ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!第10話「そっちは殺しだけでいいけど」セルフライナーノーツ
ドラマ『ベイビーわるきゅーれエブリデイ!』を応援してくださっている皆さま、いつも本当にありがとうございます。先日、自分が監督した第10話「そっちは殺しだけでいいけど」がオンエアされ、いよいよ残すところあと2話となりました。8話から始まったジョブローテーション編でちさととまひろのコンビが解消され、ちさとはイケイケの奴らが集う営業部に送り込まれ、まひろは人事部で日野彰と共に粛清業務にあたることになりました。慣れない環境や人間関係でそれぞれ奮闘するふたりの姿が描かれます。はなればなれになったふたりの運命はどうなるのか、そして物語は何処に向かうのか…
自分はこれまで第2話「社会は責任を伴う場ってなんだよ」と第7話「ひさびさ実家帰ったらあるある」を監督しましたが、今回の第10話も含めて、それぞれの回で全く違う挑戦をしてきました。2時と7話については下記に長々と記したのでお暇なときにでもお読みください…m(_ _)m
https://note.com/800lies_/n/nc30981f68519
https://note.com/800lies_/n/n50e6dac1de67
第2話と第7話はふたりが居酒屋でバイトしたり(任務で)、ちさとの実家に遊びに行ったりと、それぞれがほぼ独立したエピソードだったので、ある程度演出の自由度が高く、結構遊び心を入れたり、監督としての自分の色をどれだけ出せるかというこだわりにも取り組むことができました。それに対して第10話は、8話から連なっていく展開なので、より的確に、どうやってクライマックスの11話と12話に繋げていくのかというプレッシャーというか課題みたいなものが、自分の中で間違いなくありました。今までずっと「ふたり」だった、ちさととまひろのソロ活動がストーリーの主軸になるので、言い方は酷いですがどこまでふたりを追い詰めていくことができるのか、それがテーマでした。言ってしまえばハードボイルドですよ。
⚠️これより下はネタバレを含みます⚠️
現場レベルで言えば、ちさとが営業部の連中に追い詰められていくさまや、まひろと日野の絶妙な距離感、そしてちさととまひろの軋轢を描いたシーンなどが最も試行錯誤したところです。特にやはりふたりの諍いに関しては、基本的に髙石あかりさんと伊澤彩織さんの気持ちの流れに委ねつつ、僕がしたことは芝居の動線をつくるなどのちょっとした調整を繰り返しただけです。個人的には、キッチンのシンクを挟んで対話するふたりの切り返しショットが本当に印象的で、7話のスイカを食べながらの幸福な切り返しに対しての、まるでベクトルの違うふたりの距離感、すれ違いを描けたことに震えました。非常に胸が痛むシーンですが、これからの展開に絶対に必須なふたりの感情がここにあるのです。
実を言うと10話の作業をしている最中に11話の編集版を観たのですが、そのときに僕の心は打ち震えてしまいました。遂にベビわるはここまで来てしまったのか……と。杉本ちさとと深川まひろが本気で凄い領域にいってしまってる……と。阪元裕吾が、己に課した「ベイビーわるきゅーれ」という物語が内包するカルマに真っ正面から向き合い、どこまでも人間らしく落とし前をつけていく、その作家としての正義を目の当たりにしてぶっちゃけ僕は泣きました。今回のドラマだけでなく、映画から始まったこの殺し屋サーガへの落とし前なんです。
何が言いたいかというと、そんなものを観てしまったら、そこに繋げていくための自分の10話を、更なる高みに突き詰めていかなければいけない!という衝動と責任感にどこまでも突き動かされて、編集もカラーグレーディングも音楽も整音も効果も、これまでのエピソード以上にこだわりをぶつけさせていただきました。(関係者の皆さま、その節はワガママばかりを申してすみませんでした…)
作品に対して手を抜かずにこだわりを突き通すのは当然のことではあるのですが、自分が最初に抱いたイメージをすべて捨てて、この物語が持つあらゆる可能性をとことん突き詰めて、現在の形に辿りつきました。すべての演出に正解も不正解も無いけど、自分が想像した以上にベビわるの世界に潜り込んで、ちさととまひろの苦悩と葛藤、そしてその先の未来を予感させる最高の「繋ぎ回」になれたかもしれない、と今では思っています。ちなみに指標としたのはトニー・スコットでした。(爆)
個人的な想いばかり書き連ねてしまってごめんなさい。そんな第10話を盛り上げてくれた出演者を紹介させてください。
柄本時生さんが演じる日野彰。ジョブローテーション編から登場して「粛清さん」としてまひろとバディを組む最重要人物です。時生さんとは初めましてだったのですが、とても柔らかい人柄で、演技も凄く自由で奔放なように見えて考え抜かれている技術に、僕はひたすら感嘆していました。今回の10話でもまひろとちょっと仲良くなっちゃってる感じとか、とは言え弱音や愚痴を吐いたり満面の笑みを浮かべたり、昔お世話になった人物を自らの手で粛清する時の冷徹さだったりとか、人間味が豊か過ぎてマジでやばかったです。今後、日野が辿る運命も是非見逃さないでください…!
