2024.03.26 植物図鑑。食。恋。

『植物図鑑』  著 有川浩

久しぶりに読んだ。
あーやっぱり好きだ。
と余韻ひたひたになりながら思う。
これを読むと、沼らずにはいられなくなる。
何しろ恋愛と食と生活と...そんな欲を全部満たしてくれるのだから。

主人公のさやか。OL。
飲み会から帰ると、マンション前で行き倒れたイツキを見つける。
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。」「咬みません。躾のできたよい子です。」
そこで拾わなかったら物語は始まらない。
部屋に上げたさやかは、翌朝イツキの作る朝食に胃袋をガッツリ捕まれ、同居生活を始める。
イツキは家事万能。植物に関する知識に長け、休日野草採取の散歩(狩り)にさやかを連れ出しては、美味しい料理に変えていく(料る)。
まんまとイツキに惚れるさやか。
狩りと料理と生活と、その間で2人の恋が進んでいく。そんなおはなし

この本の魅力はなんといってもイツキの料るごはん。
夜中にでも読んだ日には飯テロなみ。
料理が好きなら尚更。
料理欲がかきたてられ、どうにかしてイツキの料るものを味わってみたくなる。

親切なことに、いつくかは巻末にレシピが載っている。
そのひとつ。イツキが作るノビルのパスタ。
この間ノビルを見て耐えられなくなり狩った。
そして他の材料を集め帰宅。
セイヨウカラシナは無いので断念。
ベーコンとノビルでシンプルに。

見様見真似のノビルパスタ

食べたくて仕方がなかったイツキの料理を(アレンジと味の具合は違うが)ついに味わえた感動といったら凄かった。
それからノビルの食感。
さやかがハマった食感を知れて大満足。
味も美味しい。
あぁさやかがイツキにハマる理由はこれか。

胃袋を掴まれて沼にはまるのは
実際は女性の方なんじゃないかと思える。
この時代になっても女性と家事のイメージは崩れない。
「料理するの好き」というと「良い奥さんになるね」と言われることほど腹が立つことは無い。
何がいい奥さんだ。
当たり前のように自分は作ってもらう側だと思ってるその価値観がイラッとする。
別にあなたのためじゃない。
自分が食べたいからって作る料理が好きなの。
働いて稼いで自分で作って食べるの。
そう返してやろうか。
だから、ササッと作った見返りも求めない美味い料理を出された日には、もう底なし沼だ。
イツキの料理は見返りを求めない。
もともと自分が食うための料理で、誰かのためじゃない。
さやかと住むようになったから、「さやかが食べるため」「さやかの笑顔が見たい」という理由が出来たが、
なんというか、サッパリしてるのだ。
食すため。生きるため。わくわくするため。
自分の日常がちょっとだけ嬉しくなるような。
そんなちっちゃい幸せのごはん。
そのくらいがむしろ相手にとっては沼なのだ。
そこがずるい。
うん、イツキはずるい人だ。

恋愛小説はだいたい読みながら自分も恋をする(気持ちになる)。
島本理生さんの本が大好きで仕方ないのだが、
主人公と一緒になって、喜んだり悲しんだり怒ったりと情緒不安定に読み進めるもんだから、
読み終わったあとはなかなかこちらの世界に戻って来れない。
そして植物図鑑もだが、理生さんの本にも美味しそうなものが沢山出てくる。
恋と食というのは相性がいいのかもしれない。
欲を満たしてくれる。
(本の世界で満たされるぶん、現実に戻ると欲が増すのだが。)
食が入ることで「生活」に近づくからなのかもしれない。
自分たちの生活にも有りそうな無さそうな。
そんなものだから、夢か現実か分からないみたいな、それと同じように、本と現実の世界の中間で暮らしてしまう。

あぁ、イツキの天ぷら食べたいな。
そんな風に、今日も心はこちらの世界と本の世界の二拠点生活を送っている。

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