環境放射線と被ばくについて解説
※画像はスキマナースから
さて、まず最初に「放射線」という言葉から、何を連想されますか。
やはりエックス線でしょうか。
それとも、原子爆弾、または原子力発電でしょうか。
放射線に被ばくしないようにするには、病院での検査でレントゲンをとらなければよいのでしょうか。
ですがレントゲンは医療業界の進歩に大きく発展しており、治療にとって欠かせない存在ですから、実はそういう訳にもいかないようです。
今回は看護師という立場から、環境放射線というのをテーマに解説していきたいと思います。
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自然放射線の3経路
放射線といいましても、数種類のものがありさまざまな分野で利用されています。
私たちの回りには自然放射線といいまして、知らずに浴びている放射線が存在します。
自然放射線の被ばくには、次の3つの径路があります。
地殻(大地)放射線
土地や建物に微量に含まれている放射性物質から、主にガンマ線を被ばくするものを言います。
この放射線を、地殻放射線または大地放射線と呼んでいます。
放射性物質の含有量は地域差(東京で0.65mSv、大阪で0.94mSv)があり、かこう岩やそれからできるコンクリートや煉瓦などに多く含まれています。
これらはラジウムという放射性物質で、これから生成されるラドンが問題となります。
これはよく温泉の泉質に使われますのでこの名前はご存知の方も多いと思います。
宇宙放射線(宇宙線)
空から降り注いでいる宇宙線による被ばくがあります。
宇宙線は、宇宙創世の時より存在するものです。
銀河系内より発生したものが、この地球に到達します。
この宇宙線は、地球の大気によりそのエネルギーを弱められ、過度の被ばくから私たちは逃れています。
飛行機のパイロットや、宇宙飛行士は地球上よりはるかに多く、その差は実に100倍程度の放射線を被ばくしていると言われています。
天然放射線
食物や呼吸を通じて、体内に取り込んだ放射性物質による被ばくがあります。
これは天然放射性同位元素によるもので、人体に存在するカリウムがその例です。
カリウムは体に必要な元素の一つで、約70kgの人で4 gのカリウムがあり、その0.118%、0.047 gが放射性ということになります。
自然放射線の約半分を占めるラドン
これらをまとめると、私たちはただ日常生活を送るだけで、だいたい1年間に2.4mSvの被ばく線量を浴びていることになります。
これは人の一生が80年とすると、約200mSvを浴びる計算となります。
中でもラドンは、自然放射線の約半分を占めており、1年間におよそ1.1mSvの線量を被ばくしている原因物質です。
ラドンとは、地中の岩石や土に、ごく一般的に含まれているウランという金属から変質した、ラジウムという物質から放射されるものです。
ラドン温泉という温泉もあり、関節痛の鎮静化や、老廃物の排出を促す効果があります。
このラドンはガスとして存在し、コンクリートで締め切られた部屋などにはとくにラドンガスが多く存在します。
ラドンは呼吸により、肺ほうに塵(チリ)とともに沈着し、放射線を出し続けるのです。
ですからそのような部屋では十分な換気が必要となります。
核実験で残り続ける放射性降下物「フォールアウト」
ところでみなさんはフォールアウトという言葉を聞いたことはないでしょうか。
これは、大気中の放射性降下物(いわゆる塵)のことです。
具体的には、原水爆実験や原発事故などで放射性粒子が大気中に拡散してしまったものが、成層圏から長年月にわたり地表に降下するものです。
何十年か前までは、中国やフランスが核実験を行っておりました。
1981年以降は地下核実験になりましたので、地上での核実験は減少しつつありますが……
それでも、その核実験によるフォールアウトは、なんと数百年から数千年にわたって存在し続けるといわれています。
被ばくと安定ヨウ素剤
みなさんご存知でしょうか、チェルノブイリの原発事故を。
この事故によって被ばくした当時の子供達は、10年近くたったころ、甲状腺がんが多発しているということがニュースに取り上げられました。
また東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故では、日本政府が甲状腺がんを予防するため、安定ヨウ素剤を飲むことを指示していたことはご存知でしょうか。
このような場合になぜ安定ヨウ素剤を投与するのか、またどういう役割をするのでしょうか。
