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【日本株】株は、どのようなメカニズムで上がるのだろうか?(第三部)

第一部と第二部で「株が上がるメカニズム」について整理してみました。で、ここではその内容を最近、上がっている銘柄を使って検証してみたいと思います。

検証に使う銘柄は、名村造船所(7014)。

「造船」は過去6ヶ月のパフォーマンスでNo.1のセクター(過去6ヶ月で110.9%上昇)。その中で最大の上昇をしているのが名村造船所です(115.1%上昇)。この急上昇銘柄を使って検証してみたいと思います。

そして、検証する内容は以下になります。

1~3年くらいのスパンで見た時に、
① 大前提として、投資家は「業績」を根拠に株価を評価する → よって、「業績」が株価を動かす
② 株価の反応は素早い - 「良い業績」が発表されたり、「業績が拡大/回復しそうだという期待」が生まれたりするとすぐに反応する
③ 株価上昇が続くかどうかは「業績の継続性」次第 - 業績がついてこないと(期待は)「失望」に変わり、株価は下落する
④ 株価が上昇/下落する中で、バリュエーションが大切 - 株価は、上にも、下にも行き過ぎることがあり、それは早晩修正される。「行き過ぎかどうか?」を判断するのに、バリュエーションが役立つ

検証する内容です

と、こんな内容になります。

では、早速。


名村造船所(7014)の株価パフォーマンス

まず、名村造船所の過去10年間の株価チャートです。

過去10年間の株価チャート

最初の7年ほど緩やかに下落した後、直近の3年ほどで急上昇しています。この「直近の急上昇」について検証してみたいと思います。

では、「2021年4月1日~2024年6月10日」の約3年間のチャートです。

2021年4月1日~2024年6月10日

赤丸をつけた2つのポイントが「株価が上昇に転じた起点」です - グラフの後半で、急上昇しているので(グラフの)前半の上昇が見えづらくなっています。なので、前半と後半に分けたチャートを下記しています。

まず、前半から - 2021年4月1日~2023年3月31日の2年間。

2021年4月1日~2023年3月31日

株価は、赤丸の2022年2月15日あたりから上昇に転じています。前日の2月14日に3Qの決算発表をしており、ここで「第3四半期単独だと黒字に転換」を発表しています - 業績に回復の兆候が現れ、それを機に株価が上昇し始めました。

2022年2月14日の終値が206円。チャートの一番高い「山」の部分(2022年8月19日の終値)が748円 - 6ヶ月で3.6倍になっています。

あわせて、それまで115円前後にいたドル円が、急速に円安方向に動き出していますので、それも大きな原動力になったと考えます - 造船業はドル建てで受注するので、円安になるとすごく儲かります。

2022年1月~2024年6月

少し業績的な背景も加えておくと、2021年は世界中で新しい船の建造需要が急激に回復した年でした。2022年2月14日に発表された3Qは「2021年10~12月期」ですので、その需要回復を受けて業績が回復したタイミングになります - なので、3Q単独でしたが(それまでの赤字が)黒字に転換しました。

それに加えて「円安」が加わり、株価が大きく反応したのが2022年2月以降でした。

その後、2022年8月5日に2022年度の1Q決算を発表しています。これが、予想を大きく上回る好決算となり、株価が急上昇しています - チャートの真ん中付近にある折れ線グラフが途切れているところが「この急上昇」です。

しかし、上昇した後、すぐに大きな下落トレンドに入っています。

理由のひとつは、「通期予想の据え置き」かもしれません。(上記のように)1Qの決算が絶好調だったのですが、通期の利益予想は据え置いています。これが株価の更なる上昇を抑えたのかもしれません。

もうひとつは「為替介入」です(こちらの方が大きなインパクト)。2022年10月に政府・日銀の「為替介入」が入り、それを機に150円近くにいたドル円が130円近辺まで円高になりました。これが株価を下落させる大きな原因だったと考えます - 造船株はドル円レートに敏感。

そして、チャートの一番右に「2023年3月29日」があります - 反転しかけているところです。

その続きとなる後半(2023年4月1日~2024年6月10日)のチャートが以下になります。

2023年4月1日~2024年6月10日

チャートの左側は(株価が小さいので)株価の上昇の具合がわかりづらいと思いますが、2023年5月12日(このチャートだとスタートから1ヶ月と12日後)には株価が2倍になっています。そして、2023年7月3日(3ヶ月と3日後)には株価は3倍になっています - 急上昇しています!