まひろと日野の粛清対象となる麻織夢人を嬉々として演じてくれた諏訪太朗さん。僕が映画を好きになった90年代からずっと日本映画を支えてきた諏訪さんに出演してもらえて本当に嬉しかった…!結構激しい動きもあって大変だったと思うのですが、大雨の中で僕の「ボロボロの傘を拾って地面に叩きつけてください」という思いつき演出にも快く応えてくださって…涙。ちなみにこのカットは諏訪さんも出演された傑作映画『CURE』へのオマージュカットです。俺はマジでこれが撮りたかったんだ!夢が叶ったぞ!!
そして中華屋の店主・川原役を演じてくれた森下能幸さん。森下さんも日本映画好きには堪らない、めちゃくちゃツボを突いた配役ですよね。身も心も疲弊したちさとが立ち寄り、ひとときの癒しを与えてくれる中華屋のおじさんは本当に優しくて屈託無く笑える方を…ということで、凄くキャスティングもこだわらせてもらいました。ちさとにとっても観る人にとってもホッとする存在でいてくれたら、と願いを込めました。11話の森下さんも最高の存在感を放ちますので是非に。
また9話から引き続きとなりますが、ちさとが営業で出向く、いかにもな怪しさを放つ金成役の木村圭作さんも、抜群のキワモノさと粘着っぷりで、ちさとにストレスを与えてくれました。眼前に突きつけられるタッチペンのところ、ちさとの狂気と合わさって最高だったな…。
そしてちさとを苦しめるオフィス向日葵の人たち=山下役の後藤剛範さん、栗原役の小島藤子さん、龍役の一ノ瀬竜くんも次第に本性を現していく感じが、マジで嫌らしくて最悪に素晴らしかったですね…。ちさとと対峙する社員全員の恐怖カットと、「どんな時でも相手の気持ちを忘れずに」朝礼が自分は大好きです。朝礼のシーンは完全に現場での思いつきで急遽足したものです。すみません…。
あと個人的にはなのですが、水石亜飛夢さん演じる死体処理班の田坂をようやく演出できたのが密かに嬉しかった…。これまでの自分の監督回では出番が無かったので…。田坂を撮る時だけちょっとベビわるファンとしての僕がいたかもしれません…。それにしても麻織にカミソリを突きつけられながらくるくる変わる田坂の表情、めちゃくちゃ可愛かったな…。
飛永翼さん演じる須佐野は今回ど頭に登場しているのですが、ここはめちゃくちゃミッション感を醸し出したくて、ああいう撮り方になりました。シリアスなシーンだけど、なぜかおかしみもあるというのは自分がずっと心がけてきたことではあるので、飛永さんも楽しんで演じてくれて素敵でした。
ちなみになんですが、中井友望さん演じる宮内が僕の監督回に一度も登場しなかったのは、本当にたまたまです…。10話で会えると思ってたらまさか独り立ちしてたなんて…。またどこかで会えるかな…涙
というわけで、まだまだ語りたいことはたくさんあるのですが、とりあえず今回はこんなところで。自分はこのドラマからベビわるシリーズに参加させていただいたのですが、本当に参戦できて良かったと思っています。心から。第2話ではふたりの仕事を含んだ日常を、第7話ではふたりの幸せな時間を、第10話ではふたりの抱える葛藤と軋轢をと、さまざまな側面から、ちさととまひろの魅力を捉えることができて、阪元裕吾監督の脚本と向き合うことができて、たくさんの素晴らしいスタッフと出演者に支えられて、これ以上の経験はなかなかできないと思います。
今回の10話をつくっていく過程で、自分の中で浮かんでしまった画がありまして、それは脚本に無いシーンなのですが、無理を言って撮らせてもらいました。僕は物語に選ばれる人間の誰もが持っている孤独が大好きなんです。孤独と孤独が合わさって生まれる何かをいつも待ち望んでいます。また一緒に青空の下でゴロゴロできる日が来ると信じて。Have a Nice Everyday!