見出し画像

チップカゴぶん投げ事件の詳細と影響

登場人物

みな豚…チップカゴを投げられた人。体重百獣の王であり、愛嬌のある見た目をしている。麻雀私設リーグなどで広く活躍中。プレボにはメンバーとして日常的にいる。
箕浦…チップカゴを投げた人。自由奔放で陽気だが、苛烈な一面もある。自他ともに認める社会不適合者で常識には囚われない。プレボには遅い時間に遊びにくることがある。
816…ゴン噴きした人。勝てば饒舌、負ければ寡黙、煮える姿は三歳児。極細に定評があり、ギャンブルは引退したらしい。プレボ徒歩圏内に住んでおり、散歩がてら出没する。
プレボ…神田小川町にある神雀荘。古今東西の社会不適合者が集う楽園。日常的にさまざまな遊戯が行われており、これまで数々の事件が起きている。

立卓まで

816が起きたのは『昼の』2時だった。昨日早く寝過ぎてしまったのだ。Twitterを見るとみな豚が、プレボでカードゲームをしていると呟いていた。せっかくだし散歩がてらプレボに行くかと思い、シャワーを浴びて家をで出る。どうせだしそのまま会社に行こう、そう考えていた。

プレボに着いたのは4時前。プレボには7人おり、すでにカードゲームは割れるところだった。チップのカウントが終わり数人は帰宅、残ったのはみな豚、箕浦、816だった。近くの卓の椅子ではJがいびきをかきながら寝ている。

3人で何かしよう、そう言って始まったのは全員が好きな華4シュバの五等サンマだった。前提として3人は友人であり、何度も遊んだことがある。3人で遊ぶのも自然な流れだった。
ケツは816が出社する7時まで。このとき時計は4時半を回っていた。

立卓

最初から816は好調だった。そこまで和了が多いわけではないが、デカい手がしっかりと決まるのだ。みな豚も和了回数で対抗し、816の猛攻に耐えていた。箕浦だけが終始苦しそうだった。

「最近本当に細くてさ。以前はこんなに運量で苦労したことなかった」
箕浦がそうボヤく。実際箕浦はこれまで全ての勝負に勝ちまくり、腕と運を兼ね備えた怪物だった。
「そうなんだ。何か原因とかあるのかな?」
816が話を聞く。まずは傾聴することがカウンセリングの基本だ。
「最近は以前に比べて……」

勝っているなら五つ星ホテルのフロントクラークであれ。負けているなら彼を困らせる悪質クレーマーでもよい。

これは816のマインドセットである。箕浦が負けているなら、そのケアをするのは、当然勝っている816になる。気持ちよく負けてもらえるように最大限の努力をするのだ。

不穏な空気

ただみな豚は微負けだったこともあり、箕浦に対する意識は低かったのかもしれない。彼は和了後に申告よりも解説を優先し、結果として点棒の授受が遅れるということがあった。また、会話や点棒・チップの整理を優先して取牌を後回しにする様子も見られた。
816は勝っているので急かすことなく見守るのだが、箕浦にとってはじれったい。手持ち無沙汰な箕浦が携帯をいじりながら摸打をする時間も少なくなかった。
別にみな豚は、場末ピン東南のご老人のようにいつもモタモタしているわけではない。この日は負けている箕浦と、それをケアしている816がテキパキしていたため、結果みな豚だけが遅いように見えていたのだ。

またみな豚は恒常的に「パンク」「無理です」「負け」と発言する。これはプレボ民というか麻雀打ちにはよくある口癖なのだが、これが箕浦の感情を逆撫でしていた。

みな豚「もう無理、パンクです」
箕浦「おい豚お前負けてねえだろ!」
816「もっと負けている人がいるからね…」
みな豚「いや、150枚は負けているよ」
箕浦「オメーそれ100枚チップ2枚あるじゃねえか、よく見ろ!」
みな豚「あ、じゃあ50枚くらいか」
箕浦「そんで誰が勝ってんだよ!」
816「ハイ!私です!すみません!」

とはいえこのような会話は日常茶飯事である。普段は816が極細役なのに、この日は奇跡的に勝ち頭だったのだ。

いじめっ子

道中に箕浦がつぶやく。
「俺っていじめっ子なのかなぁ」
どうやらプレボ民の1人の素行に関して、どうしても許せないことがあるから冷たく対応しているようなのだ。それがやりすぎなのではないかと心配しているらしい。

「う〜ん。俺はいじめられてはないけどな」
816は含みのある言い方をした。これは箕浦が苛烈であるために、特定の誰かを攻撃することがあってもおかしくはないと思ったからである。それが理不尽であることは滅多にないが、しかし直情型に近いのも間違いない。

