《記録》2020/2/9 にちようびのアトリエ①「色いろイロの名前」
-----0. 今回にいたるまで
前回のアトリエは、絵の具と紙を用意して自由に遊んだ。小学生の年齢の子たちにとっては正直、物足りなさもあっただろう。この年齢のこどもたちが自ら楽しんでできるよう、今回はテーマを設けることにした。
この日、みんなで行ったのは「絵の具を混ぜて色をつくり、その色に名前をつける」こと。そして最後に、全員のつくった色をまとめて、色見本帳にする。4年ほど前の造形小学生クラスで数週間かけて行ったものだ。
-----1. はじまり
まずは、以前につくった色見本帳をみんなで眺めてみた。その中の色や「日本の色・世界の色」という本を借りて様々な色の名前の紹介からはじめる。たとえば、緑にも「若草色」だとか「苔色」だとか「アップルグリーン」があるように。色の名前当てクイズ・色から連想するものや情景などを言い合って、手と心をほぐした。
「これなんて色?どんな名前にする?」ただいま思案中。
-----2. こどもたちに伝えた「今日やること」
⑴絵の具を混ぜてそれぞれ好きな色をつくり、画用紙に塗る
⑵描いた色に、思い浮かんだ名前をつける
⑶1と2はどちらが先でもいい
⑷最後に、今日みんながつくった色をまとめて一冊の色見本帳をつくる
-----3. 色をまぜる、色をつくる
さてさて、色の冒険のはじまりはじまり!
-----4. 色に名前をつける
色を描くところまではいつもどおりの絵の具遊びだ。名前をつけるのは、その先にあるものを眺めてみること。その奥にある階段を一段降りてみること。
それは、これから見る夢?それとも、どこかで覚えている記憶?
目の前には、今、ここで生まれた色。
ぼんやり混ざり合ったものに名前をつけるとどうなるのか。
描くときとはべつの回路をつかって、言葉と想像力で遊んでみる。
名前をつけるとき、そこから漏れてしまうもののことを考える。絵の具の「赤」と名付けられた色と「橙」と名付けられた色のあいだには、名もない無数の色があるからだ。名付けたときに生まれる、名付けることへの戸惑い。でも、それさえも、みんなで遊んでいる楽しさが超えていく。わからなくなったら、みんなに問いかけてアイデアをもらう。ブレインストーミングみたいだな。みんなの頭も体も、どんどん緩んで軽くなっていった。
「あー疲れた!ちょっと体を動かしにいこう!」
おやつを食べて外へ、みんなで側転の練習。いいアイデアが生まれるとさっさと部屋に戻っていく。
-----5. この日、生まれた色と名前(抜粋)
(写真左上から)
・パンダの赤ちゃん
・かわをむいてたべるおいしいオレンジ
・わたしのすきなあかのいろ
・なつやすみにいったおもいでいっぱいのうみ
・天使がみずあそびをする世界一とうめいのみずうみ
(写真右上から)
・江戸東京和服のむらさき色
・しらゆきひめがたべたりんご
・都会にぽつんと一本 大木の葉の色
・きれいなきれいなたのしくうれしいみどり
・キリギリスとバッタのすてきなえんそう会
などなど、合計48色! 見ているだけでワクワクする!
-----6. 冒険のあとで
そろそろ終わりの時間が近づいていた。机の上に1枚だけ、何色にも塗られていない画用紙が残っていた。
「ねぇ、これに名前つけようよ」
たくさんの色をつくったあとのこどもたちには、まっしろな紙が<新鮮な>色に見えたようだ。
「雪の、白…」
「富士山の雪!」
「じゃあ、富士山の雪の白の…」
ああでもないこうでもない、とみんなでアイデアを出し合ったあとについたのは「天然な雪の真冬の富士山のてっぺんのホワイトアウトの色」!
という名前だった。
-----7. 何が起こっていたのかをふりかえる
数日経って、絵の具で塗られた紙の束を整理し、色見本帳を製作した。この日を振り返り始めたとき、あのときみんなで名前を決めた、まっしろな画用紙が出てきた。そのときは気にも止めなかったけれど、あの日の全部は、この一瞬のために用意されていたのかもしれないな。数週間経って、そんなふうにわたしの思いは変わっていた。
たとえば、旅から帰ってきたとき、いつもみていた景色がすこしだけ変わっている、そんな瞬間。長い旅でなくても、遠くへ行く旅でなくてもいい。それは、この場所で、想像力で、行ける場所。
みんなで冒険をする前、その紙はなんの変哲もないまっしろな紙だった。たくさんの色をみつけて、たくさんの名前をめぐったあと。どこにでもあるまっしろな画用紙は、生まれてはじめて見る色に変わっていた。
それは旅をしたひとにしか、みえないもの。
いっしょに冒険をして、あたらしい目になって、ここに戻ってきたしるし。
もちろん作品としての色見本帳も完成した。一枚、一枚、とめくるのは、それぞれの色/名前/物語をふたたびめぐるようでとても楽しい。
ただ、あの場にいたわたしは、できあがった作品以上に、みんなでした<体験>や<冒険>の方に、より心が動いたのも事実だった。作品をつくると、作品として残らなかったものの方がみえてくる。
その<体験>が、じっくりと時間をかけて、こどもたちの体に根を張ることを願う。