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ベイビーわるきゅーれ エブリデイ! 第2話「社会は責任を伴う場ってなんだよ」セルフライナーノーツ

1. ベビわるとの出会い

 僕と映画『ベイビーわるきゅーれ』の出会いはちょうど3年前、「何か殺し屋女子2人が主役の映画が面白いらしいぞ」という噂を聞いて、池袋のシネマ・ロサに観に行きました。スクリーンに現れた杉本ちさと深川まひろという2人の女子は、現代特有のモラトリアムが全開で、その中身があるようで無い会話の浮遊感が絶妙で、そして人間味のある怒涛のアクションと殺し屋としての皮肉と哀愁が満載で、こういう感覚を持った映画が生まれたことが純粋に嬉しくなる、そんな劇場体験だったのでした。阪元裕吾監督のことはもちろん存じていましたが、ポップさとアバンギャルドが見事に結実してファンダムを獲得するという、狙ってもなかなか成し得ない達成がここにある!と密かに興奮してました。個人的には撮影が伊集守忠くん、助監督が工藤渉くんという旧知の仲ということもあり、そんな彼らの仕事ぶりにも感心したし(何様だ)、自分もこういう作品に携わりたいぜ!というジェラシーすらあったりしたのでした。
 昨年の春に公開された続編『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』は、ちさととまひろ(以下ちさまひ)というキャラクターが強固に確立されており、ふたりのゆるふわぶりもアクションの精度も更に増していて、僕はもはや一観客として作品を楽しんでいたのでした。その勢いはとどまることを知らず、3作目となる『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』が製作されました。関わりのない自分の耳にもその現場の過酷さや壮絶さが漏れ伝わってくるほどで、その内実は来月公開される『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』でも赤裸々に綴られているとのことなので、僕も怖いもの見たさで観ようと思っているのでした。

2. え、ベビわるがドラマに!?

 今年の初めの頃、「ベイビーわるきゅーれがドラマになるんですけど、監督として参加しませんか?」という連絡が来ました。僕はすごく淡々と「やります」と答えました。内心は「うおー」と歓喜していたのは言うまでもありません。普通に映画好きとしてシリーズを追っかけて観ていた身としては青天の霹靂です。何よりも新たな時代のIPとしての魅力を感じていた「ベイビーわるきゅーれ」の次なる展開に携わることができることにめちゃくちゃ興奮したのでした。ほどなくして阪元裕吾監督が執筆した全12話の脚本が送られてきて、読み始めた僕はすぐに夢中になって一気読みしてしまいました。阪元監督によって生み出されて、これまで髙石あかりさんと伊澤彩織さんという2人の俳優によって血肉化されてきた“ちさまひ”が脚本の中で、自由に走って、泳いで、飛び回っている…!!てゆーかこんなの地上波で放送してもいいのか?ってぐらいの面白さとヤバさがこれでもかと詰め込まれていて、テレビ東京さんの懐の広さに僕はとても感動したのでした。それから、阪元監督とこれまで助監督としてシリーズを支えてきた工藤渉監督と、誰がどの回を監督するかを決めました。そうして僕は2話、7話、10話の監督を担当することになったのでした。ドラマのタイトルは『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』に決定して、ちさまひはもちろんのこと、これまでのシリーズを支えてきたTHEベビわるチーム、そして自分を含む新規参戦組のキャストやスタッフが集結して、ドラマの製作がスタートしたのでした。

 ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』は今年の夏に撮影が行われ、先週の9月4日に第1話「10年後も一緒に死体凍らせよ」がオンエアされました。すでにご覧になった方もいるかと思いますが、現在TVerの見逃し配信や、U-NEXT、テレビ東京の公式YouTubeチャンネルでもご覧いただけますので、是非何度でもお楽しみください。1話=24分なのでとっても観やすいのです。第1話は殺し屋協会からの指令を受けて仕事をこなす、ちさまひの日常が描かれつつ、夏目敬(草川拓弥さん宮原幸雄(本田博太郎さんという重要キャラが衝撃的に登場し、不穏かつ壮大な展開を予感させるエピソードでした。アクション監督・園村健介さんによるファミレスでの痛快アクションや、ちさまひが食べる豚汁レシピ(フードコーディネートは加藤綾佳さん)など、とっても見どころ満載でしたね。「ベビエブ(ドラマ版の略称)、最初からこんなに飛ばしちゃって大丈夫なの?途中で息切れしちゃうんじゃないの?」と心配されそうですが、ご安心ください。全12話、めちゃくちゃ高密度のクオリティでお届けします。この真夏の炎天下の中、連日連夜撮影に明け暮れたスタッフ&キャストの血と汗と涙の結晶です。そして現在も絶賛編集などの仕上げ作業中ですが…(まだ俺たちの夏は終わってない)

