【大穢-前編-】戦後復興の過渡期を陰鬱な雨と孤島と探偵で彩るBLゲーム:大穢 プレイ感想[ネタバレ控えめレビュー]
本記事は昭和中期・絶海の孤島で行われる三回忌が舞台の変格ミステリ成人向けノベル"大穢-前編-"のレビューです。
※18歳未満の方は閲覧をお控えください。
日本文学・古典作品への隠しきれないリスペクトから成る、物語とBLに飢えている人には最高にオススメしたい傑作ノベルゲームです!
©ADELTA 配信情報一覧
ADELTA公式のHPにて特典・最新情報などが掲載されています。
◆作品情報
タイトル:大穢-前編-
サークル:ADELTA
ジャンル:古典クローズド・サークルを日本色にアレンジした昭和ホラーミステリー
レーティング:R-18版(2024年10月25日)
攻略人数:3名 有明/新橋/青海 主人公総攻め
スタッフ:くろさわ凛子(スチル・シナリオ・スクリプト・BGM)
対応OS:win7 , 8 , 10 , (11) Mac非対応/2025年スマートフォン版 発売予定
備考:主人公・モブ含めフルボイス/今冬に後編が頒布予定
◆総評(本編のネタバレなし)
今作を発売初日から遊べたことを生涯誇りに思うほど、上質なプレイ体験でした。
公式からもアナウンスがある通り題材が題材であるため、おいそれと口に出して面白かった! 最高! とは叫べない作品であります。
元はと言えば過去作・古書店街の橋姫(https://adeltaz1.wixsite.com/adeltaz1/untitled-c205d)をはじめ、エンタメとして消費されるだけに留まらない悪人の描き方が好きでADELTAを追い始めた経緯もありました。今作でもそれがしっかりと表現されていたことから、やっぱりこのサークル好きだわ~と再認識。なのでこの感想もどっぷりなADELTAフェローが書いていることを念頭に置いてください。
本作の参列者達(攻略対象)は全員殺人鬼。
非常に目を引く惹句ではありますが、本作で描かれるのはそんなと彼らが絶海の孤島に集まるに至った過去の数々。普段生活していればまず関わることのないであろう人種の彼らの姿が、さっぱりとした文体で非常に人間臭く語られていきます。
悪人という一言では片づけずに、かといって過度に寄り添うこともなく。主人公・大崎が持つ裁判記録の主文のような無機質さ(たまに年相応のツッコミも添えて)に、これを執筆したのは判事ではないか? と思うほど島で起こる事件や参列者達の過去の罪状が簡潔に、しかし確かな驚きと共にプレイヤーに明かされていきます。
自分自身も痛い所を突っつかれているような、彼らの過去や許されざる罪に驚かされつつ心のどこかでは共感せざるを得ない、非常に奇妙な後味を持つ作品です。
似た感触の作品をあげるのであれば、吉里吉里製・同人発・原作はほぼワンマン制作と何かと共通点の多いTABINOMICHI制作”シロナガス島への帰還”の他に、CLOCKUPの“鏖呪ノ嶼”などでしょうか。戦後復興の陰鬱な面を描いた作品としは、ゲ謎なんかも各所で上げられていそうな感じ。
特に鏖呪ノ嶼は呪い・呪術といったSF要素こそあるものの純和風な日本が舞台となっており、男性向け版大穢といってもおおむね差し支えがありません。あちらさんもシブい主人公と敵役のキャラが良い味を出しながら、人の怨念・恨みの凄味を硬派な文体で書き上げられた良作です。
同じく2024年発売の成人向けADVということもあり、近い雰囲気を感じる人も多いのではないかな。あちらもかなり横溝の影響を受けていたし、一般・成人向け問わずじわじわと伝奇ブームが来ているのかも。
体験版部分を含めるとプレイ時間はおよそ20時間弱ほど。前半だけでこの大ボリュームとくると、後編への期待も高くなるばかり。豪華声優陣×フルボイスの本作ですが、頒布価格に関しては(購入して例の特典見た人ならお分かりいただけるだろうけど……)ちょっと安すぎて破産しない? と思うほどのボリュームです。
……私は本編含め、この"御礼メッセージ"が大穢において最怖のホラーコンテンツだと思っています。
・システム面について
・オート・スキップ・バックログ搭載
・主人公・攻略対象・モブ・各種SEの音量調節機能搭載(消音可)
・EDスキップ不可
・シーン回想・エンディング回想なし
・クリア後、人物情報・tipsが追加
選択肢によって取り返しがつかなくなる初見殺し要素はなし。
シーン回想は各キャラ3つほどはあるものの、基本的にはこまめにセーブを行っておくことを推奨。
・主人公 大崎について
離島で行われる三回忌への代理参列という、奇妙な依頼を受けるところから始まる本作ですが、物語が進むにつれ徐々に彼を形成するとなった過去や生い立ちに触れることとなります。
物語全体を形成する時代背景は暗く重ったるい雰囲気が拭えませんが、そんな中でも大崎は常に参列者に協力を要請し平和を望む、良くも悪くも”善人”でありたいと望む青年です。
どのルートでも共通しているのが、彼がひたすら“人として在る事”に非常に重きを置いているということ。しかしその決心も決して巌の様に頑なという訳ではなく、時には弱みやゆらぎが現れる場面も。
それをあばたと取るか、えくぼと取るかはプレイヤー自身の自由です。決して清浄なだけの物語ではなく、色々な意味で耐性が求められるシナリオのため、ルートによっては強烈な不快感を覚える人も少なからずいるかと思います。
それでもどうか、ただ船で道行が一緒になった人のためだけではなく、”自分が自分であるために”行動しようと奔走する大崎の行く末を、ぜひその目で確かめてみてください。
今作は変格ミステリということもあり、詳しいネタバレ・考察はブログに掲載しております。
以下にクリア後の感想・下敷きとなったオマージュ作品についての考察記事や聖地巡礼のレポなどを掲載しておりますので、クリアした方は是非こちらもご覧ください。