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偽善者でありたい⑴

○公園
 ベンチに二人が座ってる。
 
佐藤「寒いですね」
野村「冬だからな」
佐藤「この季節って、僕らにはかなり不向きですよね」
野村「夏は夏で、ヒドイ臭いがさらに酷くなる。俺たちにとって向いている季節なんかないだろ」
佐藤「それもそうっすね。食べます?」

佐藤、野村にうまい棒を二袋わたす。

野村「お、お前!…これ、どうした」
佐藤「駅前でビラ配ってて、それに付いてたんすよ。頑張って5往復ぐらいしました。先輩にはお世話になってるんであげます。(食べながら)」
野村「も、貰えたのか」
佐藤「はい」
野村「俺なんて、ティッシュもらうのも難しいのに…」
佐藤「(もぐもぐ)」
野村「…お前すごいな」
佐藤「(もぐもぐ)」
野村「(もぐもぐ)」
佐藤「先輩、知ってます?」
野村「なんだ」
佐藤「先輩のお家、そろそろ使えなくなりますよ」
野村「ふぅん」
佐藤「あそこに大きなビルディングが建つみたいですよ」
野村「ふぅん」
佐藤「(もぐもぐ)」
野村「(もぐもぐ)…なんだと?」

○街
野村、佐藤二人で歩く

佐藤「だから、僕らと一緒に住みましょうよ」
野村「俺は、臭いおじさん達と共同生活はごめんだね」
佐藤「先輩だって臭いですよ」
野村「…ふん。俺は他人に気を使うのは嫌なんだよ」
佐藤「もう先輩」
野村「てかいい加減その先輩って言うのやめろ」
佐藤「だって、先輩の名前知らないもん…」
野村「…」
佐藤「もう僕ら、二年以上の中なんですからそろそろ誰なのか教えてくれても…(ブツブツ)」
野村「おい、今日のターゲットだ」
佐藤「先輩、人の話聞いてます?(ついていく)」

野村の目線の先には、大型スーパー

佐藤「おぉ…今日はかなり大物ですね」
野村「だろ」
佐藤「よし、じゃあゴミ捨て場を探しましょう」
野村「違う。今回のターゲットはゴミじゃない。よし中に入るぞ」
佐藤「え?」
野村「なるたけ臭いを消せよ」
佐藤「え?無理ですよ」

店内(食料品)

佐藤「なんか…みんな僕らのことみてる気がする…」
野村「もう俺はゴミをあさって金目の物をみつけるなんて生活はごめんだ」
佐藤「はい」
野村「そんなものより手っ取り早く美味しい食べ物に有りつける方法があるんだよ」
佐藤「なんと!」
野村「あれだ」

目線の先には試食コーナー。

佐藤「先輩…さすがです…」
野村「試しに行って来い」
佐藤「僕が…ですか…」
野村「もし成功したら、共同生活考えてやってもいい」
佐藤「ホントですか! 佐藤隊員、行って参ります!」
野村「よし、行って来い」
佐藤「おひとつ食べていいですか」
店員「いいですよ♪どうぞ♪」
佐藤「ありがとございま~す」
野村「…よし」
野村「すみません…俺も…もら」
店員「…あ、すみません。これ、お金持っている人用なんで…」
野村「…」
佐藤「…」

○街

佐藤「…先輩、そんな落ち込まないでくださいよ」
野村「別に落ち込んでない」
佐藤「先輩はきっと愛想が足りないんですよ。顔がこわい」
野村「うるさい」
佐藤「あぁ…それにしても美味しかったなぁ」
野村「…」
佐藤「すみません。これあげるんで。(うまい棒)」
野村「…(無言でうけとる)」

○街(病院付近)
佐藤、病院をみて。

佐藤「いっそのこと入院とかしたいですよね。そしたらふかふかのベッドに美味しい病院食ですよ」
野村「そんな金は無い。お前さっき美味しいモンたくさん食ってたろ」
佐藤「先輩だって結局僕のうまい棒全部食べたじゃないですか」
野村「あ…うまかったな、うまい棒。また頼むな」
佐藤「はい」
野村「…ちょっと疲れた」

野村、病院前のベンチに座る。

佐藤「先輩、僕ちょっとこの辺りになんかないか探してきますね」
野村「おう」

野村、ベンチで目を瞑る。
 
野村「寒いな…」
 
【空の風景→ブラックアウト】
○野村の夢
地震・津波の映像
 
夢終了

○街(病院付近)
ブラック状態

佐藤「…ぱい(声)」
野村「ん…」
佐藤「先輩!」

【ブラック→佐藤の顔(野村目線)】

野村「すまん…眠ってた」
佐藤「こんなところで寝たら風邪ひきますよ」
野村「あぁ。で、なんか見つけたか」
佐藤「あ!それが、すごいもん見つけたんです」
野村「すごいもん?」
佐藤「はい、これです」

