【読めばわかる】誰も言わない、プリロードの真実。プロのセッティング方法まで。
「プリロードをかけるとゴツゴツする」
「プリロードをかけると伸び側ストロークが減る」
「プリロードをかけてもバネレートは変わらない」
「サスペンションはプリゼロが基本」
「ハイレートスプリングにはプリロードはかけない方が良い」
巷で色々言われている”プリロード”。
でも結局プリロードってなんなの?と疑問に感じていませんか?
僕もその一人でした。
だって、「プリロードをかけるとこうなります。」と言ってくれる人がどこにも居ないんだもん。
特にプリロードは、オートバイ向けの解説ばかり出てくる傾向です。
たまに車の解説が出てきても、なんだか的を得ない…
プリロードって、結局どうすればいいんだ?
ご安心ください!
この記事を読めば「なんだ、そんなことか!」と感覚的に理解し、昼も夜もスッキリ眠っていただけると思います。
特に「街乗りもスポーツ走行も快適にこなしたい」といった場合、プリロードは重要なセッティングツールになります。
100台以上のサスペンションセッティングを手掛けた僕が、気合いを入れて解説いたします。
感覚的にわかる。プリロードのメカニズムはたったこれだけ。
こちらの画像をご覧ください。
プリロードを”見える化”すると、たったこれだけです。
プリロードの分だけスプリングが縮みます。
「…そんなことは知ってるんだよ!だからどういうことだよ!!」
って声が聞こえてきそうです(笑)
基本のおさらいとして解説しますが、もうご存じのあなたは次の見出しまで読み飛ばしてもらっても構いません。
スプリングをあらかじめ縮めることをプリロードと呼ぶ
プリロードをかけても、スプリングレートは変わらない
スプリングが縮んだ分だけ、縮み側ストロークが確保できる
スプリングが縮んだ分だけ、伸び側ストロークが減る
スプリングの有効ストロークを超えないように注意
これも正解ではありますが、本質的ではありません。
プリロードの本質は「スプリングに乗せた重りが、どう作用するか」
プリロードの本質は、スプリングの気持ちになれば理解できます。
次の画像を見てください。
あなたはスプリングです。
これからあなたはジャンプスクワット(=伸びストローク)をするところです。
まずは重り(=プリロード)がない状態でやってみましょう。
…当たり前ですが、いつも通りジャンプできますね。
あなたは、1秒もかからず最高点に到達します。
これが車になると、「一瞬で動くサスペンション」です。
これだとちょっとデメリットがありそうですよね。
段差を超える度にポヨンポヨンとジャンプされたら不安定です。
特に、乗り心地を重視する場合サスペンションはゆっくり動かしたい。
だから純正サスペンションは、ストラットもマルチリンクもリーフスプリングも、プリロードゼロを採用せずに必ずプリロードをかけるのです。
では、次は50kgの重り(=プリロード)を担いでいます。
それでは、この状態でジャンプスクワットしてみてください。
(=伸びストローク)
「上がり始めが一番しんどい!!」
「一度上がり始めたらまあまあ楽」
「でも重くてジャンプが低くなる」
「膝が痛い!俺ももう歳か…」
こんな感想を抱くはずです。
これです、これがプリロード。
動き出しが遅い
ゆっくりと加速するようになる
ストロークの最高速が下がる
”動き出しが遅く、ゆっくり加速していくサスペンションになる”
これがプリロードをかける効果。
秒で動くプリゼロに比べてゆっくり加速するので、
「今から加速するから捕まっててね~」
「段差超えたから今から車が沈むよ~」
と車から言われるような感覚。
挙動が掴みやすいので、ドライバーや同乗者に優しいセッティングを実現できます。
意外と簡単ですよね。
あなたが数字や物理に疎くても、スプリングの気持ちになれば感覚的に理解できます。
セッティングに悩んだらぜひ、”ジャンプスクワット"を思い出してください。
プリロードはショックの減衰力とは違うの?
