末廣亭が経営存続のためクラウドファンディング。微力ながら私も支援して、千社札と招待券を返礼で頂きました。
 けど、招待券を使って観に行くのはなぁ、とも思ってます。人間国宝の神田松鯉先生の高座は観てみたい。

 「伝統を現代に」と立川談志は言っていました。談志が言いたいこととは違うかもしれないけれど、この言葉はテーラーの仕事にも言えると思っています。何故、工業的な技術が発達し効率的に物事を進めることが良しとされる中、わざわざ前近代的な時間のかかる手仕事を続けるのか。わざわざ時間のかかるアイロンのかけ方をするのか。面倒を惜しまないのか。
 先人が紡いできた技術を、古いから、時間がかかるからと捨てる、壊すということはとても簡単な気がします。それでも、次の世代に渡すために繋いでいる職人が少なくないのは、その技術を伝える意味と、その技術で仕上がるものの完成度の高さと、そこに「気配」が宿ると知っているからだと思います。

 また、前置きが長くなりそうなので。

 針仕事と来れば、次はアイロンというのがテーラーの世界でしょうか。あと鋏。と指貫。
収集癖があるとすぐにものは増えます。
 なんとなく、重ければ重いほど良いという気がしていますが、一作業に一アイロン(しつけをしてアイロン、縫ったらアイロン、解いてもアイロン)は必ずするので、重すぎるのもいけないので、私は、2台を使い分けてます。

左から二番目を残して手放しました。
新品同様のリソー日東軽機セルミカ、スチームアイロン
四型か五型でいい重さです。
補欠ですが。
メインで使っている大阪アイロン。
丈夫で長持ち。

 滴下式の蒸気アイロン。2キロなので、使い勝手がよく殆どの作業で使っています。7年くらい使っていて、電磁弁のスイッチが一回壊れたくらいで長持ちです。
 壊れても現行品なので、今のところは安心しています。

衿と仕上げ用のドライアイロン。
大きいネジで止まっている黒い部分は取り外せて、それだけで2キロ。
本体は5キロあります。。。なので合わせて7キロ。。。

 確かイタリア製のドライアイロン。とにかく重いので、芯作りと芯据え、仕上げに使っています。
 パンツの裾の仕上げに、これを乗せておくととても綺麗に仕上がります。7キロ万歳。
 今は、何故かパーツだけが売っていて、本体は売られていないらしく、探している方が割といます。
 これも、最初は中のヒーターが壊れていて使えずに寝かせていました。もしものために、部品は買い揃えておこうかしら。

 重いアイロンのいいところは、置くだけでしっかりと熱と圧を加えられることに加えて、三層から四層(表地、芯地1、芯地2((芯地3、、、)))の布を一枚にするような働きをしてくれることです。

前身の芯据え後のアイロン後

 所謂「くせとり」なんて言葉がありますが、何を指して癖をとるのかわからないので私はあまりこの言葉は使いません。全て同じアイロンでの作業だと思っています。
 アイロン作業でわかりやすいのが、真っ直ぐに置いたものを、熱と蒸気を使って曲げていくものだと思います。熱可塑性という毛織物に特に有る性質を使った、「魔法」をかける作業で(あるパンツ職人の方が言ってました)、ズボンを作る時にとても時間をかけて行います(詳しくはズボンの制作のときに)。

真っ直ぐな状態を
曲げる(これはジャケットの背中の部分)

 この「魔法」はそのうち解けます。乾湿差や、雨、汗、着用で起きる色々な動きが原因で。なので、アイロンで仕上げた状態が服としては1番良い状態かもしれません。
 でも所詮は服です。普段着(としては中々な御銭を頂きますが)のように使って、少しシワが残ればアイロンして戻す。少し引っ掛けてしまって穴が出来たら、繕って隠しましょう。あまりにもシワシワになったら、作ったところへ持って行ってアイロンをかけ直してもらえば良いです。作った本人が1番良くアイロンをかけられます。なので、他でお願いしますと言われたら、忙しいからか、その人は縫っていません。

 アイロンのかけ方をとっても、十人十色で、私はいいとこ取りをしていると思います。それは、何人かの今「まで」の考え方を自分なりに編集して、「今」に生かしているということです。
 「伝統を現代に」。良い言葉だと思います。さすが談志。

 最後に新宿末廣亭のホームページを載せておきます。クラウドファンディングについても書かれていますので、見てみてください。運営のまごついた感じがなんとも言えない味わいがありますが、ご興味がある方は何卒宜しくお願い致します。

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