『出雲と大和』(東京国立博物館20200124)の埴輪目撃談
展示順でも歴史順でもないけど、まず円筒埴輪。
円筒埴輪 奈良県桜井市のメスリ山古墳出土(画像はポストカード)
高さ242㎝、底部の直径90㎝、口縁の直径131㎝。世界最大の円筒埴輪。よく東京まで運んできてくれた。
メスリ山古墳の後円部、竪穴式石室の主軸線上に立てられていた。
その存在は知っていたけれども、見るのはこれが初めて。大きい。数字より大きい。
突帯は8条。突帯が取れているところは黒く、サンドウィッチ状態なのがわかる。
ほか、黒斑あり。赤い部分もある。焼きによるもの?赤彩?
口縁部が二重口縁なのかどうか、上から見たい。
そして本展最大の衝撃。いちばん上の突帯をよく見たら、ギザギザ三角の鋸歯紋があった!
ポストカードでは、知っていてもよくわからない。図録では確認できる。
なぜこんなところに、地味に鋸歯紋を刻んだのか?
立てたあとは誰にも見えないのでは? 人に見せる目的ではないということか。
ほかに紋様は見当たらない。
ちなみに透孔は逆三角形。鋸歯紋と関連あるか? それとも弧帯紋からの流れか?
メスリ山古墳出土の埴輪はほかにも2体の円筒埴輪が来ていた。
高いほうで119.2㎝。本来なら大きいほうだが、本展では小さく見える。
透孔は、三角形と逆三角形の2種。
口縁は軽くひらく。二重口縁ではないようだ。
少しさかのぼる。出雲へ移動。
島根県出雲市の西谷(にしだに)三号墓(四隅突出型の墳丘墓)出土の弥生土器(吉備系)4点。吉備から運ばれてきたとのこと。
そのうち特殊器台(吉備器台)は高さ82.9㎝。
二重口縁。上端がややすぼまる。並行沈線あり。
口縁の下の胴部は、エンタシス様にふくらんだあと、脚部近くでゆるやかに広がる。
足部はすぼまり、しっかり踏ん張る。
透孔は長方形。残りが悪く、透孔の周りの紋様はわからないが、少なくとも弧帯紋ではないらしい。
赤く見えたが、赤彩の有無の記載なし。吉備で赤く塗装済み?
吉備器台に乗せられた特殊壺(吉備壺)の口縁の形は吉備器台同様だが、並行沈線の上に鋸歯紋を刻む。
胴部に突帯あり。2条か。突帯にも並行沈線。
全体に赤い。これは顔料が塗られていそう。
山陰系の弥生土器の赤彩は水銀朱によるものだそうだ。
吉備系の赤彩の顔料はなんだろう。
ところで、吉備器台と吉備壺、普通器台と吉備壺。ほかにも出土していると思うが、この組み合わせで正解? サイズが合っていないような。
普通器台には吉備壺は重たそう。胴部が吉備壺の首くらい細い。高さは壺よりはある、というところ。
ちなみに、去年は奈良県橿原市の葛本弁天塚古墳出土の吉備器台と吉備壺を見た。
こちらの吉備器台は、西谷三号墓出土品にくらべ高さは同じくらいだが太かった。弧帯紋あり。
吉備壺は胴部のプロポーションは似ていたが、二回りくらい大きく、口縁の上端が広がっていた。
時代を下る。本展の入口に、出雲大社本殿の柱たち。
心御柱と宇豆柱、太い。心御柱の最大直径140㎝、宇豆柱の最大直径135㎝。それぞれ3本一組。3本束ねた直径は約3m。
心御柱と宇豆柱の間の距離も忠実に再現され、見上げると、太さ高さがイメージできるよう工夫されていた。やはり天井の高い展示室はいい。
巨大円筒埴輪が重なる。(画像はチラシとポストカード)
奈良県御所市の室宮山古墳出土の埴輪5体。
ユギ形埴輪。
高さ147㎝。矢筒は角筒、背部は円筒の半角筒型。
マジカル。やじりがなかったら何の埴輪かわからなそう。
線刻たっぷりで豪華。直弧紋もいいけど、帯状の階段刻みがすてき。
ヒレは実際のユギだと邪魔だろう。ユギからほとばしるオーラのあらわれか。
矢筒の側面、鍵手紋とのこと。
盾形埴輪。高さ135㎝。
中央部に格子紋。格子には斜線がひかれ、菱形をなす紋様になっている。周囲は鋸歯紋。
冑と盾を組み合わせた埴輪。
高さ159㎝。
冑に階段刻み。盾の紋様は大きめの鋸歯紋。
冑と盾はたぶん分割成形。盾がつく円筒の上端はすぼまり、ハイネックみたい。
草摺形埴輪。高さ77㎝。上に短甲形埴輪が乗っていたらしい。
帯状の線刻のあいだに、斜格子紋。いちばん上の綾杉紋は腰緒らしい。
家形埴輪。
高さ120㎝。屋根は入母屋造り。網代紋。
カツオギは反っている。断面に半円の線刻。出雲大社のエンタシスなカツオギとは違う。
軒の縁と軒下に階段刻み。
柱に直弧紋。裾廻突帯に方形の線刻。
動物埴輪と人物埴輪は、出雲出身と大和出身が同じ舞台で共演。
島根県松江市の平所(ひらどころ)遺跡出土の見返りの鹿形埴輪と馬形埴輪。
鹿形埴輪は
長い首で見返る。(残部の高さ93.5㎝。画像はチラシ)
見返り美人。美人の基準のひとつは首か。
角は別づくりで、色が違って見えた。
しっぽなし。欠けてしまったらしい。脚もほとんどないが、それでもこれだけ美しいのは驚きだ。
馬形埴輪
目が大きい。(高さ81㎝。画像はポストカード)
