『発掘された日本列島2018』の埴輪目撃談
今年の埴輪は壁ケース展示。
神田(じんだ)・三本木(さんぼぎ)古墳群(群馬県藤岡市)のK-10号墳
人物埴輪4体、円筒埴輪2体。
河原石を積み上げて造った、直径12mの円墳。
小型の円墳だが、ちゃんと埴輪を立てた。
人物埴輪は、横穴式石室東側から出土。
女子が3体。
うち2体は
鼻がない。
惜しい。つらい。
本人は笑ってるけど。
髷は鼓形。板状、直線的。
耳環(じかん)をつけている。耳玉いっぱい。
ちなみに耳玉は女子埴輪でしか見たことがない。
こちらの彼女の耳まわりは不明。
かんぱーい
という雰囲気だが
彼女が手に持つもの、図録によれば「祭祀具」。
具体的には何なのか。気になる。
中空ではない。
胸は取れてしまったらしい。右手の腕輪も。
左手の腕輪には
鈴がついている。
さて
このタイプの上衣は初めて見た。
上着の上に一枚重ねて、さらにもう一枚はおる。三枚目は前を開けている。
カーディガン?
新しいモードなのか。
本展でただひとり、鼻がある埴輪。
だからというわけでもないだろうが、美人。
そういえば浮世絵の正面顔は鼻が強調されていま一つと思った。
神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博 および 常設展(神奈川県立歴史博物館)の目撃談
正面顔を描くって難しいのか。
でもミュシャは正面顔が得意だった。
ミュシャ展(国立新美術館) の目撃談
正面の椅子にすわって美人埴輪をつらつら眺める。
美人の埴輪は大勢いると思うが、いまひとつ活用されていなくてもったいない。
ヒビが入ってたりするから使いにくいのか。
髷は板状だが輪郭は曲線を描く。
額に、というかおそらくは前髪に、櫛。
耳玉あり。耳環は取れたか。
両手首に鈴らしきものあり。腕輪の残りか。
さて
男子埴輪は本展では彼一人。
彼も鼻がなくて残念。
輪郭にのせた粘土がそがれて、口元もはっきりしない。
残っているのは、振り分け髪に下げミズラ。
後ろ髪を垂らしているかどうかは、確認できず。
大刀、ストライプの鞘に収められている。これが最大のポイントかな。
上衣は普通の埴輪服。
帯が太いわりに、蝶結びは細い。
前腕に籠手を着ける。
小さめの円筒2体。
破片ごとに、内側に白い文字でメモ。
破片でも内外が分かるということだ。
金井東裏遺跡(群馬県渋川市)
古墳時代、榛名山が噴火した。
甲冑を着けたまま火山灰に埋もれた男がいた。
これは彼と彼の甲のレプリカ。
身長164㎝とのこと。もう少し大きく見える。
レプリカは原寸大だと思うが、記載なし。
彼のかぶっていたらしき冑。
衝角付冑。シコロつき。頬当てつき。コーティング済み。
頬当ては、埴輪だと側面のシコロの下につきあごまでのびるが、実物はちがうのか?
衝角はわかるが、頂部に何かついていたかどうかは、この状態ではわからない。
ちなみに、左の古墳時代キャラの彼がかぶるのは、眉庇付冑。新しいタイプの冑。
紐や糸などが裏にくっついていた。部品のつなぎ方の大事な手がかり。
装飾古墳。
すてきな入口。
福岡県の王塚古墳の石室がモデル。
装飾古墳とは?
