父の日
今まで見ていた景色がひどく幼く思えた。
あなたのことを何も知らなかった。
見せまいと隠していたのでしょうか。
あなたの衰える姿を見て、私の全身は萎縮した。
久々に会ったあなたは頬が痩せこけ、「寝違えた」と言う右手は握ることがやっとで、ズボンの履こうとする左手はボタンのかけ口をごそごそと触るばからだった。
私には手探りで手順を思い出そうとしているように見えたわ。だったズボンが裏返って、ポケットの裏地が剥き出しになっていることにあなたは気づいていなかったから。
あなたの尊厳を傷つけまいと細心の注意を払うよう心掛けた。
いつしか友人と観たフローリアン・ゼノール監督の『ファーザー』を思い出した。
「庭のお手入れ、何かの便で行くことがあったらよろしくね」
あなたはそう私にお願いした。
好き勝手言って、勝手な人だと私は思っていた。
寡黙なあなたが出す些細なSOSだったのでしょうか。
やさしいあなたが抱く細やかな願いだったのでしょうか。
理不尽な現実。
それは一番あなたが感じているのでしょうか。
できていたことができなくなるのはどんな気持ちなのでしょうか。
心配をかけまいとそれを隠す心はどんなに孤独でしょうか。
私に何ができるでしょうか。
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