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かたいベッド
ぎいぃ
ぎぎぃ
ぐぎぃぃ
姿勢を変える度に軋む(きしむ)音がする。本当にうるさい。
畳がカビないようにと思って、布団の下にスノコを敷いたのにだんだんスノコが俺の体重を支えられなくなったのかいつからか軋んでいる。おかげに俺は腰が少し反ってきていて、この薄い布団じゃうまく寝られない。寝返りもまともにうてない。
寝返りを打つたびにスノコがぎいぎいと音を立てる。この音は毎日聞いているが、いつまで経っても心地良いとは思えない。
だが、4月からは一人暮らしを始めることになり、ふかふかベッドで寝れることになった。待ちに待った念願のベッドだ。さぞふかふかなのだろう。
ニトリへ行き自分で選んだベッドフレームとマットレスで寝てみた。もちろん今自分で買える調度品のフレームと全てがセット売りになっているマットレスや枕、カバーを購入した。
自分はこのいかにも、男の一人暮らし宜しくのようなベッドを使い田舎では出来なかった事をしてやる。女の子を何度も連れ込み2人でシングルベッドなのに、狭いねと言いながら引っ付いて寝てやるんだ。夜だって楽しんでやる。
そう意気込んで、始めた一人暮らし。
ずっと欲しかったベッド。寝てみれば、予想よりもおしりと腰は沈み俺の身動きを封じてきた。きっと初めての一人暮らしで体は少なからず緊張していたんだろう。起きたのは太陽が出たした6時頃だった。寝たのが2時だから、4時間ほどしか寝ていない。体を起こし、腰を回すとバキバキと音が鳴る。
寝返りをしていない証拠だ。仰向けに寝てから一切体勢を変えていないのである。
マットレスが思ったより柔らかく弱い腰に動くなと言わんばかりに沈めてきたおかげで、俺の腰は余計にしんどい。
おまけに枕が思った以上に薄く、あってないようなものだった。
あれだけここが自分の城だとふんぞり返っていた自分はもうどこにもいない。都会の夜は明るく、いつになっても、外に出ろと言わんばかりに光を放っている。一人で寝ているからだろうか、何度寝ても欲しかったベッドなのにうまく寝付けない。
1ヶ月経つとようやく慣れてきたのか、寝ることへのストレスは減ってきた。
マットレスもあまり沈まなくなった。
そんな時ちょうど親と休みが被ったので、久しぶりに実家に帰ることにした。久しく忘れていた自分の部屋や空気。
1ヶ月間、ベッドという新しいものに体が慣れてきた頃にあの軋む布団と再開した。
そうだ、自分はこのぎいぎいとうるさく、かたく、寝づらい布団で過ごしていたんだ。この音と布団に寝転がった時のかたさから10代を過ごした日々が甦る。
ああ、いつもこれが嫌だったんだ。はやく家を出たいと思っていた。
でも今はこのダメさ加減が無性に懐かしい。
4畳半の畳の部屋の3分の1を占めるこの布団。
ぎぃぎいとなる音が今は嫌いじゃないよ。
これからは音のならない、やわらかいベッドで過ごすからね。
やおと(8010)