佐藤、ビニール袋から一冊の厚いノートを差し出す。

野村「…ただのノートじゃないか」
佐藤「それが、これ。軽く読んだんですが、ある男の遺書みたいなんですよね」
野村「遺書?」
佐藤「なんか、『  』って男の日記みたいなんですが…最後のページに…」
野村「なんだ?」
佐藤「『僕はもう長くありません。僕には、目の不自由の妹がいます。この日記を読んでくれた心優しい方、お願いします。妹を守ってください』って」
野村「うさんくせぇ」
佐藤「どうします?」
野村「どうしますって?」
佐藤「裏のページに住所が書いてますが…行ってみますか」
野村「なんで?」
佐藤「なんでって、もしかしたら妹さんが今でもひとりぼっちかもしれませんよ」
野村「どうせ縁もゆかりもない赤の他人だろ。行ったところでどうするんだよ」
佐藤「でも」
野村「大体こっちが助けてほしいくらいなのに、なんで人助けをしなきゃならないんだよ」
佐藤「でもでもでも」
野村「行くなら一人で行け。俺はもう帰るぞ」
佐藤「…先輩~」

野村、歩こうとするが足が止まる。
 
佐藤「どうしたんですか?」
野村「…その日記貸してみろ」
佐藤「え?はい」
 
野村、ページをペラペラめくる。
 
野村「…これは…いけるかもしれん」
佐藤「おっ!やっぱり、妹さん救いに行くんですね!」
野村「…いや、本当に目の不自由な妹しかいないなら…」
佐藤「?」
野村「金目のモン全部奪ったってバレやしないだろ」
佐藤「なんと…」
野村「空き巣には持って来いだ。いやこの際、最悪居たとしても支障ない。だって目が見えないんだからな。奪ってすぐに逃げればこっちのもんだ」
佐藤「せ、先輩!」
野村「なんだ…なんか文句あるのか」
佐藤「いや…」
野村「俺は、こんな生活もうまっぴらなんだよ。しかも有難いことに住所まで書いて、盗みをしてくれと言ってるようなもんだ。他人の不幸より自分の幸せだ」
佐藤「…(野村を見つめる)」
野村「なんだよ」
佐藤「…最…高に…かっこいいっす。先輩一生ついていきます」
野村「…そうか」
佐藤「はい。そうと決まれば、今から向かいましょうか」
野村「いや、一度その日記を貸せ。一応軽く読んでおく。作戦決行は明日だ」
佐藤「よし。俄然俺やる気っす」
野村「…お前ほんと単純だな」
佐藤「…あざっす」

○野村の住処
段ボールベース、ブルーシート等々…野村が一人で、日記を読んでいる。

野村「こんな日記ひとつで、誰かを救うなんて無理だろ」

野村、寝っころがって夜空をみつめる。

野村「…きたねぇ空」

そのまま暗転。
翌日の朝にシーンが移る。

○公園
野村、貧乏ゆすりしながらベンチで佐藤を待つ。

野村「遅い」

時間経過 貧乏ゆすりがしだいに早くなる。

野村「あぁ!おっせぇ!」
老人「おー、若いのは元気がいいねぇ」

老人に話かけられる。
野村「…」
老人「いつもここで一緒にいる坊主を探してるのかい?」
野村「はい」
老人「それなら、一時間前くらいからあそこに籠ってるみたいだぞ」
野村「…」

老人の指の先には公衆便所。

○トイレ
野村、トイレの扉をノックする。

佐藤「入ってま~す」
野村「佐藤」
佐藤「その声は先輩じゃないですか~」
野村「お前、いい加減にしろよ」
佐藤「…なにがです」
野村「…」
佐藤「…あ!わすれてた!」
野村「さ…と…う」
佐藤「すいません。でももう今お腹がひどく…あ!…」
野村「どうした?」
佐藤「これは…あぁ…この流れは…あぁ」
野村「…」
佐藤「ふぅ…落ち着いた」
野村「もういい。一人でいく。(野村 去る)」
佐藤「せ、先輩!まってくださいよぉ!…お!これは大物!…う…」

○公園

野村「…使えないやつだな」

野村、向かおうとするが足が止まる。

野村「この住所どうやっていけばいいんだ」

○アパート
夕方ぐらい
野村、やっとついた。
野村、深呼吸をする。

野村「よし、こんなクソみたいな生活からさよならだ」

野村階段を上がる。
部屋の前(二〇二号室(仮))
 
野村「ここか」
 
ドアノブを握る。ゆっくり動かす。動く。開く。
 
野村「ついてるな」
 
○部屋
野村、中に入り、部屋を物色する。部屋は生活感のない感じ。
 
野村「何にもないな…財布とかなんかないのかよ」
 
ごそごそすると、一つのアルバムが床に落ちる。
 
野村「…ん」
 
野村、アルバムに手をかけた瞬間。ドアが開く。
 
野村「!」
光「…」
 
野村と女子高生 光が対峙する。
 
光「誰?」
野村「…あ」
光「誰なの?」
野村「…」
光「もしかしてお兄ちゃん」
野村「?」
光「どこに行ってたの」
野村「えっと」
光「ずっと…ずっと待ってたんだよ」
野村「あ、だから(遮られて)」
光「てかすごい臭い。汚いから早くお風呂入って」
野村「…風呂って」
光「お腹空いてない?お風呂出たらカレーライス作ってあげるよ」
野村「カレーライス!!」

