結末もキャストもチェンジする朗読劇Spiralを全部観た
艶やかに回転する夜……結末は1日3公演すべて異なり、2人の役者は日替わりで役がチェンジする。つまり全6公演で同じ結末、配役は1つとしてない。配信なし、完全に1回1回が一期一会の朗読劇だった。
★KIRAKIRA VOICE LAND VOL.34★
MORGUE×CHRONICLE Ⅶ
Spiral 艶やかに回転する夜――
シダックスカルチャーホール
7月3日(土)エリクサー…浦尾岳大 × レイス…山下誠一郎
7月4日(日)エリクサー…山下誠一郎 × レイス…浦尾岳大
告知~開演までのオタク
感想を書く前に、こういった朗読劇作品を観に行くのがはじめてだったので記録を。
山下誠一郎さんの出演が告知されたのが4/25、チケット発売が2日後の10時から(10時から!?)。こぢんまりとした席数120ほどのホールで席数は半分以下に間引いての販売。
通常チケット、土曜日or日曜日3公演通しチケット、全6公演通しチケットの3種類あり通しチケットだと割引があった。生の演技を近距離で浴びれるまたとない機会、6公演通しチケット以外の選択肢はなかった。
チケット販売解禁日の12時頃6公演通しチケットをポチり、速攻で銀行振込に行った。振込確認完了のメールが届き、公演1週間前に紙のチケットが届いた!
席はC~E列で真ん中と上手下手まんべんなくあった。単なる偶然かもしれないけど、席もいい感じに見やすい席を入れてくれていたのでは?と思う。
会場は渋谷駅から徒歩10分弱。1階のエレベーター前からスタッフさんが案内してくださり、物販を買ってふかふかな椅子に着席してみるとA、B列は空いていて、開演する頃にC列が最前だと知る。暗転しちょうど良い音圧で音楽が流れる。目の前で、始まる……!
観終わったオタク
情報量が、すごい……!
1時間半ほどお二人の掛け合いとギミックや難しめの単語盛りだくさんのストーリーを楽しみ、アフタートークでついさっきの公演や稽古の裏話も楽しめた。
規制退場で会場を出て、ひとまずシナリオを整理して良かった演技やアドリブを忘れないようにメモりたい! カフェへGO!してスマホのメモにざーっと書き込んでいった。
それ(をそこそこまとめたメモ)がこちら👐(めっちゃネタバレ)↓
作品は役者を変えて何度か上演されていて、これから先もされるだろうのでネタバレは後半に書こうと思う。
この作品は1公演ずつで完結もしているが、6公演でひとつの作品でもあった。タイトルの「Spiral」の通り、脚本の中でエリクサーとレイスの立場がぐるぐる入れ替わっていくし、1日の中で結末が変わっていき、2日間で配役も変わりアドリブも生まれ、物語に対する印象も変わっていく。
最終的な印象は、OPや要所要所に出てくる青い蝶と何が本当かわからないギミックから「胡蝶の夢」がテーマだったのかなといったところ。あと広島出身と広島弁キャラ役で広島つながりのキャスティングだったもしかして?w
だから3つの結末のうち最後の公演がトゥルーエンドとも思えないし、どの話が夢か現実かわからない。わからないのを楽しむ作品なのだと思う。
どの公演を観た観客にとっても好きな結末を選べるようになっている。
個人的には一番関連度が低いかと思われた劇中劇がついに結末とリンクした3公演目が好き。
アドリブをその場で考える派(スベったことも数知れず)な山下さんと用意してくる派の浦尾さん。声は中低音と高音め、演技はナチュラルとドラマチックで対になりつつ両者を引き立てるようなお二人の相性も良かった。
山下さんも言っていたけど、どちらかが突っ走りすぎたり突き放すこともなく笑いの方向性も似ていて、お互いに相手の芝居を受けて食らいついていくような立ち回りで、アドリブもぴったりハマっていたように思う。初共演だから合わせやすいようにしていたのもあるかもだけど。共演作また見てみたいなと思った!
