根が張り幹が伸びて枝が茂る
息子は勉強が嫌いだった。小学1年の頃に九九を覚える練習がめちゃくちゃ苦痛だった様で、すぐに算数に躓いた。漢字の書き取りを終わらせるのに、何時間もかかり、学校で勉強してなぜ家でまで勉強しなくちゃいけないんだ!とお得意の屁理屈を捏ね出した。
しかしながら、私が小学生だった頃より明らかに宿題が多いなとは思った。週休2日制のせいだろうか。ほとほと疲れた私は、宿題は学校の先生との約束なんだ。約束は守ろうね。と、なんとも心許ない宿題をする理由で説得していた。
息子の学年は学校外でも有名な荒れた学年だった。息子が公園で数人の同級生に突き飛ばされ、背中を蹴られるという暴力を受けたのをきっかけに、いつでも転校できるように動き出した。転校が無理ならせめて中学受験をさせようと考え、家庭教師をお願いすることにした。
有名私立の学生さんに国語、算数、英語の週一回の授業をお願いした。しかしながら、全く身にはつかず、先生は何故理解できないのか分からないというジレンマを感じ始めてしまった。卒業まで1年ちょっとの3回生だったので、卒業と同時に契約を終わらせた。
その次は国立医学部の学生さんのオンライン塾。なんかもう大変だった記憶しかない。一年も保たず退会した。
やりたくない事を何故強いるのか?彼にとっては苦痛でしかなかったのだ。勉強した方がこの先選択肢が増える、人生が豊かになると説いても、生まれて10年ほどの子供には現実味がなく、彼の心には響かなかった。
ママも勉強苦手だったよ。勉強が嫌な気持ちはわかるよ。でも宿題だけはやりな。それだけ言って、親が良しとする塾や習い事を強制するのはやめた。そして、走るのが速くなりたいと言い出したので陸上教室に通わせた。
陸上を始めた息子は水を得た魚の様に、楽しそうに練習に打ち込んで、初試合で決勝に残れたのを機にさらに陸上にのめり込んでいった。努力すればしただけの結果を得た息子は、当たり前のように中学も陸上部に入部し、高校も陸上の名門校を目指すと決めた。
「偏差値って何?」2学期の期末テストが終わった頃に息子が聞いてきた。うまく説明できなかったが、それが高い学校ほどテストの点が良くないと合格できないという事は伝わった。「俺って偏差値どれくらい?」それは分からないね。「今から頑張ったら、この高校に行ける?」もちろん行けるよ。「ほんと?間に合う?」間に合うよ。
息子は突然勉強をし出した。あれだけ、親が試行錯誤、右往左往して奮闘し、口うるさく言っても頑として動かなかった息子は陸上という打ち込むものを見つけたとたん、私が何も言わずとも自分から勉強するようになった。塾には通わずにいるが、家庭学習が毎日の習慣になったのは大きな変化だ。
もうすぐ始まる実力テスト、そして一年最後の期末テストの結果がどうなるかは分からない。陸上と同じように、努力すればしただけ結果が出るとは限らないかもしれない。
だけど、息子は自分で種を蒔いた。2年後の春に芽吹くために。もっと速く走るために。
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