東京都江戸東京博物館のサイトによれば
「主に横穴式石室内の石材に、線刻、浮彫、彩色によって、幾何学的文様や器材・動物・人物等の文様を施すもの」
壁画つき石室を持つ古墳のことらしい。
本展出演の7つの装飾古墳の所在地を確認。
装飾古墳は、東北の太平洋側と九州の北部に集中している。
史跡 羽山横穴(福島県南相馬市)
6世紀末~7世紀初頭築造と推定。
赤色顔料と白色粘土で彩色。
奥壁に、人物・馬・渦巻紋・長方形。側壁と天井に珠点紋。
保護対策:保存施設を設ける。
改めて、今回フィーチャーされているところに戻る。
特別史跡 王塚古墳(福岡県桂川町)
全長86mの前方後円墳。6世紀中葉築造と推定。
彩色は、赤・黄・緑・黒・白。モチーフは、三角紋・蕨手紋・馬など。
双脚輪状紋。ここでは脚様のものが下についている。
歴博には模写があった。
保護対策:実物大レプリカを製作。実物は年2回公開。
ちなみに、王塚古墳からは埴輪も出土している。
柳沢 一男『〈遺跡を学ぶ〉010描かれた黄泉の世界・王塚古墳』2004(新泉社) によれば、円筒埴輪・朝顔形円筒埴輪・キヌガサ形埴輪・家形らしき埴輪が出ている。
福岡県の呰見(あざみ)大塚古墳(福岡県みやこ町)
直径13mの円墳。6世紀後半築造と推定。
石室の壁に、同心円紋・円紋・三角紋などが赤い顔料でえがかれる。
写真ではよく分からず。
保護対策:現地保存。
石室から出土した馬具。
馬具の説明をするのは馬形埴輪。
史跡 清戸迫横穴(きよとさくおうけつ)(福島県双葉町)
7世紀前半築造と推定。
奥壁に、七重の渦巻・ 人物・馬・鹿・などが赤い顔料でえがかれる。
東日本大震災の立ち入り制限地区につき、現在は一般公開されず。
保護対策:VRによる公開を予定。
合戦原遺跡第38号墓(宮城県山元町)
7世紀後半~8世紀前半築造と推定。
線刻。
奥壁に、人物・動物・サシバ・ユギ・家・葉など。
葉っぱは珍しい。
だが、どれがなんなのかよく分からず。
現地保存困難のため、13分割して搬出。
保護対策:修復・公開の準備中。
史跡 井寺古墳(熊本県嘉島町)
直径28mの円墳(前方後円墳かもしれない)。5世紀末築造と推定。
彩色は、赤・白・緑・青。
直弧紋・円紋・梯子紋などが線刻・彩色される。
熊本地震により墳丘に幅30㎝の亀裂が入り、羨道の天井石がずれる。
小型カメラによる調査で石室も被害を受けていることを確認。
保護対策:復旧に向け調査・検討中。
史跡 釜尾古墳(熊本県熊本市)
直径30mの円墳。6世紀中葉築造と推定。
彩色は、赤・白・青。
石室の下部は赤、上部は白。
双脚輪状紋・三角紋・円紋など。
小型カメラ調査で羨道の天井石が一部崩落、土砂混入。
保護対策:復旧方法を検討中。
崩れてしまうと壁画の上下がわからない。よく調べれば判明するか。
空洞を内包した人工の山だから、壊れる危険は高いと言えよう。
その割には、1500年もの間よく保たれてきた。
造りかたがうまいということになる。
振り返ると
本展の装飾古墳の展示は、入口がピークだったように思う。
他の遺跡の展示物は出土品が多いから、相対的に印象が弱い。
大きい写真は写真としてもいいものが多かったけど、小さい写真だけのものはわかりにくい。
展示の後半だから、集中力が落ちている。
結果、流し見されてしまう。
もったいない。
実物展示ができないから仕方ないとはいえ、もう一工夫欲しかった。
実物の魅力に追いつかなさすぎる。
特徴的なモチーフを拡大して示すとか、
歴博など他館の模型や模写を借りてくるとか、
原寸大くらいの写真の中に解説を入れ込むとか、
それこそ技術を駆使して何とかできないか。
3Dホログラムとか。
小型カメラで撮影した石室内の映像を流すとか。
なんとか。
そういえばクローン文化財というものがある。
素心伝心 ―クローン文化財 失われた刻の再生(東京藝術大学大学美術館) の目撃談
これは大掛かりすぎるか。
でも、限られたスペースだからこそ、
別世界観や臨場感を演出して、鑑賞者をひきつけて取り込んでほしい。
ただ、よく考えたら巡回展だから、他館では違うのかも。
トップバッターは問題点をあぶり出す。
埴輪と古墳を離れる。
縄文時代 特別史跡 加曾利貝塚(千葉県千葉市)
貝塚の中のイノシシの骨。
丁寧に埋葬されたイヌの骨と、かそりーぬ。
きれいに骨が残っているなあ。土が保存に向いていたのか。
そんなに大きくない犬。
日本犬? 倭犬?
