【日本株】PBRは、投資尺度として機能するのか?
古い議論だとは思うのですが、低PBRの銘柄は、投資対象になるのか? について考えてみたいと思います。
特に、ROEが高いのにPBRが低い銘柄は、投資チャンスになるのか?
また、ROEとPBRの間には投資判断の参考になるような規則性はあるのか? について考えてみたいと思います。
そもそも論として、以下の2つを前提として持っており、ならばROEとPBRの間には規則性があるのでは? そして、ROEとPBRを使えば賢い投資が出来そうだが、果たしてそのロジックは実際の株式市場で機能しているのか? といった発想から上記の問いになっています。
PBR=ROE×PER というわかりやすい公式がある
ROEは、自己資本に対するリターン。なので、ROEが高くなるほど、自己資本に対する評価(=PBR)も高くなるはず(=それが道理のはず!)
それから、本題に入る前に、一点、お断りを。
以下では、なるべく偏りがないように分析し、何らかの結論が得られるといいなと思いながら作業を進めましたが、「明確な結論」的なところまでは至っていません。ですので、「オチのない話」的になっていますが、ご容赦ください。
では、本題に。
ROEとPBRの関係はどうなっているのか?
ここでは、食品業界を事例にして検証してみたいと思います。
先に、大凡の結論を記しておくと、前述のロジックは「時価総額の大きな企業や、非常に高いROEを叩き出している企業についてはほぼ成立している」。しかし、「時価総額が小さくなると機能していない企業が現れる(=市場の非効率性か?)」といった状況になっています。
なので、「そうなっていない時価総額の小さな企業は、投資チャンスになるのか?」という疑問が生まれてきます。
まず、食品業界の全体図です。
株価は2023年12月1日の終値。
ROEは「直近の終わった期の数字」を使っています(尚、赤字企業は除外しています)。
全体として、やや緩い相関ですが相関係数は0.59です。
縦軸(Y軸)= PBR
横軸(X軸)= ROE
それほどくっきりとした相関ではないですが、ROEが高くなるほど、PBRも高くなるという右肩上がりのグラフになっています。
上記の全体像を「時価総額」で区分けすると、それぞれの時価総額帯の特性がわかりやすくなります。
特に、日本における資本コストは概ね 8% と言われているので、ROEがそこを下回っている場合、PBRはどうなっているのか? 同じように、上回っている場合、どうなっているのか? が気になるところです。
時価総額1兆円以上の大型株では、概ね「右肩上がり」のグラフになっています。加えて、ROEが一番低い企業(明治ホールディングス)でも7.16%であり、PBRは(1.0倍超えの)1.40倍となっています。
次に、時価総額5,000億円~1兆円の企業です。
この帯域には4社しかいないので「右肩上がり」を確認するのが難しいですが、それらしく見える(ように感じる)配列です。
規則性とは関係ないですが、上記の「1兆円クラブ」の企業と比較すると、全体としてROEが少し低く、PBRも低いバリュエーションになっています。
以下は、時価総額1,000~5,000億円のグループです。
外れ値的な企業が2社ありますので、グラフとしてやや見づらい感じになっています(以下に、2社を除いたグラフを貼っています)。
2社は、寿スピリッツ(2222)と森永乳業(2264)です。
前者は、ROE 36.05%、PBR 13.56倍。
後者は、ROE 27.68%、PBR 1.15倍。
上記2社を除いたグラフです。
「右肩上がり」という規則性は感じられず、分散したグラフになっています。
以下は、時価総額500~1,000億円の企業です。
ここも高いROEとPBRの企業が1社あり、その企業を含めると「右肩上がり」のグラフに見えるのですが、その企業を外すと違う風景になりますので、このグラフの下に(その企業を外したものを)貼り付けています。
その企業は、プレミアムウォーターホールディングス(2588)。
ROE 24.46%、PBR 4.09倍です。
前述の1社を除いたグラフです。
ROEが上昇しても、PBRは1.0倍近辺で横ばいといった感じです。
以下は、時価総額100~500億円の企業です。
このサイズになると中小型株ど真ん中といった感じでしょうか。
グラフとしては、高いROEと高いPBRの企業がいくつか存在しますので、全体としては一見、「右肩上がり」に見えます(こちらも、ROE 20.0%以上の企業と、PBR 10.0倍以上の企業を除いたグラフを下に貼り付けています)。
それから、PBR1.0倍割れの企業がたくさん出現しています。特に、ROEが8%を超えているが、PBRが1.0倍割れの企業がいくつか存在します。
上記のグラフから、ROE 20.0%以上の企業と、PBR 10.0倍以上の企業を除外したものです。見方によっては「右肩上がり」に見えなくもないですが、かなり分散したグラフになっています。
そして、PBR 1.0倍を下回る企業がたくさんあります。
最後に、時価総額100億円未満の企業です。「右肩上がり」の規則性はほとんどなく、またPBR1.0倍以下の企業がたくさん存在します。
まとめると、① 全体として、時価総額が小さくなるほど、ROEとPBRの相関は無視される(機能しない)傾向にある、② 但し、時価総額が小さくなっても、非常に高いROEを叩き出している企業は、PBRも高く評価されている、といった感じでしょうか。
中小型株になると機関投資家がいなくなるため、非効率性が生まれやすくなるということかなと思います。
個別企業単位で見ると、どうなっているのか?
