ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!第7話「ひさびさ実家帰ったらあるある」セルフライナーノーツ
ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』、1〜6話の風林火山編も終わり、ここから怒涛の後半戦、ジョブローテーション編に突入します。
前半戦の自分の監督回は第2話だけでしたが、後半戦は第7話と第10話を監督させていただきました。自分はこの作品を演出する上で、ベビわるがこれまで築いてきた世界を尊重しつつ、物語が内包するカルマや矛盾とどう向き合うかが大きな課題でした。だからではないですが、2話も7話も10話もそれぞれが異なる強度のベクトルを持った作品になったと自負しています。本当に作れて良かったー!!(昨日すべての作業が終わった解放感)
1〜6話が放送されたから言いますけど、これって深夜ドラマでやっていいクオリティじゃないですよね?(爆)それは撮影中、いや準備中から勘づいていたことですが…。エピソードごとにあっちこっちに行くちさまひ、のロケーションの多さや、物語の隅々まで彩ってくれるキャストの豪華さ、時にはユーモアも混えるハードなアクション描写、めちゃくちゃ美味しそうな料理(業界用語でいう消え物)の数々などなど… しかも超真夏の過酷な撮影で、自分がプロデューサーだったら絶対泡吹いてたと思います。現在、映画「ナイスデイズ」も絶賛公開中の『ベイビーわるきゅーれ』の世界を更に拡張していくドラマとして、誰も手を抜けない気骨が間違いなく現場では漲っていました。作品に関わった全員が全身全霊でクオリティの追求に執心できたのは、誰のおかげというわけでもなく、それぞれがただベストワークをしただけだというのが、作品にとって、作り手にとっての誇りなのです。
風林火山編の最終章となった第6話は、僕もさまざまな感情がぐちゃぐちゃになって心底震えたエピソードでした。阪元裕吾監督の描く脚本は、今の時代に生きる現代性と、社会や人間に対する揶揄や風刺的視点が豊かで、なおかつ娯楽芸術をジャンルレスに摂取してきた世代特有の感性が作劇にダイレクトに表出していて、それが『ベイビーわるきゅーれ』という作品で(映画もドラマも込みで)ネクストレベルに達していると感じています。あんまり内輪で褒めてもどうかと思いつつ、ドラマからベビわるに参入した僕だから見えることもあるのかなとも思いつつ…。風林火山編の主軸となった4〜6話の合宿で、夏目敬という人間を描き切るために、主人公のちさととまひろを客観的立場に置いたことが、今後の展開において重要な意味を成してくるような気さえしています…。(独り言)
というわけで第7話「ひさびさ実家帰ったらあるある」です。先週の死闘と涙から一転して、この振り幅こそがベビエブなのです。
7話はある意味本当に特殊な話でもあるので、極力情報を入れたくない方は、ここから先は観賞後にご一読ください…!
前回からのギャップという意味での狙いも掬い取りつつ、誰もが心の中で思い描く「実家」というものをどう映し出すか、それが僕にとって最初の課題でした。昔、夏休みに田舎に遊びに行ったときに感じた、言葉にできないホーリー感のようなものをそこかしこに散りばめることを心がけました。現場では、美術・岩崎さんが隅から隅まで作り込んでくれたロケセットに心が躍り、その中で撮影・関さんが切りとるショットや、照明・八藤さんのつくってくれた光と陰影が、そこで生活する人間をかけがえのないものとして映し出してくれました。フード・加藤さんが用意してくれた実家ならではのご馳走は、画面からも匂いが漂ってきそうです。仕上げ作業も、編集・遊佐さんとの作業はいつも僕の意図をすぐに汲み取ってくれて本当に楽しいし、音楽・森野さんや、効果・吉田さん、整音・久保田さん、皆さまのその仕事すべてが素晴らしく、僕が思い描いた「実家」というラビリンスに、観る人の心が迷い込むような、そんな「時間」をフィクションとして構築できたことが、とても嬉しかったです。本当はすべてのスタッフについて触れたいくらい、それぞれがベストワークを叩き出してくれました。
そしてもちろん出演者についても。ちさとの母・かなえ役は中島ひろ子さん!高校のときに映画「櫻の園」を観て以来、ずっと憧れだった中島さん、ダメ元でオファーしたらまさかのご快諾で、現場でも「ベビわる」の世界をめちゃくちゃ楽しんでくれて、最高のお母さんを演じてくれました。ちさとの父・たつみ役は橋本じゅんさん!嬉々としてお父さんを演じるじゅんさんの姿に、現場では終始笑いが絶えず、とても温かい現場にしてくれました。あるシーンで魅せるじゅんさんの熱演を是非お見逃しなく…!ちさとの兄・しんご役には三河悠冴くん!実は三河くんとは10年以上の知り合いなのですが、今回念願叶ってようやくご一緒できました。あるシーンでまひろと対峙する三河くんは必見です。しんごの妻・まりな役には高柳明音さん!驚くほどナチュラルな佇まいで、杉本家に溶け込む高柳さんはとても素敵でした。自分が現場で加えたシーンにも柔軟に対応してくださり感謝です。そして!ちさとの姪・いお役は安田月姫さん!(かぐや、と読みます)そもそも今回の帰省は、いおの誕生日を祝うという名目でもあるのですが、そんないおを演じてくれた月姫さんの天使っぷりと言ったら…!現場でも誰もが頬が緩んでしまう存在感でしたし、ドラマを観る人にとっても癒しになったら素敵だなと思っています。
※ここから先はガチのネタバレかもしれません
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そして主人公・杉本ちさと役の髙石あかりさんと、深川まひろ役の伊澤彩織さん。今回、ちさとの実家に帰省することは、風林火山編での疲れも癒すという意味もありつつ、そこで過ごすうちに「普通の幸せ」というものについて考えを巡らすことになります。「ベイビーわるきゅーれ」は、殺し屋として生活する女子ふたりを描く作品ですが、その職業の特殊性について、自分も演出する上で迷ったり悩んだりすることが多々ありました。これはただの憶測ですが、生みの親である阪元監督も、この物語が内包しているさまざまなジレンマやカルマについて常々葛藤や逡巡を繰り返しているかと思っております。そんな作品が持たざるを得なかったある種の命題について思い悩んでいたとき、今回の7話でちさととまひろのあるシーンの芝居を見て、自分の中で霧が晴れていく感覚があったことを僕は忘れることはないでしょう。だからこそ、自分は奇をてらうことなく、真正面から2人のことを撮りたいと思いましたし、より2人の絆みたいなものを観せたいと素直に思えたので、急遽現場である1シーンを付け足しました。オマケみたいなシーンですが、最初の映画から築いてきたふたりの関係を何かしらのカタチにできたら良いなと…。現場での急な発案に対応してくれた髙石さん、伊澤さん、そしてスタッフの皆さんに心から感謝を…。
今後のジョブローテーション編を観ていただく際に、7話のちさまひのことを思い返してもらえたら、それだけで僕は幸せです。仕上げの時に、7話を観た阪元監督が「これもう最終回じゃないですか」と言ってくれた時は何だかとても嬉しかったのです。
でも、もちろん最終回ではなく、来週の8話からジョブローテーション編が本格始動!!さまざまな運命に翻弄されていく、ちさまひの物語が一体どこに向かうのか… 乞うご期待です!!さぁて今夜はオムレツでも食べようかな…。
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