この原因は「円安」と、それによる「増益期待」です - 上記の為替チャートを見ていただくと、2023年3月末から再び円安が進んでいます。

その後は、造船需要が引き続き堅調なことと、円安が定着したことで、同社の業績は堅調を維持。加えて、同型船の建造が続いたことで生産性が拡大し、同社の業績はさらに伸びたようです - そして、それにあわせて株価も上昇を持続していきます。

ご参考までに、ここまでの株価と「株価を動かした主な出来事」を以下にまとめています - 主に、決算発表を起点に株価が動いています。

2021年4月1日~2024年6月10日
2021年4月1日以降、株価を動かしたと思われる主な出来事

そして、株価が動く起点になった2つのポイント(2022年2月15日、2023年3月29日)と「業績」を比べると、以下のグラフになります。

2021年3月期~2024年3月期の当期利益 - 会社予想と実績値

上記のグラフについて少し説明を加えますと、これは「当期利益についての会社予想と実績のグラフ」です - 2021年3月期~2024年3月期の4年間。

青色の棒グラフは「会社が発表している通期の当期利益予想」です。一方、オレンジ色の棒グラフは「四半期毎の実績(当期利益・累計)」です。

会社が「今期の業績を、どのように見ているのか?」が会社予想。一方、「それに対して、実際にどうだったのか?」が四半期毎に出てくる実績(累計)です。

会社予想に対して実績が届いていないと「不振」。反対に、会社予想を超えていると「好調」。加えて、期の途中で会社予想を上方修正していると、「かなり好調」ということになります。

そのように見ていただくと、「2つのポイント」は業績が黒字に転換するタイミングになっています。

2022年2月15日は、業績としては赤字が継続している最中でしたが、3Qが「四半期ベースで黒字化」になったタイミング。

2023年3月29日は、再び円安となり、業績の回復・拡大がさらに期待できるようになったタイミングです。

また、その中間に発表された2023年3月期の1Q決算は会社予想を大きく上回る好決算でした。なので、株価は急上昇しました。しかし、その後、為替が円高に振れたことで(業績への懸念となり)、株価は下落してしまいます - やはり、業績の継続性が「株価上昇の継続性」を左右します。

結局、まとめると、①業績が良くなれば株価は上がる、②すぐのタイミングで上がる、③業績がついてくれば、株価の上昇は継続する。反対に、業績の回復・拡大に懸念が生じれば、株価の上昇は止まる。あるいは、下げに転じる、というシンプルな法則は機能しているようです。

上記の内容に照らすと、今後の名村造船所の株価はどうなりそうか?

「業績が株価を動かす」というシンプルな法則は機能しているようなので、「じゃあ、名村造船所の今後の株価は、どうなりそうか?」について考えてみたいと思います - 個人的な考えなので、十分に注意してください。外れる可能性は大いにあります!

まず、バリュエーションの確認です。
PERは10.9倍(6/12終値ベース)、PBRは2.06倍(同)と、それほど高いバリュエーションではありません - むしろ、安いぐらい。

一方、ROEは30.9%と非常に高い数字となっており、収益性の高さに対してバリュエーションが低いのが際立つ印象です。

よって、バリュエーション的には「やや割安」「悪くない水準」だと考えます。

業績の見通しは?
今期を含めて、向こう3年間は好業績が続くと思います。

まず、現在の受注残が新規の建造契約だけで3,100億円あるようです(2024年3月末現在)。同社の年間の新規造船のキャパは約1,000億円ですので、受注残が3年分あります - よって、向こう3年間は好業績が続く。

加えて、造船業は2000年代半ばが好調期で多くの新規建造が行われました。それらの船がリタイアする時期になっているため(船の対応年数は20~25年)、多くのリプレース需要が控えているようです。

それから、船も(自動車と同じように)「温室効果ガスの排出ゼロ」を目指しています(2050年ゼロ目標)。それに向けて「新しい燃料(&エンジン)を使った船」が検討されており、その方向性が決まればさらに大きな新規需要になる見込みのようです。