「サスペンションをゆっくり動かしたいなら、減衰を上げたらいいんじゃない?」
と思ったあなたは頭の回転が速いですね。
たしかに、ゆっくり動かしたいだけなら減衰を上げれば良さそう。
しかしプリロード特有の動きは、減衰力では再現が難しいのです。
…ごっちゃになるので流し読みで読んでくださいね。
減衰力は、スプリングにかけるブレーキ。
感覚的にわかりやすくするために、
「サイドブレーキをかけた車を人力で押す」のを想像してみてください。
重いのもそうですが、一瞬でも力を抜いてしまったら「ガクン」と止まりますよね。
これが、減衰力だけに頼ると乗り心地が悪くなる原因。
それに対して、プリロードは「車重」のようなもの。
押すとき最初は重いですが、加速すればするほど慣性が効いて楽になりますよね。
減衰力は、一定のブレーキ。
プリロードは、サスペンションを加速度的にする。
減衰力とプリロードは、メカニズムがぜんぜん違うんです。
感覚的におわかりいただけましたか?
(ここはざっくりでいいですよ!)
次はいよいよセッティング編です。
プリロードのセッティングは体感が頼り。何度も繰り返して探るしかない。
「プリロードを何Nmかけたらいい?」
あなたは、これをてっとり早く知りたくて、僕の記事を読んでいるかと思います。
しかしすみません。
プリロードの適性値は存在しないのです。
ショップのメカニックでも計算で導き出せないのが現状です。
そうでなければ、「サーキット実走テスト」なんて必要ありませんからね。
適正な寝具は個人差が大きいと言います。
なぜなら骨格や体重が、人によってまるで違うからです。
プリロードも同じで、
車重
使用するタイヤ
スプリングレート・特性
使用条件が一台一台違うため、適正値を導く公式が存在しないのです。
もちろん自動車メーカーは”スーパーコンピューター”でシュミレーションしていますが、我々はそんなものを持っていません。
つまり、プリロードを使いこなすには「あなたの体感」を頼りに調整を繰り返す必要があります。
正直、ちょっと茨の道です。
プリロードゼロでも、そこそこのセッティングを出すことはできます。
それでも、プリロードをかけなければいけない理由がある。
納得いかない動きをプリロードで解決できるかもしれない。
挑戦してみたい。
そんなあなただけ、続きを読んでください。
※プリロードの記事ですので、他のセッティングができている前提でお話します。
プリロードのデメリットを体感しよう。
プリロードを使いこなしたいのなら、まずは”プリロードのデメリット”を体感するのが近道です。
「デメリットが運転の邪魔にならない範囲」
ここがプリロードの適性ゾーンですからね。
動き出しが遅い
ゆっくりと加速するようになる
ストロークの最高速が下がる
”動き出しが遅い”ということは、やりすぎると動かないサスペンションになるということです。
無限に遅いサスペンションは、棒と同じ。
体感としては「ゴツゴツ感」としてあなたに伝わります。
まずはそれを感じるところまでプリロードをかけてみましょう。
まずはプリロードをガッツリかけてみる。
目安としては、スプリングシートで10~15回転くらい。
現状がプリゼロだとしたら、15mm~30mmほどスプリングが縮むはずです。
※スプリングの有効ストロークに注意
この時、プリロードをかけた分だけ車高を下げてください。
車高が変わると、アライメントやロールセンターの変化に騙されて迷宮入りする羽目になります。
10回転プリロードをかけたら、10回転車高を下げる。
5回転プリロードを抜くなら、5回転車高を上げる。
これを必ずやってください。
※スプリングとショックが別の車は、プリロードだけ触れるので楽ですね
さて、話が逸れました。
作業が終わったら、実走テストしてみましょう。
安全な場所でスラロームして、車の動きを見るのがおすすめです。
車の動きはどのように変わりましたか?
プリロードのデメリットを感じないところまで戻す
段差でゴツゴツする感覚がある
ヒュンヒュン曲がるけど、サスペンションが動いてない感じがする
このように感じたら、プリロードのかけすぎです。
さっきかけたプリロードを、半分ほど戻してみましょう。
そんなに変わってないかも?
なんかすっごいいい感じ!
