おとうさんが大好きな娘の話
私の夫は、カフェでシェフとして働いている。
そして娘は、おとうさんが働いているカフェにいくのが大好きだ。
*
休日、わりとインドア派の娘は、家で遊ぶと主張するときがある。
娘の意向は尊重するけれど、買い物にいかないと夕飯の材料がない、みたいな日は困る。「公園で遊ぼう?」「大きい滑り台あるとこいこう?」と誘って快諾する日もあれば、かたくなに「嫌!」と拒否されるときも。
昨日は、いろいろ買い物があるにもかかわらず、LEGOを手に入れた娘が一歩も外にでないと主張する日だった。
お買い物もしたいし、ランチがてら「ピザ食べに行こう?」と聞いても、LEGOに夢中で「嫌!」とつれない返事。
ならば、と奥の手を切り出す。
「おとうさんのカフェにいこう?」
パッと娘が顔を上げた。
「いいアイディアだね!娘ちゃん、お父さんのカフェ大好き」と即答。
LEGOのピースを放り出して、いそいそと、お出かけの支度をはじめた。
*
夫が働くカフェは、カウンターからキッチンが見える。
注文するときに娘を抱っこしてやると、キッチンに向かってニコニコ手を振っている。
カフェのオーナーさんとも顔見知りなので、わざわざ「娘さんたちがきたよ」と呼んできてくれたりする。日曜の忙しい時間に、すみません、という謎の罪悪感。
娘には、ソーセージロールとフラッフィーを頼む。フラッフィーとは、スチームした牛乳とその泡をエスプレッソカップに入れたNZ定番のお子様用飲み物だ。店によって、カラフルなスプリンクルを散らしたり、ココアパウダーを振ってくれたりする。
この店のフラッフィーは、チョコレートで星が描かれている。まわりに、ピンクや紫の色とりどりな小さな粒がちらされていた。
「これ、おとうさんがつくってくれたのかな!」
顔を輝かせる娘。
いや、きみのお父さんはシェフだから、飲み物はつくらないよ。
アツアツのソーセージロールを器用に小さく切って、口に運ぶ娘。
それは、お父さんが作ったやつだよと教えてあげる。ちゃんと、ひき肉と玉ねぎと人参を刻んで炒めてイチから調理しているから、おいしい。
「お父さんがつくったの?すごいね!おいしー」
ほかにも、おいしいソーセージロールはこの世にあると思うけど。
世界で一番おいしいソーセージロールを食べているような顔をしている娘。
全てが、ご機嫌でなにより。
*
大満足のランチを食べて、近くの公園へ。小1時間ほど遊んで、買い物に行く途中、また夫が働くカフェの前を通りかかる。
「おとうさん、まだいるかなー?」
娘は、外からのぞき込んで手を振っていた。
きみ、おとうさん大好きだね。
その小さな後ろ姿を眺めて、幸せを感じたりした。そんな休日。