そんなことで、造船業界は非常に活況であり、業績好調は続く可能性が高いと考えます。

リスク要因は?
大きなリスク要因は2つです。

ひとつは「為替」。
前述したように、円高になると(業績懸念から)株価は大きく下落します。特に、130円あたりまで行くと、業績はかなり大きな影響を受けるようです。

為替の動向は読みづらく、かつ130円も十分にある水準です。よって、「円高 → 株価下落」のシナリオは十分にあり得ます。

もうひとつは「名村造船所を含めた日本の造船業の立ち位置」です - 世界第3位とやや弱小な立ち位置のため、万一、市況が悪化した場合のダメージが大きくなりそうです。

世界の造船業は、中国が1位で世界シェア50%。第2位は韓国でシェアは30%。日本は第3位でシェア17%となっています。

日本の造船業は、1990年頃までは世界シェア50%を誇り、世界1位の業界でした。しかし、1990年代に韓国に。2000年代に中国に抜かれ、上記の現状です。

しかも、液化天然ガスを運ぶLNG船などの大型船の建造は中国・韓国の独占状態です。

「温室効果ガス」対策の新しいエネルギーを使った船の開発についても、日本の造船業界が技術革新で世界のシェアを奪い返すというよりも、中国・韓国が開発した技術が業界のスタンダードになってしまい、それに追いつくために日本が苦戦するという可能性も大いにあると思っています。

要は、業界3位の弱みといったことです。

少なくとも、これら2つのリスクは十分に考慮する必要があると考えます - そして、それら2つは名村造船所のコントロールの外側にあるリスクになります。

で、結論は?
上記の内容をベースにすると、
① シクリカルな値動きをする造船株に対して、株価の上昇トレンドに乗っかるトレード的な発想で考えるなら「投資妙味あり」。

② 一方、あくまでも「成長企業の業績が拡大するフェーズに参戦する」という発想だと、「投資はなし」となります。

まず①についてですが、2000年1月~2024年6月の株価チャートを見てください。

2000年1月~2024年6月

現在の株価は、2007年10月の高値圏と同じ水準にいます - 株価は2,500円、時価総額にすると1,750億円です。

しかし、その背景が大きく異なります - チャートに赤字で書いた通りです。

まず、当時の利益水準は(2007年10月時点の)同社が発表している通期の当期利益予想が44億円。それをベースにしたPERは39.6倍。そして、その当時のドル円は115円です。

一方、現在、今期の当期利益予想は150億円。PERは10.9倍。ドル円は157円です。

しかも、3年先まで受注残がある状態で、かつ造船市況は活況 - 加えて、一段のドル高・円安の可能性もありそうです。すると、もう一段の株高は十分に可能性があります。

よって、「シクリカルな株式の上昇局面はもう少し続く可能性が高い」という判断です - 繰り返しになりますが、外れる可能性も十分にあるのでご注意ください!

一方、②については「投資哲学」的な部分です - 結局、「どのような要素に投資をするのか?」という問題。

企業が顧客基盤を広げ、(シクリカル的にではなく)売上げを拡大し、より大きな利益を実現していくという「成長のフェーズ」に参加することで株価の上昇を狙うという発想に立脚した場合、名村造船所の「株価が上昇する可能性がある」という現状は「真の狙いとは異なる投資機会」ということになります。

また、(前述のように)直面するリスクは為替と世界における業界シェアであり、いずれも名村造船所が独自にコントロールできる要素ではありません。

よって、「企業の成長フェーズ」を獲りに行く投資手法を土台にしているなら、「違う場所(違う投資機会)」になります。

このあたりの判断はそれぞれの投資家の方々の個人的な考え方次第です - よって、どれが正解という話ではないと思います。要は、自分が得意であったり、よく理解していたりする投資手法に専念した方がいい。反対に、自分が不得意であったり、よく理解していなかったりするやり方で投資してもあまりいいことはない、ということだろうと - 自分の得意な土俵で勝負するのがいい!

やや保守的かもしれませんが、投資にはリスク管理が重要ですので、「どのような考え方で投資をするのか?」も重要なリスク管理のひとつだと思っています。

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか?

「株が上がるメカニズム」について、ある程度の整理整頓になったでしょうか?

重要なポイントは ”前提” となっている「1~3年くらいの投資スパン」という点です。その投資スパンで考えた時に、やっぱり「業績」と「業績に対する期待」が株価を動かす大きな原動力になるという整理です。

そして、最後に書きましたように「それぞれの投資家の方々の得意なやり方、よく理解しているやり方」に専念するのが重要。反対に、「自分でよくわからないことや、不得意なことには参戦しない」というスタンスがとても大切なように思います。

こんなところです。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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