もしこう感じたら、もっとプリロードをかけてみましょう。
デメリットを感じるところまで。
何はともあれ、デメリットを体感するのが近道です。
デメリットを体感できた!すごく気持ち悪い…
おそらくほとんどの方は、このように感じるはずです。
なぜなら、まだ”前後差”を取っていないから。
ここが大変なんですよ、プリロードセッティングは。
1mmでも大きく動きが変わるので、その差を違和感として感じ取っているのです。
プリロードセッティングは前後左右バランスが命。
ということで、前後バランスを整えましょう。
プリロードが強い側の動きを、あなたはこんな感じで体感します。
小さな段差を越える時、ゴツゴツ感が強い
大きな段差を超えた着地で、ゆっくりとサスが縮む
急ハンドルを切ると、クイックに曲がるがロールしない
ゆっくりハンドルを切ると、ロールせず曲がらない
逆に、プリロードが弱い側の動きはこう。
小さな段差を超える時、サスがスッと動く
大きな段差を超えた着地で、サスが踏ん張らずにタイヤが浮く感じ
急ハンドルを切ると、ロールするが曲がらない
ゆっくりハンドルを切ると、一瞬よく曲がるが踏ん張らない
スラロームを繰り返して、
「前後どちらのプリロードがどうなのか?」
を体感して、感じた通りにプリロードの前後バランスを調整してみてください。
うまく揃った時は
「なんか気持ちよく曲がる!!これだ!」
という感覚になるはずです。
そこまで何度も調整を繰り返しましょう。
難易度★★★★★ プリロードの左右差調整。
前後バランスは時間をかければ、ほとんどの方が取れると思います。
しかしあなたは、まだ違和感・気持ち悪さを感じているはず。
その原因は、左右差です。
左右差の取り方は、前後差と同じ。
あなたの体感を頼りに、何度も調整を繰り返してください。
「左右差?組む前にちゃんと測ればいいんじゃない?」
こう思った方も多いでしょう。
ごもっともですが、プリロードは思っているよりずっとシビアなんです。
僕の場合、最低でも誤差約0.05mm程度まで詰めます。
スプリングシートの回し幅で1/50回転くらい。※これで最低ライン
これをメジャーなどで測定するのは不可能です。
「ノギスを使えば?」と思うかもしれませんが、スプリングにも製造誤差がある。(自由長が違ったり、斜めになっていたりします)
だから測定はアテにならないのです。
プリロードの左右差は、凄まじい違和感としてドライバーに伝わります。
「この車、事故でどこか曲がってない?」ってくらい。
左右でバラバラの動きをされたら、運転が楽しくなくなってしまう。
それならプリゼロのほうがマシですよね。
だからプリロードセッティングは茨の道なんです。
アライメントと違い、機械的に測定することができませんからね。
小休止として読み物感覚でどうぞ。セッティング小話。
…そろそろ疲れてきているんじゃないでしょうか(笑)
この手の記事はどうしても小難しくなってしまいますね。
ここまで読んだあなたの知識欲は相当なものだと思います。
ところであなたは、こんな言葉を聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
「プリロードはゼロが基本だよ。」
「ウチのダンパーはプリゼロで設計してある。」
オリジナルダンパーは”乗り心地と走りの両立!”と謳っていることが多いのに、なぜプリロードをかけたがらないんだろう?
不思議じゃないですか?