「いじめっ子だよ!俺いじめられてるもん!」
そう言うのはみな豚である。確かに彼は容姿に関して箕浦から過度にイジられている。ここでの過度というのは、小中学校なら必ず指導が入る程度を指す。また本人曰く、十分に痛みを感じるほどの暴力もあったそうだ。ただ彼は穏和で抱え込むタイプなので、あまり強くは言わず我慢していたのだろう。

ただこのときは険悪ではなく、単なる談笑だった。だからこそみな豚も不満を言いやすかったのだろう。しかしそれは同時に、箕浦がみな豚の主張を軽視する口実にもなった。

ぶん投げ

その局はみな豚に手が入っていた。春夏冬を抜き、北も3枚抜いている。箕浦は春のチップを投げ、みな豚の手牌に当てて牌を倒していた。みな豚が不満そうにすると、今度は起親マークを投げた。聞く人によってはすでに異常事態かもしれないが、これくらいならまだ起きたことがある。816も「まぁまぁ」と言うだけだった。

数巡して箕浦が先制リーチをかけた。816の手は勝負にならない。その直後である。みな豚が4枚目の北を抜いたのだ。
これは差し込みをしなければならない局面だ。しかし816の打牌は通過し、その巡にみな豚からシュバリーが飛んできた。もう差し込みには行けない。

816が安牌を切ると、箕浦が2sを叩きつけるようにツモって和了した。最後のカン2sだ。打点はもう覚えていない。単なるかわし手である。

「みな豚の手を見せてよ」
816が声をかけるとみな豚の殺戮ハンドが開示された。このとき816はすでに点棒を払っており、みな豚が払いかけているところだった。箕浦はすでに牌を落として、我々にも早くするよう促していた。

みな豚が最後に牌を落とし、次の牌を上げるタイミングである。
「ふぁ〜本当についてない、無理ですパンク」
その発言を聞くやいなや箕浦がみな豚のチップカゴを掴み地面にぶん投げた。当然入っていたチップは散乱し、足元に散らばった。

置かれた万券

みな豚の表情も驚きから怒りへ変貌し「終わりです」と呟いた。そして財布から1万円を取り出して帰る準備を始めた。
「これ置いていくわ。もうプレボには来ないから」
そう言ってエレベーターに乗って降りていった。

読者の中にはそんなことあり得るのか?と思われる方もいるかもしれないが、しかしこれはプレボでは稀に起こる。816もこのときはまだ、そこまで重く受け止めてはいなかった。それゆえ散らばったチップを拾い集めて、自分のチップを数えた。

「816何枚だった?」
箕浦がそう言った。137枚プラスだったことを伝える。
「場代は2000円くらいかな。そしたらこうしよう」
箕浦は置かれた万券を拾い、財布の中に入れた上で2000円を場に置き、5000円を816に渡した。

816「多い分返さんでええんか?」
箕浦「置いていったのあいつやしな」
そう言って箕浦もエレベーターで降りていった。

事後のやり取り

チップを拾い終わり、みな豚が33枚負け、箕浦が104枚負けであることが判明した。また場代2000円は少々少なく感じたので816は上に400円置くことにした。ちなみにここでの1枚は、15枚集めるとエンドルフィンの1枚に相当する価値だ。

要領を得ない人のために解説すると、このときプレボには店番がおらず、セットは各人で時間を見てその料金を計算し置くことになっているのだ。店番がいない雀荘ではよくとられている手法である。

ここで異常事態を感じ目を覚ましたJが事情を訊ねてきた。簡単に説明し、816も店を後にした。

その頃にはみな豚から謝罪のラインが来ていた。別に気にすることはないと言い、816が多くもらった分はLINE Payで送金し、それ以外のゼニは箕浦に入ったため816からは払えないと伝えた。
しかしみな豚の意思は固く、もうプレボには二度と行かない、そしてお金もいらないと816が送った分は返金されてしまった。また1万円に関しては816への迷惑料で置いたものであり、一部が箕浦に渡ったことに強く憤りを覚えていた。

そしてみな豚の怒りはTwitterで陳述されることとなる。内容はチップカゴを投げたことへの不満、細かな言動への不満、置いた万券の一部を取得したことへの不満だ。
彼は元々毒を吐いたらTwitterアカウントを消すつもりだった。みな豚が公開アカウントで個人を特定できる形で発信していたこともあり、箕浦は当該ツイートの削除を要請し、これがなされない場合には法的措置をとると宣言した。みな豚は箕浦のラインをブロックしていたので、これらは816経由でみな豚に伝えられた。そして数時間して、みな豚のアカウントは削除された。

