MY BEST FILMS 2023 No.20▶︎No.11
20. 『ミュータントタートルズ・ミュータントパニック!』
監督:ジェフ・ロウ
ワイルド・サイドで生まれたミュータントのカメたちにだって、イノセントで無鉄砲な10代の季節がある。その落書き感に満ち溢れたポップな混乱(メイへム)計画は、差別や迫害の歴史すらもカラフルに塗り潰して、全世界のトライブに呼びかけてゆく。「さあ、一緒に行こう」と。あとはその差し伸べられた手を掴めばいい。
19. 『aftersun アフターサン』
監督:シャーロット・ウェルズ
大きく広がる海を目の前にして、そこには深くて暗く息もできないほどの闇の底があることを、少女はまだ知らなかった。照りつける眩しい陽光が、微笑むあなたの影を漆黒に染めていたことすらも。孤独に押し潰されそうになりながらもずっと現世にとどまろうとしていた優しさと愛だけが、ただ無造作に記録される。それは永遠に残る日焼けの痕。
18. 『枯れ葉』
監督:アキ・カウリスマキ
引退を撤回した北欧の名匠が辿り着いた境地は、もはや最高傑作という概念に全く興味など無かった。ただ慎ましい暮らしだけを望む市井の人々の悲喜交々に、今なお続く不条理で理不尽な政情や戦争の暗い影を落としつつも、祈るように綴られる抑圧の物語が可笑しくも愛しく。ひとりでも生きていけるのは知っている。けどね。
17. 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
監督:古賀豪
戦争の癒えない傷、閉ざされた村、際限のないニンゲンの欲望。とめどない負の連鎖が引き起こす死屍累々は、もはや墓場で運動会どころではない。何よりも愚かしい人間たちの過ちだらけの歴史を見つめ続けてもなお、妖怪たちの理想郷という創作でこの世界を祝福しようとした氏の遺志を讃えて血染めの花束を贈る。最も理想的な「ザ・ビギニング」がこの国から生まれた。
16. 『Pearl パール』
監督:タイ・ウエスト
農場で抑圧された人生を送るパールは、いつか女優として銀幕の中で羽ばたくことを夢見る。クラシックな様式美を携える映像のトーンが、彼女の衝動とリンクしながらテクニカラーで舞い踊る惨劇に昇華していくさまは、映画へのラブレターに他ならない。その鮮血のパレードと歪んだ笑顔は、夢の都で潰えていった無数の憧れたちを祝福するようにいつまでも色褪せない。
15. 『バーナテッド ママは行方不明』
監督:リチャード・リンクレイター
最悪すぎる生活とマインドに追い詰められた私が、マイナスからプラスへ、座標軸を渡って向かった先はなんと南極大陸!誰もがただ自分らしく生きたい、そう願って生きているだけなのに、どうしてもうまく出来ない。そんな現代社会を彷徨うソウルメイトたちに捧げられた優しきエール。ゆっくりと進めばいいから。Time After Time、そう、何度でも。
14.『SMILE スマイル』
監督:パーカー・フィン
人間の最も脆くて壊れやすい心をひたすら蝕んでいく、このフィルムの邪悪さに警戒せよ。引き攣った笑顔だけを残して死に至るという呪詛は、まるでソーシャルネットの病巣で朽ち果てそうな我々一人一人のアイコンのようではないか。なんという悪しきクリエイション。だがどうしようもなく惹かれてしまう、それもまた映画という魔だというのか。
13. 『怪物』
監督:是枝裕和
自分の中で芽生えてしまった、この名前もわからない感情とどう向き合えばいい?親も友だちも先生も理解なんかしてくれない。それでも時代の遺児となったジョバンニとカンパネルラは、オンボロの電車に乗って旅に出る。傷だらけになっても君の前でなら優しくなれるから。作為や中傷といった泥に塗れた星空で、鈍く輝き続ける純粋無垢な魂たちがここにある。
12.『ファースト・カウ』
監督:ケリー・ライカート
何者でもない、何者にもなれない若者ふたりが賭けた一握りの夢は、とびきり甘くて優しくて、でも真ん中は空っぽなドーナツのよう。それは空虚なアメリカンドリームそのものだ。いつしか淘汰されゆく落伍者たちの人生と友情のナラティブは、誰も知る由もない西武開拓史の中で奏でられるエレジーなのだ。名もなく貧しく、そして美しく。
11. 『バービー』
監督:グレタ・ガーウィグ
価値観が変わることも永遠が終わってしまうことも恐れない、キュートなドールたちの最高な冒険。ありとあらゆる障壁を払拭して私たちが自分らしく、人間らしく生きていくための翼を誰もが持っているというチャーミングな存在証明。私たちがいつでも来た道を振り返ることができるよう、その出発点に立ち続けてくれている誰かの、その笑顔のためにこのフィルムは存在しているから。