プリロードを理解したあなたは、プリロードを使えばもっと良くなりそうなのに?と思っているはず。
…ダンパーは一度セッティングを作ったら量産できます。
だから開発に時間とお金をかけても元が取れる。
しかし、プリロードは再現性がありません。
毎回時間のかかる作業をしなければ、同じクオリティでお客に出せない。
「それならプリゼロで成立するダンパーを作れば、商売として効率が良いじゃないか。
アライメントはテスターにかければ一時間で終わるし、セッティングはお客さんの仕事ってことにしておこう。
これならたくさん台数こなせるぞ!」
…どうでしょうか(笑)
プリゼロが基本という言葉が生まれたのは、ぶっちゃけこれが理由なんじゃないかなぁ…と思っている今日の僕です。
はい、このへんにして本題に戻りましょう。
プリロードセッティングで迷宮入りしない方法。
”プリロードの左右差を取るのはめっちゃ難しい”
というお話をさせていただきました。
そんな難しいセッティングに手を出すなら、ほかの不確定要素はなるべく減らしたいですよね。
「この左右差はアライメントか…?プリロードか…?」
と考え始めたら迷宮入りの始まりですから。
こうならないために、迷わず進める正しい順番でセッティングすることが大事。
最後の章では、あなたがプリロードで迷宮入りしないための方法を紹介します。
それではいってみましょう。
迷宮入りしないために。プリロードセッティングするならこの順番。
車高調を車体から取り外し、プリロードを仮調整
車高をざっくり水平に調整
アライメント調整
減衰力調整
プリロード本セッティング
「ええ、せっかくつけたのに車高調外すの…?」
と思うかもしれませんが、プリロードセッティングをするなら絶対にやってください。
やったほうが後々に迷宮入りせずに済みます。
プリロードは1mmでも狂うと、ものすごい違和感としてドライバーに伝わります。
この差を極力減らすために、面倒でも必ず車高調を取り外します。
これで誤差0.2mm以内に収まることがほとんどです。
(あなた次第ですがw)
大丈夫です、面倒ではありますが難しいことはありません。
車高調を車体から取り外し、プリロードを仮調整
プリロードの仮調整は意外に簡単。
スプリングを回した時の抵抗感を左右同じに調整してください。
これでごくわずかの左右差に抑えることができます。
ショックとスプリングが別体の車種は、
ケースからショックアブソーバーを取り外し、
「ネジが噛んでから50回転と1/4締める」といったようにセットします。
スプリングシートも同じ。
車高をざっくり水平に調整、アライメント調整
ここはざっくりでOKです。
水平付近にしておけば、大ずれすることは稀ですからね。
とりあえずの仮セットとして、水平にしておきます。
※ネジ式車高調の場合はスルーでOKです
ここも左右差が出ないように注意してくださいね。
アライメントは、左右差がなければとりあえずOK。
減衰力調整
ここまで減衰セッティングができている前提で進めましたが、
そもそも減衰すらもちゃんとできていない人が多いです。
「前後同じくらいにセットしたら大ずれしないはず」
とか思ったらダメですよ。
これは全くアテにならないので、あなたの体感だけを信じてください。
目指すべきは”前後の足が同じスピードで動く感覚”
偶然でもピシッと決まれば「なんか気持ちよく曲がる!」という感覚になるはずです。
ちょっと緩めでもいいので、前後バランスが取れているのが大事。
減衰セッティングができていない人は、プリロードの前に減衰で「車の挙動を体感する練習」をするほうが幸せかもしれませんね。
最後に逃げ道。プリゼロセッティングの方法。
「やっぱプリロードめんどくさそうだな…」
と思ったあなたは、プリゼロに逃げてしまうのもいいと思いますよ。
プリゼロでもタイムを出すだけなら充分ですから。
僕はセッティングを楽しめる人ですが、
あなたにとっては苦痛そのものかもしれません。
あなたにとって何が幸せかは、あなたしか知りません。
「セッティングはさっさと終わらせて走りに行きたい!!」
というタイプなら、プリロードという要素を外すことでセッティング時間を大幅に短縮するのも良い方法です。
しかし、そのプリゼロすらもできていない人がほとんどです。
プリロードゼロ=バネがまったく縮んでいない状態
つまり「スプリングが僅かに遊んでいる状態」のことを言います。
しかしほとんどの方は、微妙にプリロードをかけてしまうのです。
たったこれだけでも、プリロードの前後左右差が出ます。
「めんどくさいからプリゼロで行こう!」
と割り切るなら、そのスプリングを僅かに遊ばせてください。
あなたが一秒でも速く、不満なく走りの場に行くために。
※一応、レース車両の話です。
誰も言わない、プリロードの真実。まとめ
約7000文字の長文を読んでくださり、ありがとうございました。
いやー…疲れました(笑)
プリロードは本当に真実を書いている人が居ませんよね。
正直よくわからないまま触っている人も多い。
ショップのメカニックでも、ちゃんとやれる人はどれくらい居るのか疑問です。
なので、どうしても書きたかった記事のひとつです。
さて、ここまで書いたら僕も車高調を組みたくなってきました。
実際にどのようにセッティングするのか見たい方は、ぜひX(Twitter)のフォローもお願いいたします。
あまり更新しませんが、記事を公開した際の告知用に使っています。
気が向けばセッティングのアドバイスくらいするかもしれません。
それでは、セッティングを頑張ってください。
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