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あと15分だけ

何かに期待するのはもうやめにしたはず。
なのに、期待してしまうのは何故だろう。
期待とかいらない。今までずっとずっと裏切られてきたはずなのに。

僕はそんなことを考えながら
来るはずのないメール、または、来るはずのない電話を待っている。

きっかけは、あの日、居酒屋で飲み過ぎてしまったのが原因だ。
「僕、未来のこと好きだ」
言うつもりのない言葉、絶対に言ってはいけない言葉が口から出てしまった。
明らかに困惑した表情を見せた彼女は、すぐに表情を変えて笑いながらこう言った。
「山下のことは男として好きじゃない」

「だよね。いや、わかってるんだ。冗談冗談」

そこから軌道修正しようとしたが、難しかった。その日はなんとか別の話題で乗り切ったものの、次の日からピタリと、なんだかんだ毎日続いていたメールが止まった。

僕と未来は親友と言っても良いほど、誰がどう見ても仲が良かった。
会社では他愛もない会話で盛り上がり、お昼ご飯も一緒に行き、2人で動物園へ行ったり、美術館へ行ったり、それぞれがどこかへ行けば必ずお土産を買って渡す。側から見たら付き合ってると思われても仕方ない。

でも彼女が僕を完全な友達として見ていたのは明白だった。

「この間、合コンに行った」だの、「誰か良い人いないの?」だの、平気な顔して、僕に言ってくる。「山下に女友達を紹介してあげよう」と言われたこともあった。

だから、報われない恋だと言うことはわかっていた。それに、傷つきたくないし、今が楽しかったからこのままで良かったはずなのに、気づいた時には手遅れだった。

メールは一切来なくなった。
でも会社では普通に話しかけてくる。

分かりやすく、一線引かれたのだ。

でも1日が永遠に感じるくらい、彼女からの連絡を待っている。
きっと僕から連絡したら、いつも通りの返信がくるはずだ。でもそれもできない。
小さい男だ。自分でまいた種子で、彼女を困られせた挙句、自分の世界で彼女を悪者にしようとしている。

「しょうもない奴だな」と、ぼそっと呟いた。

今日は23時まで残業していると風の噂で聞いた。早めに上がった僕は、今一人で立ち飲み居酒屋へ行き、その帰宅途中、冬の喫煙所で煙草を吸っている。
煙草の煙なのか、寒い中の吐息なのかまったくわからない。時計を見ると23時15分を回っていた。
ならあと15分だけ、彼女のメールを待ってみようと思った。
もしメールがくれば、それだけで僕の世界は報われる。

来なければ、僕の今日は終わり。
明日も永遠にやってこない。

なんて考えて、また「しょうもな」と白い息と共に呟いた。

僕らは何も学習しない。
気づくと時計の針は23:29を回っていた。

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