魔法のエプロン
「にちようびのアトリエ」をはじめます。
ひとりの女の子がはじめてあそびに来てくれた日のことを、昨年の冬に書きました。その文章をここにのせておきます。
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「魔法のエプロン」
もう5年も6年も、使っているエプロンがその部屋にかかっていました。
どこで買ったか忘れてしまいましたが、買ったときは黒一色のエプロンでした。あか、あお、きいろ、もも、だいだい…今はえのぐだらけで想像もできません。
えのぐで遊ぶとき、かかさずつけるエプロン。
これをつけると、スチャッと「なにか」になれる魔法のしるしです。
なにか、とは、めいっぱいよごれてもいいしるし。
きれいとかきたないとか、おとなとかこどもとかの区別がないしるし。
なんだかわくわくして、元気になるしるし。
ぐちゃぐちゃのえのぐだらけになった手をふいたり、
おもいっきり遊んでいたら色のしぶきが飛んできたり、
あわててえのぐをバッシャーン!とこぼしてびしょ濡れになったり。
おなかの部分にはたくさんの色と、楽しい気持ちがくっついています。
エプロンのポケットは、ハサミを入れていたら穴が空いてしまいました。
ともだちがくれたアメや、ひろいあつめた木の実も
すぐなくしてしまうのはそういうわけでした。
ある日、女の子がそのエプロンを見て言いました。
「わぁ、きたない!」
そりゃあ、まるで泥んこあそびしたあとみたいだものね。
でも、いっしょにえのぐであそんでいるうちに
その子のエプロンも泥んこみたいになっていきました。
筆をつたって、手のひらにも、鼻の先っちょにもえのぐがついていたけれどその子はなんだかとってもたのしかったのです。
「きたなくなることはしちゃいけないって言われてたけど、どうしてかしら。こんなにたのしいからきっと、大人たちはひみつにしてたんだわ。」
エプロンをみつめるその子の顔は、すっかり変わっていました。
目をきらきらさせて、どうやら魔法にかかったみたいです。
そんなこと、だれも声にだしては言わないけれど。
だからこれは、魔法のエプロンをつけたひとだけのないしょの話です。
(2018.2.6)