古書

アインシュタインの裏の顔

相対性理論などで知られ、世界一有名な物理学者の一人であるアルバート・アインシュタイン。
彼の輝かしい功績の裏側で、犠牲になった人びとがいたことはあまり知られていない。

アルバート・アインシュタインとチャーリー・チャップリンは、『City Lights』のプレミアム試写会にともに出席していた。二人のスーパースターに熱狂する観衆を前に、チャップリンはアインシュタインにこう言いました。「誰もが私のことを理解できるから喝采し、誰もがあなたのことを理解できないので喝采しているのです」と。


人びとにアインシュタインの業績について尋ねれば、相対性理論だと答えるでしょう。アインシュタインの伝記によれば、彼は画期的な光の量子論を考案し、原子の存在を証明するのに貢献し、ブラウン運動を説明し、時間と空間の概念を覆し、科学でのちに最も有名な方程式を生み出した人物です。
アインシュタインはいつかノーベル賞を受賞するだろうと誰もが疑わなかったが、業績があまりに多く、そのうちのどれが受賞するか定かではありませんでした。1921年についに受賞にいたったとき、皮肉なことに受賞理由は相対性理論ではありませんでした。そしてアインシュタインの功績の多くは、26歳だった1950年に成し遂げられていたのです。


ニュートンと違って、アインシュタインはチャーミングで、社会主義のために尽力し、家庭を持ち、子供がいました。ですが、隠遁生活を好んだニュートンと同様に、人生の多くの時間を思索に費やしました。明らかに彼は天才でしたが、真に驚異的な力は、彼が費やした途方もない時間と集中力でした。名声を得て、友人や家族に囲まれていながら、しばしば世間と隔絶し、脳の中だけで生きられたのです。それは、アイデアを探求するのに都合のいい性格だったのです。


本当であればこのような性格であれば世間から批判的な扱いをされることが多いのですが、アインシュタインは、ファウスト的契約を交わしながら、その代償は払っていないのです。その代償を払ったのは彼の家族です。「彼の思索者としての強みは、自分の気を散らすものをすべて締め出せる能力、あるいは傾向だった。その締め出される範疇のなかには、ときどき家族や子どもも含まれていた」と彼の伝記の著者であるアイザックソンも述べています。家族がアインシュタインに配慮を求めても、彼はより一層仕事に打ち込んだそうです。


彼のこの習性により、家族は限界まで追い詰められました。「私は妻を解雇できない雇い人として扱っている」とアインシュタインはいとこへの手紙に書いています。しかも、これはかっとしたはずみの言葉ではありませんでした。結婚生活が破綻し始めたとき、彼は妻に契約書を提示しました。そこには、もし婚姻関係を続けるなら妻に次の条件を要求するという項目が綴られていました。


A.以下のことに気を配る
1.私の服と洗濯物がすぐに使える状態に整えられていること
2.私が自分の部屋で、定期的に3度の食事を受け取ること
3.私の寝室と書斎がきれいに整頓され、特に机は私以外が使用することを禁ずること
B.社会的理由から必要となる場合を除き、あなたは私との個人的関係をいっさい放棄する。
とくにあなたは以下の事項を放棄する。
1.家で一緒に過ごすこと
2.一緒に外出、または旅行に行くこと
C.私との関係において、あなたは以下の事項に従う
1.私にいっさいの親しい関係を期待してはならない。私にあらゆる非難をしてはならない
2.私が要求した場合、話しかけてはならない
3.私が要求した場合、抗議をせずに、寝室及び書斎から即刻立ち去ること
D.あなたは子どもたちの前で、言葉や行いを通じて私を軽く扱わないこと

アインシュタインの妻はこの契約に渋々同意しましたが、当然のことながら結婚生活は破綻しました。彼のよそよそしさ、及び若い女性との浮気によるものでした。その女性はアインシュタインに感情的な見返りをいっさい求めなかったといいます。


アインシュタインは、息子たちが幼いときには思いやりのある父親でしたが、時が経つにつれて無関心になり、ますます思索にふけるようになりました。そして離婚後は子どもたちと会うのは稀になり、いっそう仕事に没頭しました。次男のエドゥアルトは精神疾患で自殺を図り、ついには精神病院で余生を過ごしました。結局アインシュタインはその死まで、30年以上も会わずじまいでした。長男のハンス・アルベルトはこう言ったと伝えられています。「おそらく、父が唯一断念した研究課題は私たちだろう」と。

勤勉さは才能を輝かせます。そして才能+時間は成功をもたらします。
ただ、どこまでが適切なのかは考えなくてはいけません。犠牲があると自覚した時、やり切れなさが残らないように。

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