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傷ついているときの回復のしかた

世の中では、毎日大変なことが起こっている。大震災や事故、目を覆いたくなるような悲惨な事件。

直に被害を負ったわけではないけれど、落ち込むことがある。ニュースや関連した話題がSNSで流れてくると、気分が沈んだり悲しい気持ちになったりする。

人は、「ほかに大変な人がいるんだから、自分なんて」と思いがちだ。

それは、たしかにやさしい気持ちだと思う。でも、気持ちにフタをして余計につらくなってしまうこともある。

そんなとき、傷ついた心を回復させる方法を知っていれば、少しでも楽になれるのではないだろうか。

だから、今日は「Coping after a traumatic event(トラウマ的な出来事のあとの対処)」という冊子を紹介しようと思う。これは、ニュージーランドのMinistry of Health(厚生労働省)が公開しているものだ。

精神的にショックを受けてしまったあと、回復のためにするべきこと、しないほうがよいことについて簡潔にまとめられている。

対応が日常的な行動にだけしぼられているので、非常にわかりやすい。以下、拙訳だけれど内容を紹介したい。

ショックを受けて落ち込むのは、自然な反応

災害や事件があったあと、被害を負った張本人やその家族はもちろん、救助等のサービス提供を行う人だけでなく世間一般の人々も、精神的に苦しんだりストレス症状を抱えることは、一般的なことだと冊子では述べられている。

眠れなくなったり、イライラしたり、頭のなかで事件の映像を何回も繰り返してしまう。ときには、頭痛等の身体症状がでることもある。

これらはトラウマ的な出来事への自然な反応で、ほとんどの人々は数日から数週間でなくなる。「自分がおかしくなったとか」大げさだとか感じるかもしれない。けれど、これはよくあることで、時間とともに治まるものである。

ショックを受けたあと何が心の回復に役立つのか、「すること」「しないこと」は以下の通り。

すること(Dos):

・できる限り、快適で安全だと感じられる場所で過ごす
・あなたがどのように感じたかを口に出す(認める)のは普通の反応であり、そうすることによって(感情が)治まるそしてそれは、恐れることではない。
・あなたの身の回りの人に手を差し伸べる家族や友だちなど、周りの人々と感情を共有し、サポートを申し出ることは回復に大切なこと
日常のルーチンを回す─食事、睡眠、運動
・活動を続ける仕事に行く、お出かけをする、友人に会う。これらのことは、苦痛な気持ちを和らげるのに役立つ
・しなしながら、数日または数週間たっても苦しみやストレス症状が治まらずひどくなる場合は、病院や専門家の手を頼ることが大切。

すべきではないこと(Don't):

事件の詳細について繰り返し話すことは、つらい気持ちを増幅させ回復を遅らせる。あなたの気持ち(感情)について話すことは、(回復の)助けになる。しかし、起きたことや事件の詳細、あなたが見た内容を繰り返し語るのは避ける。
・繰り返し事件を思い出してしまうことは、(回復の)助けにならないし、つらい気持ちを増幅させてしまう。テレビやSNS等で関連するニュースを長い時間見聞きすることは、よくない。もし、ニュースを見てつらくなるなら、メディアから離れリラックスできることを代わりにする
・人生に重大な決定は、悩んでいる期間にしない。あなたが回復するまでは、大きな決断をするのは避ける。

子どもがショックを受けていたら:

Advice on supporting your kids after a traumatic event(トラウマ的な出来事の後子どもをサポートするためのアドバイス)」では、ショックを受けている子どもに対して、親がどのように接するべきかが述べられている。

大きな事件や災害がおきて、もし怖がっている子どもがいたら、親として接し方の参考になると思う。

子どもがショックを受けた反応の例:

・好きなことをしなくなる
・お友だちと遊ばなくなる
・不安そうなそぶりをみせる
・眠れなかったり、悪い夢をみたりして、疲れ気味になる
・赤ちゃんのようなそぶりを見せる
・お腹が痛い、頭が痛いと訴えてくる
・親や養育者の近くにいたがる

親ができること:

・安心させてあげるー事件や災害は終わった、もう安全だということを子どもに伝える
・子どもがどのように感じたのか、気持ちを口に出せるよう促す
・事件について親に質問してもいいのだと伝える子どもの年齢にあわせて、わかりやすい表現を用いる。正直に、ただしトラウマ的な事件の詳細を述べるのは避ける
怖かったり、心配になったり、悲しんでも大丈夫なのだと伝える
・子どもがどのように感じているのか、理解するようにつとめるーショックで、寝付けなくなったり、おねしょをしたり、悪夢をみることがある。もしそうしたことが起きたら、優しくして安心させてあげる。
・子どもとなるべく一緒に過ごすいつも以上に愛情を与え(子どもの行動に)注意を払う
・子どもは、親がどのように対応し安心を感じるかを見ていることを覚えておくあなた自身も不安定になったと共有することは、子どもを安心させる。ただし、一緒に元気になれるとわかっていることも共有する
家族の日常を回すよう努めるー食事、睡眠、学校へいくこと、外で友達と遊ぶこと等
・もし、子どもがいつまでも怖がっていて安定しないようなら、早めに専門家に相談する。

親がするべきではないこと:

・事件の詳細について過度に子どもに話すこと
(ただし、子どもの気持ちについて話し合うことは、回復の助けになる)
「心配するな」「泣くな」という言葉は使わない。不安定になったり悲しくなっても大丈夫なのだと伝える。
・親として過剰に子どもを守ろうと反応しない
(学校に行かせない、外で友達と遊ばせない、公園にいかせない等、すべてに怖がって常に子どもを心配してしまう反応は過剰防衛になる)
・子どもは日常に戻ることで、ふたたび世界は安全なのだと感じられる。

大人でも子どもでも、共通しているのは「怖かった」「悲しい」等の自分の気持ちを認めること。それがが回復への第一歩になる。

そして、日常を淡々と回すことが気持ちを落ち着かせてくれる。「おいしいご飯やフカフカのベッド」とはよくいうけれど、特別なものである必要はない。

ショックが大きいときは、テレビやSNSから離れるのも、余計な不安を増さないための方法だ。

生きているとほんとうに、自分は被害者ではないけれど、傷ついてしまうことはある。

私は、上記のサイトを今年3月15日におきたクライストチャーチのモスク襲撃事件で知った。日本でも報道されていたので、事件を覚えている方もいると思う。

事件が発生したクライストチャーチからは遠く離れた場所に住んでいたけれど、「白人至上主義」を掲げる犯人が事件を起こしたという点で、移民として海外で暮らす自分にとってはショックが大きかった。

しばらくは、SNSもあまりつぶやけなかったし、事件と関係ないつぶやきが目に入ってこなかった。そして、ニュースを見ては涙を流していた。

こういう弱音を吐くと、厳しいことを言ってくる人たちが世の中にはいるけれど、負の感情を認めることは回復に大切だと思う。あのときは、淡々と仕事と日常生活をまわすこと。そして時間がショックを癒してくれたから。


誰かがいま抱えている辛さが、回復の方法を知ることで薄らいでいけばいいなあと、この記事を置いておきます。


<引用>

Mental health advice for coping after a traumatic eventより、
『Coping after a traumatic event』
『Supporting your kids after a traumatic event』
『Easy read - Supporting your kids after a traumatic event』



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