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中村座!

「芸能きわみ堂」に触発されて、周回遅れにも程がある姫路城平成中村座の感想を投下してみる。
これまでのご当地中村座の中で1番好きな公演。楽の興奮冷めやらぬままに感想いきます。

播州皿屋敷

朝っぱらから(昼だけど)何てものを見せるんだ。
これね、例えば平成中村座初めての人が前評判聞いてワクワクしながら昼の部行ったとしてね、いきなりお出しされるのがこれというのはね、あまりにもね…



最 高 じ ゃ な い で す か ! !

皿屋敷は番町より播州推しなのでめちゃくちゃ楽しみにしてたわけですが、平成中村座第三世代(というのが存在するのを筋書で初めて知った)による今回の舞台。まずは若いメイン二人の脇を締める亀蔵丈そして山左衛門丈が良き。中村座の舞台に立つようになってまだ日が浅い橋虎コンビをしっかりとこの小屋に馴染ませる、例えるなら姫路おでんの出汁の如き触媒的存在。とっても美味しかったです。

橋之助丈鉄山、輪郭がシャープじゃないからお父さんみたいな酷薄さには欠けると思ってたけど、これはこれで太々しくて良いですね。キツめの化粧が際立たせる愛嬌あるフォルムが、逆に憎たらしさを増幅させる。お父さんににつ声が太いのも頼もしい。
しかしこんなんを国家老にしてる播磨は大丈夫なんですか。御家騒動国家転覆色々あるけど、家臣が若殿を暗殺して成り上がろうとかってなかなかない発想だと思う。いやほんと大丈夫なんですか播磨。

虎ちゃんお菊は前半の楚々とした健気美人も良いんですがやはり眼目は吊られてからですね。於菊虫と言われるジャコウアゲハの幼虫の蛹、あれ後ろ手に縛られた女みたいに見えることからそう呼ばれるようになった説があるけど、吊るされた状態で縄から抜け出そうともがくところ、蛹の状態でピクピク動く於菊虫みたいでいやー解像度高ーッてなりました。
井戸に落とされて水責めされる時の恐怖に満ちた悲鳴+帯の上から執拗な腹パンを喰らった時の喘ぎだけでもかなり観る者のSAN値を削って行くんですが、やはり膾切りにされてるときの苦痛の叫びがガチに斬り苛まれてるみたいで痛そうで痛そうで…抜き身の刀を咥えさせた上で引くとか鬼かほんと…お菊の舌がどうなってるのか考えるだけで痛いよ…
という胸糞スナッフムービーのような陰惨極まりない殺し場の後、一際憎たらしく極まる鉄山と、
死亡から怨霊デビューするまでのペースが早くて頼もしいお菊さん。皿数えてじわじわ恐怖させると言うよりきっちり実力行使するタイプですね。
おそらく平成中村座初の「客席にお化けが現れる」演出もめちゃくちゃ良かったです。毎回仕込みか?っていうくらい派手な悲鳴が上がってたけど私も一度くらいは近くで見てみたかったなあ、ダミーお菊さん。

平成中村座のサイズで本格怪談芝居やって欲しいんですが、その可能性を感じました。あと次は勘九郎鉄山・七之助お菊で観たい。




・鰯賣戀曳網
中村屋に代々伝わるハートフル御伽話がとうとう平成中村座に初御目見得。
とりあえず橋之助丈は温度差やばない??風邪ひかない??って思いました。てか今回全ての幕に出てるよね橋之助丈…えらい…

なあみだぶつは遂に扇雀丈。女方やる人がやる役なのこれ?とちょっとびっくりしたけど、そういえば東蔵丈もなさってたしなあ。どこかママ味というか慈母みのあるおとっつぁんでした。息子に知識を仕込む程に俳諧を嗜む、という雅やか且つアカデミックな趣味を持つのが頷ける品の良さも扇雀丈ならでは。

猿源氏は花道から出てきただけでめちゃくちゃ笑ってるお客が後ろに居たときがあって、いや今全然笑うとこじゃないよね?と気になったんだけど、多分見た目がツボに入ったのだろうな…でないと私の中で関西人の笑いの沸点をだいぶ下方修正しなくてはならなくなる。
ほぼ毎回何らかの入れ事をしてくるので油断ならないですが、今回のもなかなかニッチで良かったです。あと見る度にどんどん可愛くなっていく。

蛍火の傍輩達の中で、回を重ねるごとに鶴松丈演じる遊女がどんどん女っぷりを上げて行ってるのも面白い。最初は初々しい感じだったのに、今や蛍火を詐称してもギリいけそうなまでになってるのすごいね?

そして蛍火は安定の蛍火。猿源氏と違ってちょけるタイプの入れ事ができない役どころだから不動の美しさで観る者を圧倒する。特に後半の、互いに正体を明かして夫婦になってからの猿源氏とのパワーバランスが難しいとこあるよなあって思ってたんだけど、今回は幕外の引っ込みご当地エディション追加のおかげもあって大変良かったです。

それにしても本当、見る度に盤石のイチャイチャ多幸感がすごい。どこまで行くのこの兄弟は。父上と玉様の向こうまで?
蛍火の「お前とならば、どこまでも」という台詞にグッときた。この二人ならきっとどこまでも行けちゃうね。次のハネムーン先はパルテノン神殿あたりいかがでしょう?



・棒しばり

これと高坏で勘九郎丈の次郎冠者二大巨頭だと思ってる。してみると今回勘九郎丈について言えばメイン演目が初役なしのベーシックスタイルで、初めましてな地方興行向けなんですね。
と見せかけてしっかりブラッシュアップもされてて、今回はたいへん腹黒かっこいい次郎冠者でした。何たって主人をボコるときの目がシラフ。凡そ酔ってるとは思えない殺気に満ちたキレキレの棒術。
勘九郎丈の場合、前々から「これ太郎はともかく次郎は酔ったふりが異様に上手いだけでは(酒そのものは好きだけどワク)」って思ってたんですが、今回は特にそう感じました。
 花外まで来て座り込む時に目が合って、にこーっと微笑む次郎冠者が見られたのは嬉しかったなあ。

扇雀丈の品と色気のある主人。でも弱い。めちゃくちゃ弱い。見るたびに弱くなっていってる気さえする。

まともかと思いきや全然まともじゃない太郎冠者。
橋之助丈の太郎冠者は一見真面目と見せかけたこういう絶妙な不真面目さが上手い。酔態の笑かしがグレードアップしていく太郎次郎、こういうのは太郎と次郎の相性やバランスで面白さが左右されるけど、今回のが一番しっくり来たかも。これからも大きいにーにと踊っていってほしいです。


天守物語はまた後日。

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