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【日本株】セブン&アイ HD(3382)| 中間決算と買収提案への対応は?

セブン&アイ・ホールディングス(3382)が中間決算を発表しましたので、そのことについて書いてみようと思います。

特に、①中間決算も含めた業績動向と、②カナダのコンビニ大手クシュタール社からの買収提案をどう考えるのか? について書いてみたいと思います。

では、早速。


1.まず、中間決算はどうだったのか?

かなり厳しい内容でした。

それに、通期予想も下方修正しており、そちらも厳しい内容です - 同社の「業績」は、しばらく厳しい状況が続きそうです。

足を引っ張っているのは、「米国のコンビニ事業」なのですが、そう簡単には業績回復とはいかないと思います。

以下では、中間決算と通期予想の数字を確認した上で、「何が問題なのか?」について考えてみます。

中間期の決算内容は以下でした(%は、前年同期比)。
 売上げ 6兆355億円 +8.8%
 営業利益 1,869億円 ▲22.4%
 当期利益   522億円  ▲34.9%
 EBITDA   4,715億円  ▲5.0%

同社の決算短信から抜粋(2025年2月期 中間決算)

売上げはプラスでしたが、利益は大幅な減益となっています。

そして、下方修正された通期の業績予想が以下になります(%は、前年同期比)。
 売上げ 11兆8,790億円 +3.5%
 営業利益  4,030億円 ▲24.6%
 当期利益  1,630億円 ▲27.4%
 EBITDA   9,758億円 ▲7.5%

同社の決算短信から抜粋(2025年2月期 中間決算)

中間期、および通期の大幅減益の主因は「米国のコンビニ事業」です。

米国のコンビニは「主に、低所得者層が多く利用する業態」となっているのですが、米国の低所得者層はコロナ補助金などの縮小・廃止、景気減速(による給与減少)、インフレなどによってかなり可処分所得が減っているようです。その影響が「米国のコンビニ事業」に顕著に現れており、大幅な減収・減益となっているようです。

ちなみに、(上記した)今期の営業利益予想(4,030億円)は、前年(2024年2月期)より「1,312億円の減少」となっているのですが、そのうちの「940億円は米国のコンビニ事業」の減益です。

セブン&アイにとって「海外コンビニ事業(特に、米国コンビニ事業)」は成長分野であり、大きな期待がある分野なのですが(=なので同社は、海外のコンビニを買収している)、同時に大きな懸念もあります。そのあたりについて、整理しておきます。

(各事業の規模感を整理する上で)まず、同社の売上げと営業利益の内訳を確認しておきます - 「上」のグラフが2025年2月期の売上げ予想。「下」が営業利益予想です。

同社の決算短信(2025年2月期 中間決算)から数字を抜粋
同社の決算短信(2025年2月期 中間決算)から数字を抜粋

グラフの通り、売上げでは「海外コンビニ事業」が圧倒的な構成比となります(全体の76%) - これは、米国などでは(コンビニに)ガソリンスタンドが併設されているため、売上げが大きくなるためです。

一方、営業利益で見ると、「海外コンビニ事業」は32%と、「国内コンビニ事業」の57%を大きく下回ります。「海外コンビニ事業は、利益率がとても低い」ということです。

一応、利益率のグラフも下記しておきます(今期の業績予想値)。

同社の決算短信(2025年2月期 中間決算)から数字を抜粋

海外コンビニ事業は営業利益率が1.6%しかありません! - ちなみに、スーパーストア事業も低く、0.5%です。

結局、米国コンビニ事業を中心とする「海外コンビニ事業」の収益性を高くすることが、セブン&アイの利益を押し上げ、企業価値を高めることになります - あるいは、海外コンビニ事業の売上げをさらに拡大させ、結果として利益額を大きくするか・・・。

しかし、そこに「懸念」が存在します。

ポイントは、「それぞれの国の買い物事情はそれぞれの国によってまったく異なり、日本でイメージするコンビニ事業が、世界の国々で(日本のように)うまく機能するとは限らない」という(ごくあたり前の)点です。

例えば、(前述のように)米国ではコンビニで買い物をする消費者の方々が低所得層に偏ります。また、場所によっては治安が悪いところがあり、「コンビニに入る」ということが敬遠される場合もあります。