全体像の概略が把握できたので、より具体的な特性をあぶり出すために個別企業をいくつか見てみます。
「ROEが高い企業(8.0%以上)」の中で、「PBRが高い企業」と「PBRが低い企業」を選んでみました。以下のリストが、それらの企業群です。
上記企業のROEとPBRをプロットしたのが下記のグラフになります(横軸=ROE、縦軸=PBR)。
見ていただけるように、同じようなROEなのにPBRにはかなり大きな差があります。ROEが8.0%以上あるのにPBRは1.0倍近辺の企業群と、同じようなROE水準なのにPBRが2.0倍~4.0倍近くある企業群です。
この差は、どこから生まれてくるのか? が気になるところです。
そこで、それぞれの企業の過去のROEとPBRの推移を時系列で調べてみました。具体的には、「過去10年間のROEとPBR。それに、今期の会社予想をベースに概算したROEと現状のPBR」で、それらをプロットしたのが下記のグラフになります(横軸=ROE、縦軸=PBR)。※ 株価は、各年度の通期決算が発表された日の月末終値を使っています。
確認したかったのは、「企業の業績は良くなったり、悪くなったりするが(=ROEは上下する)、それにあわせてPBRの水準も上下しているのだろうか?」という点です。
すると、上記の企業群は3つのタイプに分かれるようです。
タイプA
ROEが上昇(下降)すると、PBRも上昇(下降)する企業(=市場の効率性が機能している企業)。
タイプB
ROEとは(ほぼ)無関係に、高いPBRを維持している企業(=割高?企業)。
タイプC
ROEが上昇しても、PBRは上昇せず、ずっと低いPBRのままになっている企業(割安?企業)。
それをグラフにプロットしたのが、下記になります。
まず、タイプAの代表例として2社。
日本たばこ産業(2914)。
時価総額 7.7兆円。
ROEの上昇・下降に応じて、PBRも上昇・下降するきれいな「右肩上がり」のグラフになっています。
もうひとつは、日清食品HD(2897)。
時価総額 1.5兆円。
同じく、きれいな右肩上がりのグラフです。
その他、味の素(2802)、カルビー(2229)、カンロ(2216)、塩水港精糖(2112)が、このタイプAです。
次に、タイプBの企業から2社の事例です。
まず、伊藤園(2593)。
時価総額 5,560億円。
ROEは4.58~10.04%まで変化していますが、PBRはそれに正の相関があるようには見えません(むしろ、負の相関があるように見えます)。
もう1社は、BR サーティワンアイスクリーム(2268)。
時価総額 390億円。
こちらも、ROEの水準とは無関係にPBRが4.0倍近辺に張り付いています(ROE10.0%近辺では、PBRはむしろ下落している)。
その他、湖池屋(2226)がタイプBです。
そして、最後はタイプC企業。
最初は、シノブフーズ(2903)。
時価総額 130億円。
ROEは0.73~10.81%まで上下しているのですが、PBRはそれほど大きな変化をしていません。そして、ROEが8.0%を上回っても、PBRは1.0倍を割ったままです。
もう1社、同じカテゴリーの会社を。
こちらは、ジャパンフーズ(2599)です。
時価総額 60億円。
PBRは、ほぼ0.8倍の水準を維持しています。
「投資戦略」として考えた場合、「タイプCの企業は、今後、PBRの修正(=上方修正)があるのだろうか?」という疑問と、もし「ある」とするならば「それはどんな時か?」が気になるところです。
食品業界の企業の業績を調べる中で、上記の疑問に対する「大凡の傾向」が浮かんできましたので、下記します(あくまでも ”傾向” ですので、参考値としてご理解ください)。
ひとつは、成長が期待できない企業や業態は、PBRが低いまま放置されやすいという点。成長しない企業にプレミアムを支払う投資家は少ないためか? と解釈しています。
もうひとつは、業績が大きくブレる企業のPBRはなかなか上がらないケースが多くなるという点。「リスクが高い企業」ということになると思いますが、もっと平たく言うと「投資家が、その企業を信用していない」ということではないかと思います。
