手塚治虫の「矛盾」(!?)

昭和29年。手塚治虫のライバルが、いなくなった。

自殺したのである。福井英一。元・赤胴鈴之助の作者だ。後々にアニメとなり(わたしの好きなアニメでもある)、今も根強く人気であるが、当時男女を問わずに莫大な人気。終戦から9年経ち、どす黒から、濃い灰色へ。同じ敗戦色でも明るくなった(?)この年、手塚にとって忘れられないだろう。

平成の初め頃だったか、古谷一行・竹下景子出演のドラマでもあったが、自宅で手塚(古谷)が、ずっと泣いている。そこへ買い物籠を下げた婚約者の悦子(竹下)が来る。手塚と福井の関係を知り、福井の他界を知っていた悦子は「悲しくて泣いているのね」寄り添うように言う。と、手塚は返すのだ。「最初はそうだったけど、これでライバルがいなくなる、安心できる。そう思う自分が悲しくて、僕は泣いているんです」詳細は憶えていないが、旨であったと記憶する。

「僕の前をゆく者は、みんな潰れてしまえばいい」何度となく呟いていた手塚。「仲間」ではなかった。同業者は、みんな「ライバル」であった。しかし、気紛れな読者は時に浮気をする。手塚ファンと言いながら、他の漫画かに傾き、熱心に愛読する。「そう思う自分が悲しい」と泣きながらも、こういう激しい一面、矛盾している面があった。

「何でもないのに、直ぐ怒る」「良く分からない、偉大な漫画家」「付き合えば付き合うほど、矛盾している面が分かる」ー。「腰が低くて、にこやかで、兎に角、天才。漫画の神様」多くの人に見せるのは、やはり外面であったのだろうか?

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