816の所感 責任の所在

今回の件で責任があるのは順に、816→みな豚→箕浦だと考える。これは何もふざけているのではなく、勝った人間が卓の責任を持つという816の基本理念に則っての判断だ。
確かに箕浦がチップカゴを投げなければ、みな豚がもっと箕浦をケアすればこの事件は起きていないかもしれない。しかしそれらを十分に精査した上で彼らを公平に裁くことは、同卓者である816ですら難しい。
彼らも一人の自立した大人であり、自分の行動に関しては説明もできれば責任も取れるはずだ。その上での彼らの行動なのであれば、一般論として私はそれらを支持したい。私は同卓者としてこの事件を未然に防げなかったこと、その後のケアでリカバリーできなかったことに責任を感じている。
とはいえ一般的な感覚では箕浦の方が罪が重いだろうし、本人もその自覚がある。

816の所感 万券の扱い

両者の主張はどちらも納得のできるものだ。その上で麻雀の基本原則である現状優先に則るのであれば、これ以上のやり取りは必要ないと考える。
まずみな豚の主張する迷惑料に関して、これが箕浦に対してのものではないことはもとより、その1万円が何のための金銭なのかは支払いの時点では言及されていなかった。ただ置いていく意思表示があっただけである。
また箕浦の主張は、勝手に置いたゼニの使途を事後で干渉してくるな、迷惑料を受け取る権利は自分にもあるということである。816は箕浦を止めなかったので、金銭の分配に関してその場での816と箕浦の合意は取れていたとみなせる。

以前にもブチキレて万券を置いて帰った別の男がいた。そのときも816は同卓していたのだが、その万券には手をつけず、店主に預けた。その後、置いて帰った男は店主から万券を返してもらったようだ。
今回もそのような流れになるものだと思っていたが、しかし箕浦がその一部を取得した。816はこのとき、自分が多くもらってしまう分は返却をすれば良いと考えていた。

これは後述するが、決して箕浦は小銭にがめつい男ではない。自分の中の整理の付け方としてそれを取得する必要があったのだろう。それはみな豚が万券を置いたのと同様に尊重されるべきだと考えるし、みな豚を止めなかったの同様に、箕浦を止めることはなかった。

816の所感 SNSでの発信

みな豚はこれをすべきではなかったと考える。あるいは表現の仕方への配慮が足りていなかった。

まずそもそも今回の事件は身内でのセットの出来事である。ザンリーグまたは私設リーグでの公式戦や、それらのオフ会ですらない。完全にプライベートな場での出来事だ。家の中での夫婦喧嘩と同じである。また刑事責任・民事責任を負うような行為はなされていない。これは私の無知がそう判断させるのかもしれないが、しかしその場にいた全員が法律的な事件性を帯びているとは考えていなかっただろう。

しかしみな豚がこれを一方的にSNSで発信し、さらにこれを見た者が箕浦を攻撃し始めた。彼らはみな豚の主張を鵜呑みにし、私的な空間で起きた諍いに関して、箕浦の公的な属性を引き合いに断罪した。彼らは知性が足りていないためにそのような行為に走るのだろうが、これを誘発したのは他でもないみな豚である。自己満足でお気持ちを表明する有象無象の悪口雑言に対して、みな豚に責任があるとは思わないが、これは想定できたはずである。

そして話は大きくなりすぎてしまった。身内セットでの些細な揉め事が、である。これは私が今回の事件を軽視していることの証左かもしれない。しかし私は、セットでチップカゴを投げた程度のことで第三者に謝罪を要求された人を見たことがない。

箕浦に対外的な責任があるとしたら、それはTwitterを騒がせてThANM関係者に迷惑をかけたことだろう。しかしこれを引き起こした一因はみな豚のSNSの使い方にあるとも言える。
プライベートな不平不満を、公の場で不特定多数にぶつけることが褒められることではないことに異論はないだろう。気持ちは多分に汲み取れるが。

影響

今回の件で一番の痛手を被ったのは麻雀プレイボールである。というのも、従業員であるみな豚と常連客である箕浦がどちらもプレボ自主出禁を公言したからだ。
この点に関しては箕浦も責任を感じ、店への迷惑料として2万円を816に預けた。816もみな豚の穴を埋めるため、可能なときは出勤するつもりである。

あまりに話がデカくなってしまったのでこのnoteを書くことになった。諸々の判断は読者に委ねるが、おそらくもっとも多い感想は「しょうもない」だろう。私もそう思う。これはこの事件自体やみな豚と箕浦がしょうもないという事ではなく、皆様のお時間を頂戴して認識していただくにはあまりにも瑣末であるという意味だ。

最後に、このプレボは神雀荘であり、古今東西のボードゲーム、カードゲーム、麻雀牌を使った多種多様な遊びが可能である。一人でもセットでもぜひ来てみてほしい。ゲームが好きであればきっと満足できるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?