800字チャレンジ#4「藍に融ける」

※堀宮夢小説(井浦秀)
※名前あり固定主
※800字チャレンジ100本ノックの自分用記事


曖昧な好意だけを持って過ごしてきた。
人と関係をつくるのは得意だ。異性との友愛は、いつしか恋情に近づく。友達以上恋人未満。なんとなく「いける」と思った感情に無理やり「好き」と言葉をつけて、付き合ってみた子が、一人や二人。
友達以上恋人未満は、恋人になったところで、友達に近い。恋情に昇華したと思った感情は、いつしか友愛へと戻っていった。
井浦にとって恋とは、そんなものでしかなかった。

だから、初めて向けられた真っ直ぐで明らかな好意に、面食らってしまった、というのが正直なところである。
「俺も彼女欲しー!」口癖のように口にしていた願いは、美波さやから向けられる想いに気づいてから、とんと出なくなってしまった。

「(付き合おうと思えば、付き合えるんだよなぁ)」

美波は、良い子だ。
大人しくて、その癖感情はわかりやすくて、いつもぴるぴると小動物の様にこちらを伺っている。その様は、正直言って、可愛い。

「(でも、友達、なんだよなぁ)」

可愛いとは思う。けれど、友達。これが、ノリで付き合える子ならよかったのだ。けれど、それをするには、美波の想いはあまりにも真剣過ぎた。
井浦もその想いに真剣に向き合わなければいけない程。
誰かと真剣に向き合うことは疲れる。
だから、気づかないフリをして、あくまで友達として、仲間内の一人として、美波とは関わって……

「(なんて、これじゃあまりにも美波さんに不誠実だよな)」

わかっている、わかっているのだ。
井浦だって、出来るなら誠実でありたい。だが、美波からもらったものに見合うだけのものが、井浦は返せない。今の井浦が美波と付き合う。それが、どうにも井浦には違和感に覚えて仕方がない。

「(大事にしたい……)」

大切ではあるのだ。
美波の想いに気づいたとき、確かに嬉しかった。しかし、「大切な友人」で止まってしまった。

「美波さんのこと、好きになりたい……」

小さく、口の中で呟く。しかし、それは曖昧な響きとなって、宙に消えていった。
宮村や仙石には程遠い。石川よりずっと不誠実な自分に嫌気がさす。
美波が自分のことを好きだから、それを返したいのか。
恋人が欲しいから、その対価として好意を返そうと思っているのか。
それすらもわからない。
そっと、目を閉じる。
思考は夜の帳に融けていった。

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