これらをスクリーニング材料として使えば、「ROEが高いのに、PBRは低い銘柄」の選別がより精度高くなるのではないかと考えます。
ROEが10%に近づくと、PBRが上昇するケース
最後に、PBRを使う際に参考になりそうな企業の事例をご紹介したいと思います。
ポイントは、PBRが低い銘柄の中で、ROEが10.0%に近づく(あるいは、超える)と、PBRが上昇しやすい(のではないか?)という企業があるという点です。資本コストは「概ね 8%」といった観点からも、納得できる事象です。
この点についていい事例になりそうなのが、日本食品化工(2892)という会社です。三菱商事の子会社で、コーンスターチ製品を製造・販売するBtoB企業です。
日本食品化工の過去10年間のROEとPBRの推移、および今期予想のROEと現状のPBRをグラフにプロットすると下図のようになります。
※ 過去のPBRは、3月末の株価で計算しています。
ROEは1.27~11.48%まで変動しており、それにあわせてPBRは0.45~1.02倍の幅で動いています。
このグラフを、こんな風に解釈しました。
ROEが7.0%を下回る場合には、PBRは概ね0.6倍で推移(ROEが2.0%を下回ると、0.4倍まで下落することもある)。一方、ROEが10.0%に近づく(あるいは、超える)と、PBRは0.8倍を超える水準に切り上がる。
そして、(これは仮説ですが)ROEが10.0%を超える水準で定着すれば、PBRも1.0倍以上の水準に定着するのではないか? ひょっとして、もう少し高いバリュエーション(例えば、PBR 1.5倍)に切り上がるのではないか? と。
(仮説の部分についての真偽はまだわかりませんが)前段の「ROEが10.0%に近づくと、PBRは切り上がる」という点について、同社のROEの推移と、株価チャートでチェックしてみます。
下図は、同社の毎期のROEの推移を折れ線グラフにしたものです。その下にある図は、同社の過去10年間の株価チャートです。
2つの図を見くらべると、ROEが10.0%に近づいている(あるいは、超える)タイミングで、株価が急上昇しています(それにより、PBRも上昇している)。
ROE 10.0%は、ひとつの目安になるかもしれません。
まとめ
長々と書いてしまいましたが、ポイントは以下です。
ひとつめは、PBRが1.0倍割れしている銘柄の中に、「有望な割安銘柄」が紛れ込んでいる可能性はある。特に、時価総額が小さな企業に多い。
そして、ROEの水準(8.0%以上)、業績の安定性、業態の成長性によってスクリーニングすれば、かなり確度の高い「投資候補リスト」になる可能性がある(のではないか?)。
ふたつめは、PBRが低い企業の中でも、業績が改善し、ROEが向上すれば、PBRが上昇する(=株価が上がる)企業と、(ROEが向上しても)PBRは上昇しない(=株価はそれほど上がらない)企業がある。
前者は投資対象になるので、シンプルに「業績が改善するかどうか?」を分析し、判断すればいい。後者は(株価が上がりづらいので)投資対象になりにくいので、事前に「PBRが上昇しづらい」という事実を知っておくことが重要。
みっつめは、(株価が上昇しづらく見えても)ROEが10.0%に近づくと、PBRが反応する銘柄がある。実際に反応するまでに時間を要する場合があるが、投資チャンスとしては有望に思える。しかも、ダウンサイドがある程度限られることが多いので、投資妙味が高いように思います。
と、こんな感じです。
明確な結論ではなく、あくまでも「参考値」といった内容ですが、「PBRが低く割安に見える企業」に対する ”傾向” について書いてみました。
ちょっと長い記事になってしまいましたが、最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
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