桜並木とおじいちゃん
桜の時期はあまり良い思い出がないこともあって心がザワつきがちです。
今日もうっかりザワつきそうになったので、桜の時期にあった数少ない良い思い出を振り返ってみることにました。
今回パッと思い浮かんだのは自動車教習所に通っていた頃のこと。
教官達に「私には妻と幼い子がいます」など軽めの命乞いをされてから実車教習を受けるようになったあの頃、私は一度だけおじいちゃん教官に担当していただいたことがありました。
おじいちゃん教官はかつての春の陽射しのように温かくてやわらかくてとても優しい教官でした。
おじいちゃん教官との実写教習はずっと穏やかな時間が流れていて、終わってしまうのが惜しいくらい伸びやかで楽しい運転ができたように思います。
そんな穏やかな時間の中で印象的だったのが、運転コースの中にあった桜並木。
「七草さん見てごらん、桜が綺麗に咲いているよ」
おじいちゃん教官が指さす方向に目線をやると、頬を赤らめた少女がごとくポッと色づいた桜がフロントガラス上部いっぱいに広がっていました。
「わあ、綺麗ですねえ」
車の中から見たゆっくり流れる桜並木の景色は歩きながら見る桜並木とはまた違った趣深さを感じ、私は初めて運転の楽しさに触れられた気がしました。
そして、危うく信号無視をするところでした。
「つい見入っちゃったね」と2人で笑いながら教習所へ帰った、そんな楽しい桜の時期の思い出。
おじいちゃん教官はきっと春が来るたびにあの綺麗で少し特別な桜並木へ生徒さん達を導いていたんだろうなと思います。
おじいちゃん教官、お元気かしら。
もう10年ちょっと前の話だからご引退されているだろうけど、彼の指導で運転が楽しく思えるようになった生徒さんはたくさんいらしたんじゃないかなと思います。
でもね、おじいちゃん教官。
あれから私は2度目の実車試験で「もう二度と運転しないでください」と言われながら合格をいただき、免許取得後は10年ほどハンドルを握ることなく暮らしております。
私がハンドル握るとね、日本容易く滅ぶらしいよ。
結局あのドライブが最初で最後のドライブになってしまったけれど、最初で最後のドライブがおじいちゃん教官との桜並木ドライブで良かったなあと思いました。
なんかアレだな。
おじいちゃん教官との思い出に楽しく浸っていたら運転したくなってきちゃったな。
ここいら地域に確かレンタカーショップがあったはずだから車を借りて乗ってみようかしら(埼玉壊滅注意報)。