小説になる5秒前と、note同人誌マガジン
小説を書くことは、何回も何回も書き直すこと。
そんな言葉を知ったのは、ちょうど1年前だった。長編小説の書き方特集が組まれた雑誌で、見かけた。
それまで、きちんと作品を仕上げたことがなく、世の中の小説家と呼ばれる人々は天賦の才能と閃きで傑作を生み出しているのだと思い込んでいた私は、文豪であっても繰り返し書き直すという話に、衝撃を受けた。
執筆スタイルの差はあれど、小説は推敲が大事説は至るところで耳にする。書き直しによって物語が深く鋭くなると知ってから、私は安心してメモ書きのようなプロットに落胆し、初稿の粗さを眺め、推敲でピントのズレた文章に頭を悩ませている。
苦しくて苦しくて楽しい。物書きはドMだと言われたら、頷くしかない。
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小説を書くとき、真っ白なエディタを眺める。視界で、書きたいシーンを繰り返し泳ぐ。
指が打つ文字の、5秒先を頭のなかで見ている。そこに書かれるべき感情、表情、会話、行動、景色、音色、触感。私のなかにしかない、ぼんやりした輪郭を何度もなぞる。
小説を完成させるまでの道のりは、一本の木を彫っているみたいだ。
ざっくり引いた線に沿って、彫る。次第に作りたい輪郭が見えてくる。まったく見当違いの箇所を彫ってしまうときもある。理想の形は遠く、細部まで掘り出したくても到底叶わないなんてこともある。
ひとつの物音もしない夜に、あっという間に溶ける時間は生産性という言葉からは程遠い。
書き出した文字がたった5文字でも、もっといえばゼロでも、小説を書く時間を無駄だと思わないのだから、創作は悪魔的で魅力的だ。
私は、5秒のために費やせる夜があって、よかったと思う。書き切れず思い浮かばない想いに、安心して耽る。
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そうやって書いた小説が、note同人誌『東京嫌い』に掲載されます。
《東京嫌い》のテーマのもと、さまざまな書き手21人が東京への愛憎を描いた読み切りアンソロジー。渋谷の老舗ワインバーのマスター、伊勢で稲をつくってサトナカを売る農民、土とことばを耕す信州のライター。noteで出会った三人による責任編集で2020年の「あの空気」を閉じ込めた、ここでしかよめない作品たちを収録。
マガジンは買い切り型の300円。21人の書き手による作品が、順次公開されます(公開スタート日は、近日発表される予定)。
執筆者ラインナップ第一弾はこちらから。(追記:第二弾、第三弾も発表されました)三回に分けて発表される執筆陣。もしかしたら、あなたの気になる人がいるかも。私は、”いまの季節に味わいたい東京味「大人限定」の新作”を書いたそうです。
購入は、下記のマガジンリンクから。秋の夜長にひと口ずつ楽しめるアンソロジーを、ぜひ。