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スピッツの新作「ひみつスタジオ」より「i-O(修理のうた)」を全力で全肯定する

プロローグ

小学生の頃、校庭を歩いていると、見知らぬ上級生の女子3人から、
「スピッツ~!マサムネ~!ロビンソン!!」
と指を差して笑われたのが、どういう勘違いかキャーキャー言われたように感じて嬉しくなり、忘れないようにと下校中、その言葉を頭の中で反芻していた。
「スピッツ、マサムネ、ロビンソン」
おかしな呪文のようなその言葉を、どれがバンド名で曲名で人物名であるかを知ったのはもう少し後、テレビで「ロビンソン」を歌っているスピッツを見た時だった。
どうやらあの女子3人が俺を指差していたのは、ボーカルの草野正宗さんとヘアスタイルが同じだったからというのがその時に判明した。
それからというもの、俺はスピッツのファンである。

というわけで、死ぬほどどうでもいい余談から始まり大変恐縮ですが、
スピッツのファンである私は久しぶりのスピッツの新譜「ひみつスタジオ」の発売に猛歓喜、すぐさまこれを求めて自室にて正座で拝聴という幸福の儀を敢行し、この上ない時間を過ごさせていただきました。
そのなかで特に好きで印象に残った1曲目、「i-O(修理のうた)」の感想を僭越ながら述べさせていただき、全力で全肯定しようと思います。
それでは……

01. i-O(修理のうた)

「ひみつスタジオ」とは一体どんなところなのだろう?とドキドキしながら待っていると、穏やかなリズムでこの曲が出迎えてくれる。
始まりを驚かせないように、いつの間にかそのスタジオに足を踏み入れていたようにごく自然に、優しいイントロ、そこへ温かな僕らの知っている草野さんの声が乗っかってきて、リズム隊が合流する。
ショーの開幕というと大袈裟だし、とびきりのミステリーツアーみたいなものとも違う、スピッツはいつだって、日常にふんわりと寄り添ってくれるようにして、僕らを誘ってくれるのだ。

タイトルの「i-O」とはアルバムのジャケットに映る、修理工らしき女性と肩を寄せ合うロボットの名前。
i-Oは一体どんな風に日々を過ごし、何を感じて生きてきて、そしてなぜ故障してしまったのか。
歌詞を読むと「ゆがみ」「荒野」「ロンリー」「偽り」「闇」と、どちらかというとマイナスな言葉が随所に見られ、i-Oが歩んできた道のりが平坦ではなかったことを想像させる。
インタビューで草野さんは

「いろんなものの不具合とかが世の中で出てきていて、特にコロナ禍で。それをまた修理しながらやっていきましょうっていう歌だと思います。」

Spotify「Liner Voice +」

と話していた。
この数年間はi-Oも僕らもたしかに傷つき苦しめられてきたし、今なお影を落としている。
思い返してみると途端に気分が落ち込んでくるし、重苦しい雰囲気が漂ってしまうけれど、この曲は決して暗い曲ではなく、文字通り「修理」するという前向きな曲だ。
たしかにあった「不具合」をきちんと感じながら、それでも「直る」し、「温かい」し、「可愛くありたい」といった歌詞たちが背中を押してくれて、僕にだってできるかもという身の丈にあった前進を示唆してくれているようで、絵空事ではない説得力がある。

「ちょっと得意げに鼻歌うたってる 頼もしい君に会えてよかった」という歌詞でこの曲を締め括っているが、それくらいのことでちょっぴり幸福になれるならと、僕らを全肯定してくれる楽曲だ。

アートワークが先にできていて、この曲は最後の方にできた曲とのことですが、作品の世界観を一番現していて、作品を象徴している楽曲のように思う。

﨑山さんが開くハイハットの音は騒がしくないのに、活気を与えてくれて、三輪さんの鳴らすカッティングが木漏れ日のようにキラキラと道を照らし、田村さんのなだらかなベースに乗って進んでいくと、草野さんの放つ高音が感情を突き刺し、言葉が僕たちに降り注いでくる。
いち視聴者とアーティストが対話できる舞台を、スピッツの4人が久々に用意してくれた。

1曲目からこのアルバムの世界に浸り、最後まで「ひみつスタジオ」を堪能していただければ、いちスピッツファンとしては嬉しい限り。

ぜひ聴いてみてください。

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