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真夏のクリスマスキャロル #Xmasアドカレnote2019(16日目)


声がする。

耳をすませると、はじけるおしゃべりが聞こえてくる。

ようこそ。ここは、真夏のクリスマス。


***


太陽が光ってる。青い海に宝石の粒が反射している。

12月、南半球は夏だ

午前7時から、全力で肌を焼く紫外線が部屋に届く。青い空に、白い雲が流れ、緑の芝生が光る。人々はサングラスをかけ、鮮やかな色のワンピースを着て、日焼け止めを塗りコーヒー片手に、ビーチで人生の夏を祝う。

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でも、この日は、12月25日だけは、街は静か。

通りの店はすべて閉じ、スーパーすら閉まる。道路を行きかう車は最小限で、海沿いの街に人影はほぼない。波が打ち寄せる砂浜を、ちらほらと、旅人とおぼしき影が散歩している。

世界は、静かに止まってしまった。

人は、どこに行くのだろう。


クリスマスのこの日、人は、家へと帰る。25日は、家族で、友人で、夏の日を祝うために。ワインボトルを片手に、笑顔で集まる。クリスマスツリーの足元には、山積みのプレゼント。デッキで肉を焼くバーベキューの音がする。裏庭に置かれたプールに、子どもたちが歓声をあげて飛び込む。

青空の下のクリスマスに耳を澄ますと、静かに静かに、幸せの声が聞こえてくる。


***


世界の片隅に三人ぼっちの私たちは、クリスマス、山の家へ行く。牛飼いの友人が暮らす家に。

100キロで車を飛ばし、緑の丘が延々と過ぎ去る道を走る。

数件の小さなコンビニと、何年もそこに打ちつけられた看板を掲げるカフェしかない、一瞬で名前を忘れ去ってしまう町をいくつか通り抜ける。

高みに近づくほど、山の緑は深みを増す。

運が悪い、もとい、ついているときは、大量の羊の群れとすれ違う。しばし道の真ん中で車を停めて休憩する。山の家は、山のなかにある。家のうらにはさらに山があり、目に入る3つ先までが彼らの牛たちが育つ山だ。

牛飼いの友人夫婦と子どもたちが暮らす山の家のまわりに、家はない。「あれがお隣さん」と指さした先にある屋敷にたどり着くには、どう考えても15分は歩かなければいけない。

築100年は超えているであろう、カウリの木がふんだんに使われた廊下の窓から、鳥たちの楽園である木漏れ日の隙間を吹き抜ける風が見える。


私たちは、やはり、デッキで肉を焼く。ワインを開ける。互いに酒量の多くない夫婦だから、空になるボトルの本数は少ない。けれど、場をにぎやかにする話題はつきない。

牛飼いの友人夫婦と出会ったのは、3年前。クリスマスの頃に会いに行く交流が続いている。1年に1回だけ。それでも。

「また会いたい」と願う友人に、年月の長さはちっとも関係がないのだと、ゆっくりと傾きを変える12月の夏の日差しが教えてくれる。

窓のむこうの草の丘を、米粒のような羊が歩いている。遠くの池を目指す牛たちの横で、あざみの花が揺れている。

幸せの香りがする時間が、音もたてずに流れていく。


***


クリスマスの終わりを最後まで惜しむなら、夕暮れにむかうビーチがいい。曲がりくねった、はるか先の未来を思わせる道のむこうに、広いひろい海がある。

ふかふかの砂浜を、靴を脱いだ子どもたちが駆けていく。私は、砂についた、小さな足跡をなぞりながら、牛飼いの奥さんと連れたって歩く。

遠浅のビーチは、どこまでも行ける。

岩場に打ち上げる波をよけ、14歳の男の子は器用に貝を探す。12歳の女の子が、つま先で海の水を蹴り上げながら、水しぶきを浴びて踊っている。10歳の男の子は、誰もいない砂浜のキャンパスに幾何学模様を書く。6歳の娘が、大きなお兄ちゃん・お姉ちゃんのまねっこがしたくて、そのあとをちょろちょろと追っている。

誰もが、海のかなたから聞こえてくる、やさしい歌に耳を澄ます。


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視界のすべてを砂浜と青い海と空が占めて、手も声も届かない距離に、希望みたいな人々の姿が見える。どれほど安心することかと、ひとり、大きく息を吸う。

取るに足らない瞬間にある、瞳に焼き付けたい情景が置き去りにする感情の名前を、本当はみんな知っている。

見えているから側にいるよなんて、私たちは、つい、目にする世界と他者の想いとを混同してしまうけれど。

潮の香りの少ない風の匂いをかいで、はじけて消える泡と打ち寄せる波で描かれた砂の模様をなぞって。白い紙に並べた文字から、おなじ景色を思い浮かべるなんて、誰にわかるのだろうというのだろう。

だから。

おわりのない空をかけていく雲の速さを。この目に納めきれない青い水平線の広さを。永遠に白く光りつづける海の輝きを。言葉にする。何度でも。

となりにいるあなたの幸せを願って。一緒に過ごした友人との笑顔を閉じ込めて。知らないあいだに背中ばかり見つめるようになった小さな君の未来を祝って。遠くにいる、好きな人との抱擁を思い浮かべて。

声の聞こえないこの距離を、祈りをのせた歌が、届けばいい。誰にも邪魔されない、愛だけが満ちていく場所から。


***


あなたと、あなたの大切な人が、この日に幸せでありますように。

誰かが優しくつぶやく。真夏のメリークリスマス。




🎄(本文2037字)🎄

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Xmasアドカレnote2019企画、分析好きillyさんからのバトンは、一旦夏のニュージーランドへ。

16日目の今日は、ひたすらに私が愛しく思う景色を言葉にしてみました。

なんてことはない特別な日。人それぞれの、クリスマスがあるんだろうなぁ。

さてさて、明日はどなたかな?

文章でクズ男を生み出し、「焼きそばぐらい自分でつくれ」「フライパンで殴りたい」と読者に言わしめた防波堤ギリギリの小説を生み出した、推しへの愛をまき散らすあの人だよ。

お楽しみに。

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