まぶたあり。たてがみの前方が折り返されて結ばれている。脚の下端が広がっている。
出土したのは平所遺跡の埴輪窯跡。ということは、墳墓にたどり着けなかったということだ。
出来はどちらもいいと思うが。何があったのか。
奈良県橿原市の四条1号墳出土の見返りの鹿形埴輪。高さ62㎝。
角がなく小型だから子鹿か、とあったが、埴輪はだいたい実物より小さめである。成体の牝鹿かも。
脚の下端が広がっている。
奈良県田原本町の笹鉾山(ささほこやま)2号墳出土の馬形埴輪・人物埴輪。
それぞれ3体ずつ出土したうちの1体ずつが出演。
人物(高さ58.3㎝)は馬を連れているとみなされているらしい。入れ墨のある彼は笑顔で左手をあげる。
馬形埴輪(高さ73.5㎝)は胸繋を線刻する。たてがみや脚の下端が広がっているのは平所遺跡出土の馬形埴輪との共通点。
笹鉾山2号墳は直径24mの円墳。小型の墳墓でも、埴輪は立つ。
島根県松江市の島田1号墳出土の男子埴輪。残部の高さ36㎝。
短めの下げミズラを結う。頭には帽子か何かをかぶっているもよう。
右腕はないが、左手の指はちゃんと5本あり、何かを持っているような手つき。
奈良県三宅町の石見遺跡出土の椅子に坐る男子埴輪。
高さ76㎝。イワミンのモデル。
前髪が振り分け髪なのがよくわかる。そのしたにハチマキ。ミズラは失われている。
横に回り込んでみたが、後ろは入れなかった。背面を見たかった。
手は左右とも輪をつくる。何か持っていた?
上衣の裾が分厚い。
脚結の紐は前で結ぶ。足首には玉をつないだアンクレット。
椅子は側面から棒が出ている。構造がよくわからず。逆台形の横長の前面には直弧紋。足置きつき。
人物と動物の埴輪のうち、彼だけ鼻の穴がなかった。
埴輪以外の展示物も、埴輪につながるものがある。
準構造船の竪板。直弧紋が刻まれている。上手に削られている。この板だけでも芸術。
ちなみに、船形埴輪もモデルは準構造船といわれている。竪板は、あるものとないものとがある。
鹿角製の刀子。柄に直弧紋あり。
銅鐸。下のほう、鋸歯紋が帯状にめぐるものが多い。
ウミガメの絵がある銅鐸の下部には、鋸歯と半円とが並んでいた。
荒神谷(こうじんだに)遺跡出土の銅剣168本。
これで出土の半分にも満たない。という数の多さは実感できた。茎(なかご)部の×印も見えた。
しかし平置きだった。のぞき込まないと見づらい展示はもったいない。
出来れば立ててほしかった。壁いっぱいに。いっそ天井に。
もちろん平面に寝かせたほうが出土品も観覧者も安全とは思う。
石上神宮(いそのかみじんぐう)蔵の七支刀。
裏表が見える展示はありがたい。象嵌された文字がいくつか読めた。金のすごさは美しいだけではない。
しかし横になっていた。この特殊な形は、立てて展示したほうが映えると思う。文字も縦書きだし。
(後日談。トーハクサイトに『七支刀は保護のため、横向きで展示しています』とありました。銅剣も同じ趣旨で平置きだったのかも)
鹿形埴輪の角を思い出す。(画像はチラシとポストカード)
おなじく石上神宮蔵の鉄盾、2つ。大きいほう、143㎝。
鍵手紋というのは、凹凸を描く線と斜線との組み合わせ?
なるほど室宮山古墳のユギ形埴輪の線刻もこんな感じだった。と図録を見て思う。
本展のポイントのひとつは大きさ。
もうひとつは紋様。
メスリ山古墳の巨大埴輪の突帯の鋸歯紋。
室宮山古墳の埴輪の階段刻みと鍵手紋。
イワミンの椅子その他の直弧紋。
謎の紋様、直弧紋展をどこかで開催してほしい。
図録購入。
320ページ、写真多数。これで税込2,500円はお買い得。
242㎝の円筒埴輪の突帯の鋸歯紋が見える!
欲を言えば、埴輪の背面や部分の拡大写真がほしい。
それから、展示会場にはあった、墳墓での埴輪配置予想図を図録にも載せてほしかった。
ポストカード、埴輪もの3枚購入。
イワミンモデルやユギ形埴輪のもあればなあ。
いや、全部の埴輪の葉書を作ってほしかった。
グッズはぬいぐるみ他いろいろあって、それもいいけれど、もっと実物に近づきたい。
実物が魅力的すぎる。
本展の撮影は原則禁止。復元展示の2か所のみ撮影可、フラッシュ禁止。
このページの画像は、チラシとポストカードの画像です。
2020/1/24訪問
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◎日本書紀成立1300年 特別展 出雲と大和
於・東京国立博物館 平成館
開催期間:2020年1月15日(水)~2月26日(水)
(当初3月8日(日)までの会期を予定も、政府の要請により、新型コロナウイルス感染防止のため、2020年2月26日(水)をもって閉幕。つらい。くやしい。かなしい)
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以上、『埴輪のとなり』掲載の目撃談を修正して再掲しました。