The First Letter 制作後記
はじめに
はじめましての方ははじめまして、日曜映像作家をしておりますななまちです。
9月に開催されたオフライン映像上映イベント、「FRENZ 2024」に出展した映像『The First Letter』、会場にてご覧いただいた方、ありがとうございました。
当日は会場に行けなかったのですが、Twitter(現X)で反応を見させていただき、ニヤニヤしておりました。いいねを飛ばしまくったことを許してくれ。
今回の映像は会場限定上映となりますが、スクリーンショットとスクリプトをもとにnote用に再編集したバージョンを公開しましたので、現地で見られなかった方やもう一度作品を味わいたい方はぜひご覧ください。
制作のきっかけ
生まれてくる子へのメッセージ、最初の手紙
作品を見ていただいたとおり、この作品は「これから生まれてくる我が子に向けた最初の手紙」というコンセプトで作られています。
そして作品に描いたとおり、FRENZでの上映から数日後に第一子が生まれています。
母子ともに健康に生まれ、まもなく3ヶ月を迎える今もすくすくと育っています。我が子マジかわいい。天使。
そして制作のきっかけは妊娠がわかった2月まで遡ります。
新しい命を迎えるにあたって、この子に何を伝えようか。
この世界はどんなところなのか、どんなふうに育ってほしいのか、そして、この世界に来てくれてありがとうと、この世界を楽しんでいってねと言えることができるだろうか。
そんなことを考えていました。
また、妊娠がわかると諸々の状況を加味しておおよその出産予定日もわかるのですが、その時にちょうど9月下旬と言われました。
ほう、9月下旬……
FRENZの時期だなぁ……
やるかー、やるしかないかー。
そんなこんなで少しずつ構想を温めていた5月頃。
妻であるかごめさんの誕生日がこの時期にあたり、誕生日プレゼントに何がほしい? と聞いたところ、「子どもが生まれるまでの様子を映像で記録してほしい」との答えが返ってきました。
そんな事ある? と思いながら今回の映像のことを話すと二つ返事で承諾してもらえました。
このように考えて制作を始めましたが、我が子への手紙として書いているうちに別の視点も生まれてきました。
それは「過去の自分に向けた手紙」です。
これまでの自分との決別
自分は大学時代に辛いことが重なり、今でも思い出すと胸が締め付けられるような状態です。
光が見えない中でもがき続けた6年間、自殺未遂も何度もありました。
作品前半の気持ちは当時の気持ちを思い出しながら書きましたが、あれは紛れもなく本心です。
こんな「生を否定する気持ち」を抱えたまま、新しい命を本当に迎えることができるのか? ということを自問自答していました。
大学を出るのと同じくらいのタイミングで生きることについて一つの区切りをつけましたが、その時の選択肢は「死ぬという決断を留保する」という、消極的に生に立ち向かうものでした。
それもあってか以降は気持ちが楽に過ごせているのですが、果たして子どもを迎えるにあたってその態度でいいのか、もっと生きることを積極的に肯定すると、綺麗事だとしても言うことができなければ迎える資格がないのではないか、そんなことを考えています。
そうやって今までのことを思い返していると、確かに辛いこともいっぱいあるし、全部が全部いいこととは到底言えない。それを言ってしまうと嘘になる。
でも、いいこととそうじゃないことをトータルで考えるとプラス、生きてみる価値がある世界だな、と自分なりに区切りをつけることができました。ようやく過去の呪縛から解き放たれた感覚があります。
私が好きなアーティストであるSound Horizonの『黄昏の賢者』という曲があるのですが、この歌詞の意味を今になって自分と重ねることができるようになりました。
その他にもこれまでに影響を受けた曲や小説などを思い返しながらスクリプトを書きました。
今まではMVを中心に作っていたのに対して、自分の心情を表現として0から組み上げていくことは自身の内心を一段と開く必要があり、大変でした。
制作中の話
コンセプトが固まったところでここからは制作の話です。今回は映像のみではなくポエトリーリーディング、作曲まですべて自作で行ったので語らせてくれ(隙自語)。
映像
今回は全編実写素材での映像ということで、撮影を多く行いました。
使用した映像の半分くらいが作品に向けて撮ったオリジナル素材、残りは過去に日常的に撮っていた映像と制作を決めてから日常で多めに撮っていた分が同じくらいの割合です。
Vlogを意識していたわけではないですが、撮った映像の傾向は近いかも。
機材はほとんどがスマホ(Galaxy S23)、一部はミラーレス一眼(Canon EOS M5)とGoProで撮っています。
一眼持っているのにスマホ中心? と思われるかもしれないですが、サッと撮れる取り回しの良さが今回の映像に合っていたのでスマホ中心です。
あとちょっと古い一眼なのでビデオ性能が若干劣ることもあり、被写界深度が必要で動きが小さい映像の撮影にのみ使用しました。
新規ロケ場所は大学時代を過ごした場所だったり会社の近くだったり、何かしらゆかりのある場所です。
今回の動画はかなり私小説的なので、そこはこだわりを入れました。
8月の京都ロケ、めちゃくちゃ暑かったです。あとゲリラ豪雨は本当にやめてくれ。
過去に撮っていた映像は旅行先でのものが多いです。特に小笠原諸島での素材が結構あります。かごめさんに唆されて猛プッシュされてこのときにダイビングのライセンスも取りました。まさかその映像が後に作品になるとは。
大自然に圧倒されるので、みなさんもぜひ行ってみてください。船で片道24時間かかるけど。
続いて編集について。
イベントに出展している映像はイラストとモーショングラフィックスによるMVが多いですが、映像の経験としては実は実写映像のほうが多いです。
一時期、映像の撮って出し即日編集を仕事として行っていた時期があり、ここで大量の素材を短時間で選別したりカットを組み合わせてストーリーを作ったりする能力が培われた気がします。今回はそれが活きた制作でした。
