800字チャレンジ#1「巡る熱」

※アニポケ夢小説(サトシお相手)
※名前あり固定主
※800字チャレンジ100本ノックの自分用記事


テントから出て、はぁ、と息を吐きだす。
白いそれがそのまま凍って、シャリ、と音を出しそうなほど、酷く冷え込んだ朝の空気があたしを迎えた。

「ふあぁ……。おはよ、アオ……さ、さむっ」

後ろからガサゴソと布の擦れる音がして、ハルカが顔を出す。
と思ったら、冷たく吹き込んだ風に、その頭はすぐに引っ込んでいった。

「おはよー。寒いね」
「うぅ……着替えたくないかも……」

寝袋の中に戻って、顔だけひょっこり覗いた芋虫状態のハルカが顔を顰める。
全く持って同感だが、外からは
「アオ―!ハルカ―!まだかよー!!」
「お姉ちゃん、また寝坊してるの!?」
随分と喧しい声が響いている。
犬か。ガーディなのか。雪やこんこん、ガーディは喜び庭かけまわり、エネコのあたしたちはテントの中で丸くなる。

「ハルカ―。いつまでもこもってられないし頑張って外出よ」

はい、湯たんぽ。
差し出すのはレモンと身を寄せ合っていたハルカのアチャモ。
「ピーカー」殺生なー、とでも言いたげにレモンがアチャモに手を伸ばす。
しかし無慈悲にもハルカの腕に収まったアチャモに、悲しそうな顔をしながら、レモンはあたしの寝袋へと非難していった。ポケモンたちにも今朝の空気は堪えるようだ。

「うーん、アチャモあったかいかもー」

ほこほこ、とアチャモに顔をうずめるハルカに、程ほどにね、と声をかけ、着替えをする。
いつもの服装に、ダウンジャケットを羽織って。首までしっかりとジッパーを閉め、外に出る。うう、寒い……。テントに後戻りしそうな身体をなんとか叱咤して、立ち上がった。

「アオ、遅いぞ!……あれ、ハルカは?」
「おはよー。ハルカはね、あれはまだ時間かかるね」
「全くもう、お姉ちゃんたら!」

ぷんぷんと怒ったマサトは、ハルカのこもるテントへと向かって行った。
マサトが引っ張り出してくれるなら、間もなくハルカはやってくるだろう。

「タケシがあったかいスープつくってくれるって」
「やったー、今朝寒いからね。タケシのスープ嬉しいなあ……わぷ」

サトシと並び歩いていると、びゅお、と冷たい突風が襲ってきた。
ジャケットに両手を突っ込んでいたせいで、身体がふっと傾く。
それでも、倒れることはきっとなかったのに、サトシの手があたしの腕をはしっと掴んだ。

「あ、ありがと……」
「もー、危ないなー。手、出しとけよなー」

そう言って、サトシはあたしの両腕を掴み、ジャケットから引っ張り出す。
ジャケットの中でほこほこになっていた両手が冷たい空気にさらされる。冷たい空気から熱が移ったように、サトシの掴んだところが熱くなった。

「さ、行こうぜ」

離された腕の熱は全身に巡り、ほこほこと、身体中をあたためる。
空気に晒された両手だげが冷たい。空気に晒されているはずの頬と耳は、熱い。

「熱い……」
「え?アオ、寒すぎて馬鹿になったの?」

そっと呟いたその言葉はマサトが引っ張ってきたハルカに拾われた。
「えー、大丈夫?」引いた顔をするハルカの背中を、あたしは無言でぱん!と叩いた。
熱はすっかり冷めていた。

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