【時間経過】
野村と光が向かい合って、机でご飯を食べている。
 
野村「(M)…何年ぶりに風呂入ったんだろう…てか、なぜ、こんな状況に…」
光「美味しい?」
野村「お、美味しい…。でもよく目見えないのに料理作れるよな」
光「今さら何言ってるの。今までだってずっとそうだったじゃん」
野村「あ、ははは…そうだったな」
野村「(M)日記には、名前は確か…(ジロジロ)」
光「ん?なに?」
野村「ヒ…カ…リ?」
光「だからなに?久々に帰ってきたと思ったら頭ヘンになっちゃった?」
野村「す、すまん。カレーライス美味しいよ」
光「でしょ!お兄ちゃんに食べてほしくて練習したんだよ」
野村「…」
光「お兄ちゃん?」
野村「お前、兄ちゃん好きだったか?」
 
光、むせる。
 
光「い、いきなり!なに言ってんの!」
野村「いや、なんとなく」
光「バカ兄貴」
野村「…」
 
【時間経過】
光が風呂に入っている。野村、床に寝転がって日記に向かって呟く。
 
野村「一体どうなってんだよ。お前の妹、お前が死んだこと知らないぞ、バカ兄貴」

光の顔を思い出す。

野村「地獄におちろ」
 
日記にデコピンする。

野村「…そろそろ帰るか」

野村、玄関の処で立ち止まる。
後ろを振り返る。
 
野村「カレーライス、ごちそうさまでした」
 
○アパート前

野村「さむ…」
光「お兄ちゃん?」

野村、歩き出そうとすると、光が後ろに立っている。
 
野村「あ...」
光「どこ行くの?」
野村「ちょっと散歩に」
光「ほ、本当だよね?」
野村「おう」
光「ちゃんと、帰って来るよね」
野村「おう」
光「…もう…いなくなったりしないよね」
野村「……」
光「待ってるからね」
 
野村、戸惑いながらも歩き出す。
 
光「お兄ちゃん!帰りに牛乳買ってきてね!」
 
○公園

野村、公園にin.ベンチに佐藤が座っている。
 
佐藤「お、先輩。どうでした?」
野村「最低だ」
佐藤「最低?」

野村、佐藤を一発頭を殴る。

佐藤「な、なんで!」
野村「お前が、変な日記見つけてくるからいけないんだぞ」
佐藤「え?」
野村「もう二度と、厄介なことに巻き込むな(帰ろうとする)」
佐藤「あ、待ってください!」
野村「なんだ」
佐藤「今日、すっぽかしてしまったお詫びをしたくて…」
野村「ほう」
佐藤「これを」
 
佐藤、野村に二百円を渡す
 
野村「…これは!」
佐藤「今日、いつものように街を散策してたら大物を見つけたので…」
野村「こんな大金いいのか?」
佐藤「先輩にはお世話になってるんで」
野村「…よし、許してやる」
佐藤「ありがとうございます!」
 
○街
野村の住処の帰り道
 
野村「はぁ…」
 
※回想
光「でしょ!お兄ちゃんに食べてほ
しくて練習したんだよ」
※回想
光「ちゃんと、帰って来るよね」
 
野村「…」
 
野村、コンビニに入る。うまい棒とお酒を手に取る
 
 ※回想
光「…もう…いなくなったりしないよね」
 
野村「……」
 
※回想
光「待ってるからね」
 

 ・場面チェンジ・

○光の部屋
 
光、電気も付けないで一人泣き続けている。ドアがあく音
 
光「!」
野村「(息を切らして)…か…買ってきたぞ」
光「へ?」
野村「ぎゅ、牛乳…必要なんだろ」
 
光、涙を拭き取る。そして笑顔。
 
光「遅いよバカ」
野村「…それで、俺さ実は」
光「あ!お兄ちゃん!お腹空いてるんでしょ!」
野村「あ、そうじゃなく(お腹が鳴る)…」
光「ふふ、昔っから真夜中に何か食べる習慣治らないんだから。太るよ」
野村「うるせぇ」
光「よし!じゃあおにぎり握ってあげよう」
野村「おにぎり!」

光、おにぎりの準備をし始める。
それを見つめる、野村。

野村「(M)俺は、光を守ることもできない。救うこともできない。それは、ホームレスだからでも、赤の他人だからでもない。それは、俺だから」

光、鼻歌を歌っている

野村「(M)でも、彼女の夢にもう少しだけ付き合ってもいいのかもしれない。とりあえずは、光のおにぎりを食べ終わるまでは…」

(続く)

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