スクリプト・ポエトリーリーディング
今回の映像はポエトリーリーディングに合わせたものでしたが、一次提出(8月初頭)の段階ではVOICEROIDでの読み上げにしていました。
しかし、一次提出後、自分の声で当ててみると結構ハマったので、自分の声で作成することにしました。
ポエトリーリーディングを聞きやすいものとして成立させるために音楽とのタイミング合わせが重要になります。音楽のリズムに話すペースを合わせ、一体化した音としてのグルーヴ感を保つためです。
この点、自分の声だとすぐやり直しや調整ができるため、合成音声に比べてやりやすいものになりました。
これに関しては過去に演劇をやっていたことも効いてきたかと思います。どちらかというと自分の声には自信がある方で、作品として出すことに抵抗は少なかったです。
ただし、10テイク位を聴き比べて採用テイクを決める必要があるため、さすがに自分の声に食傷気味になりました。
また、なぜか家にコンデンサマイクがあったことも役に立ちました。ガジェットオタクがこんなところで役に立つとは。
タイミング調整もスクリプトと音楽を比較しながら事前に組んでいます。
ただ読むだけかと思っていたら凝り始めると奥が深いです。
作曲
後ろで流れていた曲も自作です。
実際の心拍音を使って作りたい、というのはかなり初期から構想にあったため、それを満たすには新規で曲を作成する必要がありました。それなら自分で作るか、となったわけです。
音楽についてはピアノが少し弾けるくらいですが、家にあった鍵盤を使って即興でメロディを作るのが好きだったため、コード進行など作曲に関する理論の基礎があったのは非常に役に立ちました。
また、これもなぜか家にMIDIキーボードがあったため、打ち込み作業は速かったです。これだからガジェットオタクはさぁ。
ただ、ソフトのクセが映像と違い、慣れるのが難しかったです。
今回の制作を振り返ると、映像以外にも寄り道的にかじってきたスキルが一つにまとまって活かせたので、半生の集大成という感じで面白かったです。
スケジュール
7月くらいからぼちぼち作り始め、音楽はかなり早い段階で完成、京都ロケを8月上旬に行い、二次提出ごろには8割方できている、という状態でした。今回はスケジュール・タスク管理もそこまでシビアにはせず、途中「こんなに余裕のある映像制作なはずがない!」と叫んでいたくらいです。ギリギリの制作に毒され過ぎでは。
といっても8月後半には臨月に入っていたので、いつ生まれてもおかしくないくらいの状態です。そのため、何があってもいいように巻きで進行していたのは確かです。
映像以外のスケジュールで制約がかかる制作はあまりないので、感覚が普段とズレたのは悩みポイントでした。
……といっても容態が安定していそうだったので結局最終提出当日(2024/08/31)まで調整はしていたんですけど。
制作後の話
上映後の話
今回の作品は、オフライン映像上映イベントであるFRENZ 2024に出展された作品です。このイベントは大勢の映像作家が制作した自主制作映像を大スクリーンと爆音で楽しむ、という大変楽しいイベントになっています。
2017年に初めて参加して以来ハマってしまい、昨年までは欠かさず現地で参加しております。今年も行きたかった……
このイベントの特徴の一つとして、イベント中でのSNS投稿OKという点があります。作品上映後の壇上トークのタイミングで観客が "#FRENZ_JP" とハッシュタグをつけて続々と感想を実況しているので、会場に行かなくても雰囲気の一端を味わうことができます。
今年はさすがに出産予定週に入っていることもあり現地参加は取りやめたのですが、イベント当日はTwitter(現X)に張り付いて感想を眺めていました。たぶん自分の作品について実況した内容は全部いいねしたはず。
あとスクショも撮ってます。家宝です。
感想、書いていただけると嬉しいですね……自分も積極的に書くようにしたいです……あのハイスピードの中で文章にまとめるの追いつかないけど……
また、FRENZの感想をYouTubeで配信してくださっている方もおり、そちらも見させていただいています。ありがとう……ありがとう……
その中のひとつ、ゆたろうさんとムラタムウタさんの感想配信内で「生まれてくる子に対して一人の人間としての尊重を感じる」と言っていただけたことがすごく嬉しかったです。これからの家庭でもずっとそうありたい、言語化できてなかった自分の価値観が作品ににじみ出ていたんだなぁと感じました。
(↑感想配信へのリンク)
出産後の話
FRENZでの上映から数日後、難産ではありましたが母子ともに無事に誕生しました。Twitterでの報告でもみなさんから温かいコメントを頂き感謝しています。
実際に生まれてからの育児ですが、噂に漏れ聞いていたとおりやっぱり大変です。生活のほぼすべてが子どもファーストになり、寝かしつけてからがようやく可処分時間、といった感じで最初2ヶ月位はバランスを取るのが大変でした。
そんなときにも、この作品で描いた感情を思い出し、健やかに大きくなってねと初心に立ち戻ることができる場所ができたように思います。
以前FRENZの壇上で「FRENZはセーブポイント」と話していた方がいましたが、まさに自分もそんなように感じます。
おわりに
制作後記として振り返ってみると、これまでの人生で経験したこと、思ったこと、感じたことを当初の想定以上にぶつけてできた作品だなぁと感じます。
2年前のFRENZに出した作品を創作観でできた作品とするならば、今回の作品は半生全体での人生観でできています。次は何観になるんでしょう。世界観かな。
しばらくは育児と仕事とを両立しながらの趣味活動になるのでどうしても創作活動をする機会は減りそうですが、それでもしぶとく何かを表現していこうと思います。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。よろしければ記事に「スキ」もつけていってください!