ミッコちゃんと謎の木像(試作)
のびのびTRPG ザ・ホラー ソロプレイ・書き起こし
1人用のTRPGで、何が書けるか書いてみた。書いてみたら書けた。そういう文章です。
いなくなった家族
ミッコちゃんは巫女さんです。実家が神社なので、なんかそれが役目って感じで巫女さんをしてます。さて、社務所で頼まれていた片付けものをしていたミッコちゃんは、唐突に気づきました。気がついたら、誰もいない! 慌てて、母屋の方に行ってみますが、神主のお父さんも、台所で何かしていたお母さんも、さっき学校から帰ってきてゲームをしてた弟も、全く人の気配というものがありません。おじいちゃんは、もう神主を引退して、昼間は好きに町をぶらぶらしていますが、その姿も気配もありません。弟にはいつも鼻で笑い飛ばされてますが、ミッコちゃんにはちょっとだけ霊能力があります。(少なくとも、ミッコちゃんにとっては「ある!」んです)
窓に影
「なんで? え、どういうこと?」
いきなりの出来事に、ミッコちゃんはわたわたしましたが、霊能力を使うべく、ん!と集中して目をつむりました。つむったまぶたの裏に、何か大きなものが歩いているような姿がぼんやり映り・・・はっと目を開けると、窓の向こう、視野の端っこで、その姿の影が消えたような気がします。
「何だろあれ・・・動いてるから動物かもだけど、なんだかおかしいよ」
小さいとは言え、鎮守の森もある神社ですが、鹿やら猪が住み着いているというわけでもありません。野鳥は住み着いてますが、野良猫や野良犬は、お母さんが厳しく管理しています。いつもは夕暮れになると、ねぐらの梢でにぎやかに鳴き交わしている鳥たちの声もしません。
「ずるっずるって引きずるような音がしてた? 歩いてるって感じじゃないよ・・・」
そんな得体の知れないものを追いかけていいのか、ちょっとミッコちゃんは悩みます。
息を合わせて
「でも、私だって巫女だし! なんとかなるんじゃないかな・・・?」
影が消えた方向には、鎮守の森の入り口で小さな池があります。神社の境内の池といえば、澄んだ水がたたえられて鏡のようになっていて欲しいところですが、なぜかこの池の水は、常に緑に濁っており、お母さんにせっつかれたお父さんが、年に1回水を抜いて掃除するので、水を抜くための仕掛けがあります。でも、その水を抜く仕掛けを動かすには、2人がかりでクランクを回す必要があるのです。ミッコちゃんも手伝うことがありますが、年に1回しか使わないせいか、ものすごく動くのが堅いし、そもそも2人いないと動かせない仕組みです。
廊下の曲がり角
「あの池の中だったらどうしよう・・・」
そう思いながら、母屋の廊下を伝って裏に回ろうとしていたミッコちゃんは、ふと足を止めました。さっきまで晴れていた空が急激にかき曇り、稲光が閃いて雷鳴が響き、土砂降りの雨が降ってきます。
「キャッ!」
一瞬光った稲光で、廊下の隅に、さきほど見た影のような、大きなシルエットが浮かびます。しかも、先ほどよりはっきりと、くねって伸びる何本もの腕のようなものが見えました。
「え・・・なんかうねうねしてる・・・たこの腕?・・・でも肘あるよね」
変なところは冷静なミッコちゃんでした。
(悪霊退散!)
心の中で唱えて、廊下を進み、手探りでえいっと電気のスイッチを入れました。そこには、大きな木像があります。たぶん人間の姿だろうけど、なんだか変なポーズをとってます。「変なポーズ」としか言えない変な格好をした木像です。
「これって、おじいちゃんがこの前の東南アジアツアーで買ってきたのだ・・・」
おじいちゃんは、引退してからたまに海外ツアーにいくのですが、お土産でこの木像が家に届いたときには、お母さんがものすごく怒っていました。
ーー「こんなもの、神社においていいと思ってるの!?」
ーー「あー、旅先でピンときたんじゃよ・・・・・・これだっ!てな。で、飛行機に持ち込むの無理だったから、配達頼んだんだったよ、言わなかったかねぇ」
ーー「聞いてない!!」
お母さんがいくら怒っても、おじいちゃんはどこ吹く風でしたが、数日後にお母さんのお気に入りの店のタルトタタンを買ってきました。もちろん、ミッコちゃんの入れ知恵です。お母さんはまだブツブツ言ってましたが、ミッコちゃんもとっておきの紅茶を入れてあげて、ついでにおいしいタルトタタンをお相伴したのでした。弟は木像の変なポーズをしきりに真似しようとしてましたが、お母さんに見えないようにするのに、ミッコちゃんもそれなりに苦労したのでした。
「あれも、あんまり笑えない事件だったなぁ・・・」
思い出からふと我に返ると、あんなに存在感のあった木像が目の前から消えています。
「えぇぇっ!? なんで?今までそこにあったのに?」
廊下の隅に追いやられつつ、変なポーズがやけに目につく木像がまるごとなくなるなんて、あるでしょうか?
