夏を辿って #寄せ文庫
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私が動物公園通りを歩いていたのは、2000年になったばかりの夏で、17歳だった。桜木町の大観覧車に背を向けて、緑の野毛坂の上にある図書館を目指した。首筋が日差しに焼かれて暑かった。
シャッターを降ろした小さなお店がいくつもあって、コロッケ屋さんだけが開いていたのを覚えている。一日を図書館の静けさの中で過ごして、お腹が空いたら家から持ってきたおにぎりを食べた。
陽が傾く頃に図書館を出る。オレンジに染まっていく空をほんの少し湿り気を帯びた風が流れていく。受験用の参考書が右手に重い。彼氏と通話するために、駅の公衆電話にテレホンカードを差し込む。限られたもので占められていた夏の日を、どこまでも歩いていけると思っていた。
ふみぐらさんと私は、動物公園通りですれ違っていない。同じ時代の、桜木町の空気を吸っていたなんて思えないくらい遠い。なのにコンビニも給水塔も、少しだけせつなく心を引っ掻いていく。
6月に漬ける梅酒みたいに、あの夏の空気にひたされた言葉たち。
夏が近づくたびに、読み返したくなって。はじめてふみぐらさんの文章を読んだのがこの作品だったから、それからずっと、「あの夏」が好きだったりするのです。
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『あの夏のライオン』『あの夏がただいま掛川駅を通過しました』とあわせて、私のなかで「ふみぐらあの夏三部作」になってます。
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