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第9回杉並ヒーロー映画祭・講評

第9回杉並ヒーロー映画祭に審査員で参加させていただきました。
自分にとってもひさびさに沢山のインディーズ映画に触れる機会で、とても刺激的で有意義な時間を過ごすことができました。
ノミネートされた作品群は、本当に個性豊かなラインナップで、自分は2回ずつ観賞したのですが、噛めば噛むほど監督が作品に込めた想いや俳優陣の鮮烈な演技やスタッフワークなどがめちゃくちゃ味わい深く心に刺さってきて、僕はもう満腹です…。

グランプリに当たる大賞は『はなとこと』(監督:田之上裕美)、観客賞は『恋にセックスは必要ですか?』(監督:志波景介)、俳優賞&シアターバッカス賞は『もとめたせい』(監督:矢部凜)という結果になりました。
上映後の講評会で壇上でも述べさせていただきましたが、自分の備忘録として下記にそれぞれの感想を載せておきたいと思います。
この作品たちがもっと多くの人たちに出逢いますように…。


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『Walkin’』
監督:内海元伸


 静謐さでストーリーを推し進めていく気概は凄い、何も起こっていないのに何かが起こっているという映画の基本を突き詰めて、とことんミニマルに削ぎ落とした形という印象。とは言え、静謐が過ぎてもう少し面白みというかフックを求めてしまいたくなるのも事実。
 室内で映し出される平坦カットと、外の世界の大胆なショットの緩急は狙ってるのか?主人公の周囲のキャラクターたちの造型をもう少し作り込んで、ズラしの演出をすればもっと立体的になったのにと思う。
 ラストシークエンスの虚無に向かって突き進む彼女の後ろ姿、画面上手を行き交う車の群れすらも消え去って、彼女1人の世界になった瞬間はちょっと震えた。大体の作家はあのカットで映画を終わらせるけど、そのあとちゃんと謎の寄りで終わらせたことに現代性を感じました。

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『お母さんごっこ』
監督:三浦賢太郎


 非常にウェルメイド。自らが望んだわけではない社会における役割(ラベリング)の反動として起こる奇妙な出来事として、コメディエンヌっぷりを発揮する正木佐和さんの芝居も含めてとても観やすいけど、この内容だったら30分以内に削ぎ落とした方が良かったのかなと。
 短編で主人公に身に覚えのないことが起こる構成の場合、ある種の命題として如何に「世にも奇妙な物語」にしないかというのがあるのだが、あのオチにすることで余計にそれが強調されたように思います。
 キャラクターがいささか形骸化し過ぎているのがやはり気になる。息子に何かしらのしこりが無いと母親が徐々に受け入れていく流れが受け入れられづらいかと思います。ジャストアイデアを補強する要素、たとえば息子の部屋だったり、父親の不在などの、実は向き合うべきディテールこそが観たかった。

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『駆け抜けたら、海』
監督:十川雅司


 閉店間際の銭湯、という空間を「誰も触れない二人だけの国」にする発想は素敵。その空間で演者をどう動かして、気持ちの虚いも表現するという志の高さも感じました。
 個人的な好みで言えば、みつきが最初からうみに好意を抱いているという部分を、フェティッシュなカットも含めて見せすぎているような気がして、そういうのを最初はボカしておいた方が、中盤からの展開の高揚に観ている人が乗りやすいのではないかと思いました。
 最初のキスで空間がファンタジーに転換する感じは狙いとしては良いのですが、照明の色合いやカメラワークがMVっぽくて、現実との剥離が強まってしまい、それがラストまで引きずられてしまって非常に勿体無いなと思いました。
 メインの芝居場となる脱衣所の時計はたぶん調整が面倒で外したパターンなのかなと。時計はあったほうが特別な時間には限りがあるというリミット感が補強されて良くなった気が僕はしています。

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『キックボード』
菅藤:畔柳太陽


 ローテクでローファイでローテンション、だからこその、女と男の関係が実は切迫しているという事実が、切実に浮かび上がってくるストーリーテリングがとても良かったです。
 こういう作品を観てしまうと、良い映像とは何なのか、良い芝居というのは何なのかということをずっと考えてしまいますね。終盤の男女のやりとり中で放たれる「一人で立てない」という言葉が放つ強靭さは今回のノミネート作で随一かと。部屋の中の仕切りカーテンの使い方など、細かい道具の使い方、地味な空間の設計に長けていて、自分はそのさりげない感じがとても好きでした。
 あとは如何にしてこの作品を観た人の心に、もっとしこりのようなものを残せるのかというのが課題だと思います。今後、ストーリーテリングや演出、技術的な部分が身についていくことで拡がっていく可能性と、それゆえに失ってしまうことについて。