ネタバレありストーリー考察
ここからは自分なりに整理した考察をネタバレありで書いていこうと思う。
アンケートにも書いたけど脚本を読んでみたい! 記憶しきれてないところがたくさんあって悔しいのです……。
共通事項
・モルグには魔女伝説がある。モレラの森に記憶を食べる魔女がいて、月食の夜に人を食べる。森には食べられた人の頭が埋まっている。
・探偵を生業としているエリクサーが貴族風の男に黒猫探しを依頼される。貴族風の男「もう何百回も月食を見ています」。男はバラを残して消える。
・エリクサーのもとに息子レイス探しを依頼するおじさんが現れる。エリクサーに誰も信じてはいけないと告げる。
・レイスのドレーン一族には王冠の指輪を右手中指に付ける習わしがある。
・エリクサーはモレラの森で黒猫に導かれるようにレイスと出会う。黒猫を追いかけ足をくじいて、レイスとゲシュペンスト村で数日を過ごす。
共通劇中劇
①レイスの新作絵本
天使を待つ少年が人間と出会い仲良くなっていくが、本当は悪魔だった。
②レイスの初めて書いた魔女の絵本
魔女はあらゆるしがらみを跳ね除け空を飛ぶ。黒猫は魔女を助けてくれる。
③7人の勇者の物語
モルグに伝わるおとぎ話。最果ての王国にいる7人の勇者はそれぞれ7つの大罪を抑止する魔法が使えたが、自分自身には使うことができない。お互いに魔法をかけあったところ、王国は蝶の森に落ち、純粋な魂だけが存在する場所になった。
1, 4公演目:悪魔バージョン
レイスの父親代わりだった黒猫が亡くなりモレラの森に埋めたとき、純粋な魂を持つレイスは悪魔に出会い、3つの願いを叶える代わりに死んだら魂を渡す契約をしてしまう。契約のしるしに悪魔が指輪を逆に付け替えた。(この結末だけドレーン一族は王冠を上下逆に付けない風習?)
レイスの村で疫病が流行り、暴走した村人は、村で唯一の医者だったレイス母が村人を殺している、魔女だと言い出し母とレイスは殺されてしまう。
レイスが死の間際に願ったのは「復讐」「再生」「永遠」。悪魔は「復讐」のため村を焼き、黒猫とレイスの理想の村を絵本の中に「再生」した。
最後の願いを叶える前に(おそらく指輪の魔を払う力で)レイスの魂は悪魔のもとから逃げてしまった。
黒猫はレイスに死んでいることを思い出させて絵本の中から解き放つために探偵を絵本の中に導くが、エリクサーは悪魔が人間に化けた姿だった。
悪魔は異なる姿で何度かレイスのもとを訪れていた。自給自足のサイクルが整う「永遠」を叶えようとしていた?
レイスに契約のことを思い出させ、悪魔はレイスの魂を手に入れたのだった。
この結末はシンプルにレイスの書きかけ絵本をなぞる展開だ。少年が(昇天させる)天使でなく文字通りの悪魔と出会う。魔女伝説もそのまま悪魔が人間を襲っていたということだろう。人間体の本人には悪魔の自覚がないようなので、もとは悪魔に魂を奪われた人間なのかもしれない。黒猫探しの依頼人もエリクサーの心に語り掛けた悪魔か?
どちらも裏の思惑がない状態で仲良くなっていくので純粋に2人の関係性の展開が楽しめた。
他のルートと違って悪魔への豹変時に音や照明の演出がなく、エリクサーの芝居をダイレクトに受けて胸をざわつかせてもらった。このルートだけ村人がレイス以外いないことが明示されていない(たぶん)ので村人はいるんじゃないかと思う。(これが後の公演のギミックに関わってくる……!)
