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腹を割ったら血が出るだけさ

タイトルを見て今までの住野よる作品とは雰囲気の違った、ハッキリしているというか少し乱暴というかそういうのが気になり手に取った。全体の印象は『よるのばけもの』に近いと思う。高校生が自身の表と裏に葛藤し、人との出会いで変化していく様子が主軸の物語。

今日もいつも通り、愛されたいを選んでしまう

愛されたいに、押し潰されていく

愛されたいに縛られ、人を見て考え行動してしまう糸林茜寧。そんな自分が嫌で嫌でたまらない。そういう感情は自分にも思い当たる節があり、茜寧目線で読んでいた。

ただ、小楠なのかの言葉を借りれば「誰も主人公ではない」のであり、宇川逢の考えに沿える人もいれば、上村竜彬に共感する人もいるはずで、そういった目線でみると物語の構成がよくできている。

「どうかこの物語が、あなただけものでありますように」

この最後の一言が小楠なのかが目指した物語の形を表しており、もしかしたら住野よる先生の思いでもあるのかなと勝手に推測した。



茜寧のことでいうと、自分の嫌いな部分を否定し続けるのは本当に辛い。そこから、一緒にいてもいいやと、嫌な部分を無くすのではなく共存する方向にもっていけたのはある意味救われたと言ってもいいのではないだろうか。

「私が外側で守ってあげる。だから、ここを好きになれる場所にするのは、任せる」


また、後藤樹里亜がアイドルとして作り上げた自分のストーリーを過去の自分が世に知れることで否定されているように感じる場面。これまでの積み重ねは自分しか知らないもので、それを知らない他人の言葉をトゲに感じてしまうのも、説明できない辛さがあるのだろう。
アイドルである自分を完璧なまでに表現する樹里亜を個人的には尊敬する。

百や二百の盾は、たった一つ、それがたとえ自分自身以外の誰にも刃だとは見えていないような言葉で、嘘のように砕け散る。


愛されたい自分がいて、そうではないただ自分が思う好きなものが好きな自分がいて、自分の中の大切な部分は自分だけのものにして守っていく。表と裏があってもいい。そういう生き方ができたら少しは楽になれるかもしれない。


出典:『腹を割ったら血が出るだけさ』住野よる
   双葉社

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