わらじ職人さんとわらじを編む―20歳の私が見た山間のイベント
「もっとこうするのよ。」
両手をこすり合わせるだけで、5,6本のわらがあっという間に一本の縄に姿を変えます。吉村さんが縄を結うその手はまさに魔法の手のようです。実際にやろうとすると、見ている何十倍も難しいです。感覚的な部分がほとんどの中、素敵な笑顔で優しく教えてくれた女性二人は、七ヶ宿のわらじ文化を守るわらじ職人です。
「わらじであるこう七ヶ宿」に欠かせない、わらじ。この町にはわらじの文化を守る職人が3人います。今回はそのうちの2人、吉村さだゑさんと柏絹江さんにわらじ作りを教わりながら、話を聞きました。
―――お二人はいつからわらじを作り始めたのですか。
吉村さん:わらじづくりは小学生の時から。小5で戦争が終わって、くつがなかったから自分で編んで履いていたんだ。そのあとは靴の方が丈夫だから草鞋は履いていなっかったよ。 仕事しているときは、わらじを履くことも編むこともなかったよ。歳とってシルバー人材センターに入った時、わらじ編んでみてって言われてやってみたらできたからまた初めたんだよね。昔は農作業が終わった夜に編んでいたんだよ。
柏さん:昔は男性の方が、編み手が多かったですからね。女性は縄を綯うことしかやらせてもらえなかったんですって。男性の編み手がいなくなっちゃってどうしようってところで先生(吉村さだゑさん)がシルバー人材センターでやってくださって。自分も仕事を引退した後、講習会でわらじを編んでみて、私にもできるんじゃないかと思って、先生に教わりながらわらじを編み始めました。
―――講習会をやられているのですね。
柏さん:地域の小学生とか、主婦の方々に向けてやっていますね。結構たくさんの方が参加してくれているんですよ。でも続けてくれる人がいなくて。後継者がいないというのは問題ですね。教えるのは楽しいからいくらでもやりたいんだけどね。
吉村さん:わらじが編める人はみんないなくなっちゃって。
柏さん:私たちもどうしようかと悩んでいるところです。ぜひ若い人たちの力を貸してほしいです。
―――確かにわらじづくりは感覚的な部分が多い気がして、数回やっただけでは作り方は覚えられない気がします。
柏さん:最初、講習会でわらじを編んでみたとき、思っていたより難しくてびっくりしました。難しくて全然覚えられなくて。何度もやっているうちに覚えられたけどね。覚えたらもう楽しいんです。だから週に1回でも継続してやったらわらじづくりも楽しくなると思うんだよね。
―――お二人は「わらじであるこう七ヶ宿」で希望者に渡すわらじと、町に飾る大わらじを制作されているのですよね。
柏さん:大わらじは10日間ぐらいで作りおえて、わらじは、今年200足くらい作りました。
吉村さん:多いときは800足くらい作っていたよね。昔は作る人数も多くて、男の人の方が作るのが早かったから今より楽だったよ。
―――わらじを作る上で工夫する点や気を付ける点はあるのですか。
柏さん:やはり左右一緒になるように作るのは一番に考えますね。あとは、使うわらの本数で厚さが変わるから歩く楽さは変わってくるし、足の幅は均一になるように編むことは意識しています。前は足の幅を均一に編むのが難しくて、よく、「ウナギが履くわらじみたいだよ」と怒られたものです。(笑)
先生(吉村さん)はとっても上手で、どれだけ作っても先生の作るようなわらじを作ることはできません。
―――吉村さんは、わらじを編むコツなどありますか。
吉村さん:ない。(笑) 私の歳になるくらいまで作り続ければうまくなるよ。
柏さん:経験を積まなければならないってことですね。
―――わらじ文化が続くためにも後継者を見つけなくてはならないですね。
柏さん:わらじは、作るのはそう簡単ではないけれど、続けていれば作るのが楽しくなるんです。その楽しさをぜひ皆さんに知ってもらいたいですね。私たちは、教えるのは本当に好きなのでいくらだって教えますから。わらも取れなくなっているとかほかにも問題はありますけど、やっぱり七ヶ宿のわらじ文化は私たちが守っていかなくてはならないなと思います。そのためにもお祭りは続けていきたいし、若い人の作りても探さなくてはならないですね。
今回、わらじを作りながら会話の一環として、お話を聞きました。昔、七ヶ宿にわらじ文化が盛んだったころは、近所の人たちが居間に集まってわらじを作りながら交流し会話を楽しんだそうです。今回のインタビューではそんな時代の温かい雰囲気を肌で感じとれたような気がしました。肌で感じながらの会話をする機会は、直接会わずともコミュニケーションが可能になった今の時代だからこそ、必要なのではないかと思います。
ただ、履物として残っているわけではないわらじ文化を懸命な思いでつなごうとする人々がいます。このバトンは、若い世代の我々が受け取らなくてはなりません。
追記
今回、わらじ文化を守るための取り組みの一つとして、わらじに関するアンケートを実施します。できるだけたくさんの方に回答していただけたらと思います。ご協力お願いいたします。
https://forms.gle/DqpepTzKX5BqNHDM6
この記事を書いた人
小澤帆夏
東京の大学に通う理系大学生。インターンシップで2024年8月に七ヶ宿町へ。インターンシップ時は経営工学を学ぶ2年生で、七ヶ宿町一大イベント「わらじで歩こう七ヶ宿」を継承していく可能性について、自分の専攻分野を活かして考察してくれた。
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