失われた像
「うそっ! 歩いて行ったとか。まさか・・・さっきの影はこれが歩いて?・・・え、でも木像は見た、よね・・・」
霊能力の出番!とばかりに目をつむって集中するミッコちゃんの耳に、いやにはっきりした声が聞こえてきました。
ーーこの地を守る霊獣の像が奪われたと
--まもなくここは滅んでしまうとよ
--もうおしまいだあ
知らない声です。さっきまで稲光と雷鳴、土砂降りだった庭、人の気配が全くなくてシーンとしていた外を、大勢の人がそんなことを言いながら通り過ぎる気配がありました。
「この地を守る霊獣? 滅ぶってなに?」
訳がわからなくなったミッコちゃんは、母屋の裏の鎮守の森の方ではなく、拝殿を目指すことにしました。
「うちの神社に、そんな霊獣の話なんてあったかな? ・・・ううっ巫女パワー巫女パワー」
人の姿は見えないのに、なんだかざわざわした雰囲気だけが境内には漂っています。拝殿のご神体の前にいくと、そこはいつものようにシンとした静けさがありました。
「こういう時はっと・・・」
ミッコちゃんは、来ていた装束の袖をピピッと引っ張ってピンとさせ、幣を取り上げて、神楽を舞い始めました。音楽はないけれど、慣れた動きを何度も繰り返すうちに、自分の心もシンと静まっていく気がします。ざわざわした境内の気配も徐々に静まっていきました。「滅びる」「もうだめだ」というつぶやきも徐々に小さくなり、完全に聞こえなくなったところで、ミッコちゃんは舞納めました。
「やっぱり私の巫女パワー、すごいよねー」
自画自賛です。
悪夢
「でも、家族の他のみんなはまだいない・・・あ、さっきの木像どうなったんだっけ」
拝殿から降りて、境内に踏み出しますが、さきほどの見えない人の気配も今は全くありません。鳥の声もなく、ただ静かな境内に立つミッコちゃんは、すこし心細くなってきました。
「さすがにおかしいことばっかりだよね」
また目をつむって集中してみます。ミッコちゃんの背後に誰かいるような気配と声がしました。
『なんだーうまくいかないな。せっかく来たんだし面白いことやろうと思ったのに』
目を開けて振り向こうとしましたが、なんだか背中がゾクゾクします。後ろに立っているのは黒い大きな影。踊りのようなヨガのようなポーズをゆっくりと繰り返しています。動きに従ってひらりひらりと衣装の長い飾りが揺れています。
『じいさんとはすっかり意気投合したのにさ』
盆の窪がチリチリします。見なきゃと思うのに、振り向けない。
『・・・の方は見込みありそうだったよなー 小娘はどうするかなー』
なんだか黒い影が自分の方にふっと身をかがめてくる気配がします。思わず、ミッコちゃんはうずくまって頭を抱えました。
『まぁ時間かけてじっくりってのも、ありだよなー』
黒い影の気配が背後に遠ざかっていきます。ミッコちゃんは目を開けてぱっと振り向きますが、何もいません。静かな境内のままです。
「なに・・・これ・・・」
目を上げると、拝殿脇に控えている狛犬と目が合いました。
「狛犬さん、今の何だったの?分かる?」
残念ながら、さすがのミッコちゃんの霊能力でも狛犬と話したことはありません。巫女パワーにも限界があるようです。
「どうしよう・・・」
拝殿の階段に腰掛けて、ミッコちゃんはうなだれてしまいました。急にいなくなった家族、黒い影、廊下から消えた木像・・・分からないことだらけです。
すべては夢?
「何やってんだよ!こんなとこで」
いきなり肩をたたかれて、ミッコちゃんはビクッと顔を上げました。
弟がいました。
「あれ・・?」
お母さんがお父さんを呼んでいる声も聞こえます。
「・・・え?いなかったよね?」
「何言ってんだ」
弟は、いつものちょっと馬鹿にしたような顔で見ています。
「それより、ねーちゃんはなんでこんなとこで寝てんだよ」
「ね、寝てないよ! あ、あのおじいちゃんのお土産の木像見なかった?」
「廊下の隅だろ」
「それがなくなってて!」
「いやまじ、何言ってんの」
弟について母屋の方へ向かったミッコちゃんは、例の廊下の隅に向かいました。変なポーズの木像は何事もなかったように、そこにありました。
「なんか・・・この地を守る霊獣の像がぬすまれたとか、この地が滅ぶとか・・・で、神楽舞ったら静かになって・・・」
「はぁ?れーじゅー?」
弟はすっかり馬鹿にした表情になってます。
「ねーちゃんの霊能力、やっぱ当てにならねーな。ぐうぐう寝てたじゃん。夢だろ」
「・・・」
木像の目がちらっと動いて唇がかすかにゆがんで笑みを作ったような気がしました。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「あー、将棋勝負が長引いてるらしいぜ。そろそろご飯だから呼んで来いって言われてんだったわ」
弟は、町に出てるおじいちゃんを呼びに行くようです。自転車の鍵を探しながら裏口の方へ行ってしまいました。
(次はなんとかできるように、巫女パワー鍛えないと・・・!)
無意識に木像の変なポーズを真似ながら、決意したミッコちゃんなのでした。
(終)
反省会:
「夢落ちなんてサイテー!」だが、カードの引きなのでしょうがない。
フックがあれば、何かは書ける、それが分かったのが収穫。
小さくまとめに入ってしまう・・・バカの勢いはないかも。
荒いところは極力無視して最後まで書いた。が、整合性を取りたくなるのは性か・・・
結論:
さらに勢いで書くために、スマホやタブレットにつなげるBluetoothキーボードを買うことにした。