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『恋にセックスは必要ですか?』
監督:志波景介


 キャラクターの作り込みや、テーマ性に対するストーリーの構成自体はめちゃくちゃ現代的なセンスが炸裂してましたね。主人公・莉子の持つ性遍歴と、彼女の出逢う健太郎くんのアセクシャル性の組み合わせについては、最初こそえぐみが無くて観やすい感じでしたが、彼らが結ばれて、莉子の過去が暴かれてからは、周囲の人物たちの行動や言動などでドラマが安っぽくなってしまってそれが非常に勿体無い印象でした。
 ドラマが抱えたテーマの大きさに、作品自体が追いつききれなかったというべきか…。俳優陣が魅力的だし、技術パートや編集技術も卓越としていたので、フラッシュバックを多用するなどの話法もより、映画というよりはドラマっぽくなってしまっていて残念でした。
 ラストの問いかけに対して、作り手側としては観てる人に投げかけたいのか、二人だけの答えにしたいのかだとは思うのですが、単純にぼやかしてしまったことで作品の強度が下がってしまったように思います。この尺だからこそ、もう一段踏み込むべき要素もあったかなと。とは言えめっちゃこれから仕事来そう。

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『ねこの名はたつみ』
監督:小山亮太


 どうか、このカオスのまま突っ走ってくれ…!!と思いながらも、最終的に辻凪子の内的な自己解決で収束してしまったのが非常に勿体無い印象でした。辻凪子の艶演を始め、俳優陣がとても魅力的だったからこそ…!!特にこういう短編の場合、広げた風呂敷を無理に畳まずとも、カオスのまま終わらせる方が強度性を増すと思います。それが投げっぱなしにならないようにするのも作劇の課題でもあるので無責任なことが言えないですが…。
 タイトルロールのたつみよりも、彼を飼う家族の面々の個性がマジ強烈だからこそ、擬人化したたつみを受け入れられる、フィクションとしての懐があって、ストーリーもグイグイと進んでいく感じも心地よく、その絶妙なバランスはさすがだと思いました。
 だからこそ、物語を動かすのが外部から来た警察とかではなく、あの歪んだ家族という空間でもっとしっちゃかめっちゃかやって欲しかった!!謎に撃たれるお母さんのところとか最高でしたが。あそこで全員殺し合うぐらいのパワーが見たかった!

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『はなとこと』
監督:田之上裕美


 眩ゆいばかりの青の時代も、永遠に終わることのなさそうなグリーフワークの日々も、それらを切りとるすべてのシーンが愛おしかったです。ただそこにいること、そこにいることで生まれる感情を大事にしている俳優たちの佇まいとその演出。美しさも醜さも等距離で見つめるカメラワーク。そのすべてが監督の愚直ながらも真摯なこころに惹かれて成立したのだろう、と。そういう作品にこそ、映画の神が微笑みかけることを自分はずっとずっと信じているし、こうして出逢ったこの作品がその証明をしてくれたことをとても嬉しく思いました。終盤の墓地で吹いた風が、まるでこの世にいない誰かの言葉を代弁しているかのようで震えました。
 監督の経験からいろんな想いが込められた物語だとは思いますが、前半で確かに生きていた彼女と、演出や作劇的な視点で、もっと向き合うべきではなかったかと2度目の観賞で思いました。でもこの作品が大賞で納得です。次回作が楽しみです。

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『ボウル ミーツ ガール』
監督:関 駿太


 映画はもう二度と戻ることのできない青春のひとときを真空パックするための最良のメディアです。言い換えれば墓場です。自分なんかの世代が抱える(偏愛する)ノスタルジーの情景が、今の世代がつくる映画からも浮かんでくることに喜びを禁じ得ませんでした。在りし日の(90年代の)矢口史靖や古厩智之の映画を観ているようで嬉しくなってしまう。高揚するスラップスティックな絶望感!
 情景の中で溌剌と生きているキャラクターたちの躍動が凄まじかったです。瀬戸璃子さんの思い切りの良さと繊細さが同居した芝居は素晴らしかったですね。キャラクターの感情と作家のイマジネーションがいちいち密接に絡みついて爆発する、ある意味で理想的なショートフィルムの形だと思います。時どころかすべてを駆け抜ける少女、最高か。
 しかし何でこれを撮りたいと思ったのか…

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『もとめたせい』
監督:矢部 凜


 映画の始まりで抱いたイメージと、映画が終わた瞬間のギャップがもうとんでもなかったです。本当に一番、何か物凄いものを観てしまった感が凄くて、もう2度とこの映画に出逢う前の自分には戻れないという絶望感を喰らいました。
 この30分という限られた時間の中で紡がれる物語では、「女性らしさ」とか「男性らしさ」というそういう平面的な価値観や判断基準が消え失せているのに、人間そのものの自由なはずな姿が自分が何者かわからずに、ずっと泣いているようでした。本当に、それを体現した役者さんたちが凄いと思いました。(2人の俳優賞は当然のように思います)自分が映画を観るのは、こういう名前のつけられない感情に出逢うためだということを痛感しました。
 惜しいと思ったのは、そんなフィルム自体に込められた想いに気づくまでに若干時間がかかったこと。彼らの感情を切り取るショットに一貫性があったのは良かったけど、どこかで突き放すような視点・アングルがもう少し早い段階であっても良かったのかなと。可能性の話ですが。
 それにしても鈴木卓爾、ヤバすぎるだろ!

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以上です。
こうやって偉そうに書き連ねたことが、いつでもブーメランになって自分に返ってくるという覚悟を忘れないまま、今回の映画祭で受けた刺激を自分自身の創作に生かしつつ、また皆さまとどこかで出会えることを願ってます。

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