要は、「コンビニ事業」をまったく別の視点から考える必要があり、そのアプローチは同社がやったことのない作業になるのではないか、という点です。

例えば、同社は中間決算の発表時に「北米コンビニ事業の戦略」として、以下をおっしゃっています。

同社の2025年2月期 中間決算の決算発表資料から抜粋
同社の2025年2月期 中間決算の決算発表資料から抜粋

軸になる戦略として、①(食を中心とした)オリジナル商品を成長させる、②デジタルとデリバリーを加速させる・・・、といった打ち手です。

しかし、米国コンビニが直面している課題は、(商品力の改善や利便性の向上という階層ではなく)もっと根っこのところにある「そもそも、コンビニで買い物をするという習慣や常識が、ターゲットすべき消費者層にはない」という点のように思います。

言い換えれば、そうした習慣や常識を(米国社会の中に)創っていかない限り、米国のコンビニは収益力のない事業のままということになります。

これは、かなりの力仕事になりますし、時間がかかる仕事になるように思います。

そして、その他の国々にも(同じように)「違う文化・異なる商習慣」があり、日本のコンビニ事業がそのまま機能するとは限らない、というハードルがあるかもしれない、と。

ただ、そんなことはプロであるセブン&アイの方々は十分に承知であり、その上で買収や海外への拡大をやっておられるのだろうと思いますので、個人的な取り越し苦労かもしれませんが・・・。

(ただ、同社の戦略を読んでいると、少し不安にはなりましたが・・・)

そして、その「懸念」の裏返しが「期待」になります。

「日本以外の国々は、コンビニ事業において”発展途上国”だ!」という点です。

なので、「日本流のコンビニ事業を(各国に)うまく移植することができれば、膨大な市場を生み出すことができるかもしれない」と。

ちょうど、日本において(過去50年で)コンビニが発展してきたようなプロセスが、世界各国で再現される可能性がある、と - そして、それはとんでもなく大きな事業規模になります。

海外のコンビニ事業は、そんな期待と懸念をあわせ持った事業機会のように見えます。

2.クシュタールからの買収提案はどうなる?

現状、セブン&アイに関して最大の関心事は、「クシュタールからの買収提案はどうなるのか?」、「その結果として、セブン&アイへの投資はするべきなの? するべきでないの?」といった点ではないかと思います。

個人的には、こんな風に考えます。

セブン&アイとしては「買収されたくない!」ので、株価を引き上げるための戦略・施策を打ってくると思います - それが、コンビニ事業への注力であり、イトーヨーカ堂の切り離しです。

これがうまく行けば、株価は上がります。

一方、うまく行かなければ(セブン&アイの経営陣としては)クシュタールの買収提案(一株2,700円、全体で7兆円)に賛同するしかなくなります。

よって、どちらのケースでも「現状の株価(2,292円@10/11終値)」なら「買い」なのではないかと思っています。

一応、「株価が上がらない」場合のシナリオを考えておきます。
① クシュタールの買収提案に賛同する(上記)。
② セブン&アイがホワイトナイトを見つけて、買収に対して防衛をする(=ホワイトナイトが高い買収価格を提示する)。
③ 国などが関与することで、買収を阻止する。
④ クシュタールが買収価格を引き下げる(あるいは、買収を取り止める)。
あたりが考えられます。

①と②なら株価にプラス。

③と④なら株価に大きくマイナスです。

買収提案がなくなれば、通常のPER水準(20倍)あたりまで株価が戻る可能性があります - 今期の予想EPSは62.74円ですので、株価にすると1,255円です(現在の株価から、▲45.2%の水準)。

狙えるアップサイドが18%ほどなのに対して、万一の時のリスクが▲45%ほどあるので、「メリット vs. デメリット」的には悪い内容です。

が、セブン&アイの業績が悪くなればなるほど、クシュタール(あるいは、他に参戦してくる企業)の立場が強くなる構図になり、ディールが前進する可能性が高くなるように思います。

なので、投資妙味があるように思います - 念のため、外れるかもしれませんので十分にご注意ください。

と、セブン&アイの決算資料を見ながら、こんな風なことを考えていました。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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