レイスの追い詰められた恐怖も少年で亡くなっているためか、3, 6公演目よりは戸惑い気味で若いニュアンスがあるものだった。
2, 5公演目:タイムトラベラーバージョン
エリクサーは黒猫に導かれ過去のゲシュペンスト村にタイムトラベルすることがあった。タイムトラベルしている間の記憶はなく、レイスに会うたび初めてのように振る舞っていた。
ある時、レイス母はエリクサーにまた会えるよう祈りを込めて自身の指輪を託した。そこに月食の月に惑わされたゲシュペンスト村の村長が現れ、エリクサーとレイス母の仲をやっかんでレイス母と無理心中しようとする。
もみ合いの中レイスが母を刺し、村長を突き飛ばして殺してしまい、そのショックを引きずるうちエリクサーが母を殺したのだと思い込むようになってしまう。
タイムトラベル中の記憶がないエリクサーは指輪を売って探偵業を始める資金にしていたので、その後エリクサーと出会ったとき母との約束の指輪がないショックがエリクサーへの不信感に繋がってしまったのだろう。
始めにエリクサーにレイスを探すよう依頼をしたのは未来のレイスで、現時点で2人が出会ったのは絵本の中の幻影の村だった(幻影の村のレイスと未来のレイスは同一人物?)。記憶を補完しあった2人はエリクサーのタイムトラベルでいつか惨劇が起きる前のゲシュペンスト村にたどり着き、惨劇が起きないようすることを誓い合う。タイムトラベル中でない状態でレイスと出会ったためこのときの記憶はエリクサーに残っていると思われる。
このルートだけエリクサーの足が治ってレイスより早く高台に到着するので、この先の未来が明るいことを示唆している。
時を超えて、惨劇が起こらなかった世界線のレイスと、タイムトラベルしてきた幻影の村に行く前のエリクサーは友人として巡り合ったのであった。
このルートは魔女伝説が記憶を無くす(&タイムトラベルする)不思議現象のことだったり、ゴーストはタイムトラベルしてきたエリクサーのことになっているのも特徴で、エリクサーだけが巻き込まれる側で物語が進んでいく。黒猫探しの依頼人も黒猫に導かれてどこかからタイムトラベルしてきた人っぽい。
レイスは一方的に記憶がないエリクサーを知っているのでやや友好的だったり、1公演目を見ていた観客はエリクサーないしは逆のレイスを疑って見るのを逆手に取って"どちらも黒幕ではない"爽やかなエンドなのがいじらしかった。山下さんの鼻から吸って深呼吸する音の芝居も爽やかで最高でした。
3, 6公演目:サイコバージョン
母親と折り合いがつかなかったり現実世界に嫌気がさしているエリクサーは、自分の心に理想の人格たちを住まわせるゲシュペンスト村を築き、そこで探偵として暮らしていた。自分が生んだ人格たちでも必要がなくなったら躊躇なく殺すような横暴な創造主だった。
レイスはそこに生まれた絵本作家の人格だが、物語や登場人物を作ることはエリクサーが人格村で行っていることと同じであり、特別な存在であった。
ある時からレイスは創造主・主人格のエリクサーの行動を裏で操り、探偵として人格村の問題を解決させたり、邪魔に思っていたエリクサー母を殺させたりするようになり、ついには主人格の座を奪おうとする。(ここたぶん矛盾があって、レイスが本当にすべてを導いていたわけではないと思うのだけどセリフ読み返さないともうわからない……)
レイスに追い詰められ自分が揺らいでしまったエリクサーは人格としてレイスに殺されてしまう。響き渡る断末魔。自分を見つけた=新しい自分になったエリクサー(体)。
おじさんもエリクサーの人格の一人で、おじさんはレイスの暴走に気づいて穏便にことが解決するようにしようとしたのにエリクサーに殺されたかわいそうなルートだ。黒猫の依頼人もエリクサーがすぐ殺したから「消えた」のだろう。
このルートの好きなところは7人の勇者の物語とリンクしているところ。なぜ王国は勇者の魔法で地に落ちた=滅亡したのか、直接的に語られないのでそこのひっかかりがどの公演でも後を引いていた。
魔法をかける役割が終わって自身の魔法で抑止できる「強欲」「怠慢」などだけが勇者たちに残り、本当に純粋な心を持つ民だけの国になるように「傲慢」が6人の勇者を殺した。そしてそれを知った高潔な民たちが「傲慢」を抱えた最後の勇者を殺して、主を無くした王国は滅んでしまったと解釈できる。
それがそのままエリクサーの人格村に適用できて、役割を終えた人格たちを殺してほしいままにしていたエリクサーを、エリクサーの理想の人格であるレイスが殺す展開がもう気持ちよかった。
このルートのエリクサーはコンプレックスを抱えて傲慢な感じがしたし、レイスは完全なるヴィランなので余裕があって、3公演目の山下レイスは序盤大人しくしていてからのうれしさの滲むようなサイコ、浦尾さんも楽しかったと語っていたように6公演目の浦尾レイスは山下エリクサーへのアドリブの無茶ぶり、そして稽古のときと変えたらしい迫力のある芝居がすっごかった。それを受ける山下さんの戸惑いや恐怖の演技が怖くてほんと好き。
繊細な呼吸音や鼓膜に響く絶叫、舞台の上で高め合って生まれた芝居を生であんな近くで体験できて、とてもとても贅沢な時間だった……!
朗読劇、これからもっともっと観てみたい!
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