こういった事故の場合には、放射線物質の中に131ヨウ素という物質が発生します。
甲状腺はその機能上、ヨウ素を組織内に取り込む作用がありますが、取り込める量には限りがあります。
そのため、非放射性の安定ヨウ素剤を投与して、これ以上ヨウ素が体内に入らない、いわゆる飽和状態にすることで、甲状腺のヨウ素摂取を制限し、放射性の131ヨウ素を取り込まなくするのです。
これを甲状腺ブロックといいます。
放射線物質の半減期(弱まり方)
放射性物質も、最初は毒性が高いのですが、常にずっと高い毒性の放射線を放ち続けているわけではありません。
放射性物質が持っている放射能にも限りがあり、やがてその毒性は低くなっていきます。
どの放射性物質にどれだけの毒性があるのかは、様々な検査方法や指標があります。
その中の一つである半減期について、少し触れさせていただきます。
半減期とは、ある放射性物質の持つ放射能が半分になる時間のことですが、これが非常に長いのです。
例えば、ラジウムの半減期は1600年です。
1600年経つと放射能は半分になりますが、では3200年経つと0になるのかというと、そうではありません。
1600年ごとに1/2、1/4、1/8……と、徐々に徐々に半減していくのです。
ラジウム放射能の量が、元の量の1/8になるのは4800年後のことです。
完全に放射能が0ゼロの状態になるのは、何万年も先のことです。
先ほど述べたフォールアウトの影響も、この半減期が長いために問題となってしまっているのです。
ほかにもその放射線の種類や、エネルギー、体内動態などいろいろありますが、ここでは省略いたします。
医療現場における放射線
さて、医療の現場ではどうでしょうか。
骨折や、結核の検査としてエックス線が用いられますが、どのくらいの被ばく量で、どの程度影響があるのでしょうか。
例えば交通事故による死亡者は、年間で約1万人とされています。
日本の人口を1億人とすると、1億人中の1万人ですから、すなわち1万分の1という確率になります。
この確率は、高いと思いますか、それとも低い確率だと思いますか。
日本消化器内視鏡学会による第 6 回全国調査(2008~2012 年)によりますと、胃カメラ時の事故で死亡する確率が0.0001%とされています。
こちらも1万分の1ということになり、交通事故の死亡率と同じ確率と言えます。
しかしこれは、大人が検査を毎年1回すつ50年ぐらい検査をしたときの意味であって、1回の胃カメラをしたものでの結果ではありません。
また、千代田テクノルが発行している放射線安全管理総合情報誌(2018)によりますと、放射線技師の年平均実効線量は0.77 mSvとされています。
医師が0.29mSv、看護師が0.13mSvだそうです。
私たちはただ日常生活を送るだけで、だいたい1年間に2.4mSvの被ばく線量を浴びていることになりますが、それに比べれば医療従事者が浴びる放射線量は、意外と微々たるものとも言えそうです。
また医師や放射線技師は、常に放射線量を測定するフィルムバッジと呼ばれるものを身に着けていますので、日々の放射線量は適切に管理され、日常生活に支障をきたすことは現代ではほとんどありません。
ただし検査内容や回数によっては、年平均実効線量が20mSvも超える場合がありますので、やはり他の職種と違って被ばくリスクが高いのが事実です。
まとめ:我々は日常的に放射線を浴びている
我々は、土地や食べ物、大気など、様々な経路から日常的に放射線を浴びています。
もちろん、日常生活でその影響を感じることは、ほとんどありません。
ですが、それだけありふれた存在でありながら、みな、放射線について知る機会が中々なく、調べようとすることも少ないかもしれません。
放射線について説明するとき、なるべく分かりやすいように簡単に説明しますとかえって誤解を生じる可能性があります。
また逆に、正確に説明するにはそれこそ原子の構造から説明する必要があり、膨大な時間を費やす必要があります。
それでも、放射線について最低限の言葉として、普段あまり使わない用語や単位がでてきます。
そんなニュースを見かけた時、この単語ってどういう意味なんだろう? と検索してみてください。
まずはそこから、放射線を知りましょう。
看護師は、放射線技師ほどではありませんが、看護学校でもちろん放射線について学びます。
覚えることが沢山なので、看護師って、辛ぇわ!
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