鹿の角から作ったもの。
左から、釣り針、銛頭(もりがしら)、弭(ゆはず)。
角は、骨とは違った利用ができたのだろう。
原材料、鹿角の現生標本。
強度、硬度はどうなんだろう。
高いから利用しているはず。
この角で突き合うこともあるわけだし、硬くないと困る。
でも加工しやすくないと、それもまた困る。
歯と比べたら、どっちが硬い? 歯かな。
縄文時代 保美貝塚(愛知県田原市)
ここにも鹿角。
鹿角製の弭(ゆはず)形製品、根ばさみなど。
縄文時代 本ノ木遺跡(新潟県津南町)
本展でいちばんすてきな展示。
石槍を宝石のように扱っている。
ペンダントトップみたい。
ちょっと大きいけど。たぶん重いけど。
ところで石矛というのは聞いたことがない。
矛は刀身に柄を差し込む。
石では、柄のための空洞を作るのが難しいからか。
空洞があると脆くなるだろう。古墳と同じ。
ポイントを描いたボードが、陰にひっそり、展示物と離れたところにあった。
あまりうまくないやり方では。 見落とすところだった。
逆に、利用されている技術については、まとめて紹介するコーナーを作ってもよかったのでは。
パネルを大型にするだけでも違うと思う。
地域展 「東京郷土資料陳列館と考古学」
埴輪がここにも。
芝公園第3号墳出土の円筒埴輪片。
埴輪の裏に情報を書きとめる。
ところでHaniwa、括弧してclay image。
埴輪について話せば長くなるので、Haniwaとしか言いようがない。
島津製作所製作の埴輪のレプリカ。
レプリカは、
埴輪の存在を知らしめるために重要物件なるも、
埴輪のサイズ感を狂わせることもある両刃の剣。
「思ったより大きかった」と言う人が後を絶たず。
本展みたいに出土品も見ることができるなら問題ないが。
1933年の教科書『国史を彩どる我等の郷土 東京府』上巻に埴輪。
東京たてもの園は、まだまだ埴輪を持っているらしい。
図録。
展示パネルの内容がすべて載っているわけではない。
逆に、展示パネルに書いていないことが書かれていたりもする。
またね。
彼女を見て思う。
埴輪に求められているもの、というか埴輪が備えているものは、美とはまた別のものなのかも。
(2018/6/5(火)訪問)
『第24回 発掘された日本列島2018 新発見考古速報』
会場および開催期間
東京都江戸東京博物館:2018年6月2日(土)~7月22日(日)
石川県立歴史博物館(石川県金沢市):2018年8 月 4 日(土)~9 月 9 日(日)
岐阜市歴史博物館(岐阜県岐阜市):2018年9 月 22 日(土)~10 月 31 日(水)
広島県立歴史博物館(広島県福山市):2018年11 月 14日(水)~12 月 24 日(月・祝)
川崎市市民ミュージアム(神奈川県川崎市):2019年1 月 8 日(火)~2 月 17 日(日)
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以上、『埴輪のとなり』掲載のページを修正し再掲しました。
今年も行くぞ! 列島展!
お読みいただきありがとうございます。サポートいただきましたら、埴輪活動に役立てたいと思います。