©︎「ドラマ ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

3. ベビエブ第2話について

 …というわけで前置きがめちゃくちゃ長くなってしまいましてすみません!今週水曜日の9月11日は自分が監督した第2話「社会は責任が伴う場ってなんだよ」が放送されます!!!今回、ちさまひがなんと居酒屋でバイトをします!!……と言っても、もちろん2人が普通にバイトするのではなく、殺し屋協会からの指令で、黒い疑惑のある店員たちが働く居酒屋に潜入捜査をするという筋書きになっております。ただでさえ社会不適合な2人が接客業のバイトなんかできるのか?という心配の声も聞こえてきそうですが、そんなちさまひの奮闘っぷりも2話の見どころになっております。夏目や宮原なども相変わらずキレッキレで登場しますし、1話に続いてのベビわるグルメもありますのでご期待ください。

 キャスティングについて。黒い疑惑がある居酒屋の店長・ハジメ役には田中俊介くんがキャスティングされました。田中くんは何度もいろんな現場で仕事をしてきた戦友で、僕の監督作にも今回で3度目の出演となりました。最初に脚本を読んだ時から「この役は田中くんだ!」と僕は確信していたので、田中くんに決まった時は本当に嬉しかったです。今回彼が演じたのは、居酒屋のイケイケ店長という役柄ですが、その弾け具合や、物語の立ち位置的なことまで一緒に悩んでキャラクターを作ってくれました。
 同じく居酒屋の店員として働くマユ役は、海津雪乃さんが演じてくれました。海津さんとは初めましてでしたが、濃いメンツが揃った居酒屋メンバーの中でも物怖じすることなく、生粋の透明感を滲ませながら、ある種の不遜さを持ったマユというキャラクターに仕上げてくれました。個人的にマユのある台詞がお気に入りで何度見ても笑いがこみあげてしまいます。
 そしてもう1人、店員のケンゴ役を担ったのは二ノ宮隆太郎くんです。二ノ宮くんとはそれはもう14年ぐらいの付き合いで(遠い目)、僕の作品に何度も出演してくれているのですが、今回はついにベストアクトを叩き出してしまったのではないかと僕は勝手に思っています。あまり多くは言いません。彼の勇姿を是非観てください。
 また、居酒屋のお客さんの形部という役で山本浩司さんに出演していただきました。山本さんとはそれこそ僕が20年前に上京して初めて行った映画の現場で出演されていたのが出逢いでして、それからずっと自分の作品に出演してもらう機会を狙っていまして、今回その20年越しの願いが叶いました(涙)。山本さんがちさまひとどう絡むのか、是非お楽しみください。
 あとは何と言ってもちさまひですね。僕の監督回の撮影初日に、髙石さんと伊澤さんが築き上げてきたちさととまひろの関係性やその空気感みたいなものを現場で直に感じた時は、ちょっと今まで体験したことのないような感動を覚えました。本当に唯一無二の2人なんですよね。撮影中はずっとふたりの芝居を見ていたくて、思わずカットをかけるのをためらうことが何度もありました。

©︎「ドラマ ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

4. ベビわるの新たな側面

 こっから先は少し踏み込んだ話を。ネタバレはしていませんが、もしかしたらネタバレっぽくも読めてしまうかもなのでご注意ください。今回全話の脚本を担った阪元監督もX(Twitter)で言及していましたが、今後ドラマが進んでいく中で、作品が描くのがゆるい日常とアクションだけではなくなっていきます。それはちさまひを取り巻く環境が変わっていくことや、さまざまな状況に立たされていく中でのちさまひ自身の変化など、描かれる話数を重ねれば重ねるほどに必然的なことだと僕も思っていますし、それは阪元監督の週刊少年ジャンプイズムに満ちたストーリーの構成みたいものに起因するのかもしれません。そしてそれはこれまで3本の映画が作られてきたからこその進化であり深化でもあるのだと。僕自身、最初こそは「ベビわるのドラマの監督ができるぜ!」とアホみたいに浮かれていたのですが、ちさまひというキャラクターや脚本と向き合っていくうちに、この物語が内包するジレンマのようなものに捉われていることに気がつき、演出についても凄く苦心しましたし、その苦労があったからこそ、ベビわるの新たないろんな可能性を見つけることができました。実際にこの第2話からそうしたベビわるの新たな側面が見え隠れしてくるのですが、物語のそういう繊細な部分を掬い取っていく演出を考える喜びがあったのはもちろんのこと、脚本の随所にそういう要素を仕掛けている阪元監督との仕事は心地よい緊張感もあって楽しく、とても充実した日々でした。あまりここで具体的なこと書くと白けてしまうと思うので書きませんが、いつかどこかで言及できたら良いなぁと思っています。

 まあ、こんな個人的な想いは気にしないでもらって、とにかく作品として『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』を、そしてちさまひが過ごすエブリデイをただただ楽しんでもらえたら、それがこの作品に携わったすべてのスタッフキャストの願いです。というわけで、こんな長文駄文を読んでいただき、ありがとうございました!エンジョイ!!

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