ごっこ遊び
思えば息子は未就園児の頃からコスプレが大好きだった。マイケルジャクソンに憧れて、黒いジャケットと白いワイシャツや、中折れ帽やネクタイを欲しがり、あのキラキラの手袋を子供用軍手で代用し、靴下は白がマストで、サイズのまだ合わない黒いローファーを履いてご満悦だった。
クイックルワイパーをマイクスタンドに見立て、お菓子の入っていたマイク型の容器を握り、手足をふりふり、ライブDVDを流しながらビリージーンやスムースクリミナルやBlack&Whiteを宇宙語で口ずさんで、あの爪先立ちを必死に真似ていた。マイケルジャクソンごっこである。
幼稚園年中さんになり、次はスターウォーズに熱中し始めた。画用紙でライトセイバーを自作し、ダースモールのアクロバティックな殺陣に憧れ側転を自主練してマスターし、私にジェダイの服を作って欲しいとリクエストして、完コピとはいかないがハロウィンには参加できるかな?くらいのフル装備で、クリスマスプレゼントのライトセイバーをクルクルと回していた。スターウォーズごっこである。ちなみに今もスターウォーズ熱は冷めていない。
のび太ルックで幼稚園に行ったこともあった。クラスのドラえもんルックとしずかちゃんルックの友達と一緒にドラえもんごっこである。
フィッシャーズのシルクさんが大好きで、アスレチックやボルダリングに挑戦し始め、雲底や逆上がりを練習し、SASUKEオールスターズに惚れ込み懸垂を始めた。
好きになったものに近付きたい、同化したいという欲求が息子は人一倍強い。彼らの様にカッコいい自分になりたいのである。私はそれを一緒に楽しんできた。マイケルジャクソンになれるジャケットを探し、ジェダイナイトになれる衣装を縫って、ライトセイバーを一緒に作った。
しかし、シルクさんやSASUKEオールスターズになるために私が出来ることはほとんどないのである。逆上がりもジャンプ雲底も懸垂も息子自身が出来るようになるまで、ひたすら練習するしかない。
雲底のバーからバーまで両手を同時に離して飛び移りろうとしても、なかなか上手くいかない。ドアの枠を掴んで指先だけで懸垂しようとして落下する。自分の背より高い鉄棒で逆上がりをしたくてもあと少し届かない。
何度も何度も繰り返して失敗して、いよいよ彼は大声で泣きながら悔しがり、地面を蹴った。「できない、悔しい。」と涙を掌で拭いながらしゃがみこんだ。
それでも彼は止めないのである。見守り励ますことに疲れた私が、もう止めたら?と促しても、絶対嫌だ!と叫んでまた挑む。そして成功したらめっちゃ喜ぶ。私も本気で本心で喜ぶ。ハイタッチしてウェーイである。達成感は彼に新たな挑戦心をもたらす。新たな課題を見つけるのだ。
トライアンドエラーを繰り返して、息子は色んな何かを身に付けてきた。もうこれは誰かの真似とかではなく、やりたい!と思ったことに挑戦し、克服する喜びを知ったんじゃないだろうか。
私が息子にしてあげることなんて、どんどんなくなっていく。ただただ見守り、待つくらいしかないんじゃないかと思ってきた。息子はもう自分で自分を笑顔にする術を知っている。
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