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80歳のセンパイと暮らす。(10)

センパイと私は、お互いの誕生日祝いには美味しいごはん(だいたいランチ)を奢り合うことにしている。数年前、私たちにもうモノは必要ない、と決めてからだ。
今日は数週遅れの私の誕生日祝いに、センパイが創業60年になる天ぷら屋に連れて行ってくれた。外の喧騒から離れて、落ち着いた店内。この店がまだオープンまもない頃、つまりは55年以上前、ボーナスが出ると父と来ていたという。
「あの頃はボーナス5万円くらいだったかしらねぇ。ここの天ぷらはそんな時じゃないと食べれなかったのよね。若い時はお金がないから、週末はお寺めぐりして、たまーに食べに来たわね」
私は両親共に歳をとってからの子どもなので、かなり出来上がった状態しか知らず、二人が若い時なんて想像がつかない。驚くほど性格が正反対な二人が、どんな気持ちで、どんな会話をしながら、ここの天ぷらを食べていたのか、想像しただけでおかしい。二人がものすごく仲が良かったようには記憶していないが、父が亡くなって10年ちょっと、たまに父のことを話すときのセンパイは、なんだかかわいいのだ。
父が亡くなった後すぐ、一緒に暮らすことを提案した時には、「私は大丈夫です。ダメになったら言います」と却下された。それからしばらくして、私から帰りたいと言ったときは「仕方ないわね」と受け入れてくれた。父の想い出と生きながらも、センパイはダメになることなく、力強く生きている。ホントに女は逞しいのだ。

天ぷら屋でも向かいの喫茶店でカフェオレをご馳走した時も「美味しいわ!」を連発。今日はだいぶ機嫌が良かった。きっと父との想い出のせいだ。センパイから「美味しい」はなかなか出ない。次は私の番だから、これから美味しいトコを探しておかなきゃね。

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